ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第33話

なんとか勝った試合が終わり、かなり待たされてから、俺達は初めて武田と対面する事が出来た。走り寄って来た彼は、人懐っこそうな童顔の顔に笑顔を浮かべ、いきなりパンッと俺達に両手を合わせた。

「ご免! 随分待たせた!」

ハァハァと息切れしながら上げた顔には、それでも少しやつれた色を浮かべている。他の多くのサッカー部員同様、スポーツ刈りが伸びたような髪形の彼は、汗に濡れたその前髪をかき上げた。

「急いだんだけど、監督に、捕まっちゃってさ」

それに「いいや」と手を振ろうとした俺よりも早く、新田が腕を組みながら武田に声をかけた。

「随分待ったのは勿論だし、試合の方も酷かった。寝不足だったで済む程簡単な試合じゃないのは、君が一番よく知ってる筈だよね。昭弘が棄権でもしてた方が部の為だったんじゃないの?」

さっきまでの心配そうな態度とは裏腹に、キツイ言葉を浴びせる。

――……ああ、そうだった。

こいつは小学生の頃から、こーいう奴だったんだ。出るのは心とは裏腹の、不器用な悪態ばかりで……。

子供心にも、俺は心の底では気付いてたんだ。こいつの気持ちに……。

そして、武田もきっと気付いてる。だって二人は、親友だろうから――。

「うーん。……監督にも、散々言われてきたんだよねぇ。たるんでるって」

情けない声を出してガリガリと後頭部を掻いた武田は、俺達に目を向け、ニッコリと笑みを浮かべた。

「昨日、博之から聞いた。悪いな、ジョーダンみたいな事でわざわざ来てもらって」

そう言いながらも、目は全く笑ってはいない。彼自身、「そんなバカな事が……」と思いながらも、かなり動揺しているようだった。

「いやなに。ドッペルゲンガーを甘く見るモンじゃないぜ。昔からかなり多くの目撃例が報告されている。自分のドッペルゲンガーに向けて撃った銃弾が、自分に当たって死亡した例もあるぐらいだ。その内の何件かはあんたと同じく、友人から行った憶えもない場所で見かけたと言われているよ。

最初は殆ど、背中を向けているようだな。それを何回か繰り返している内に、段々と影であるドッペルゲンガーが力をつけて、本人に近付いて来る。そして本体と影、二人が出会い目が合った時、本体の方は死んでしまう――なんて言われてる」

蒼ざめる武田を横目に見てから、俺は驚きを含んだ視線を松岡に向けた。

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