ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第29話

「それも、お前と同じ理由だよ。彼の胸の辺りを見てごらん。うっすらと汚れているだろう? 彼は保よりは身なりに気を使うようだが、一度濡れた痕っていうのはどうしても残ってしまうものなんだ。それが学校の土を少しでも含んだ水なら、尚更ね。まだ泥塗れだった子犬を抱いただろう?」

俺に目を向けた依羅さんに、頷いてみせる。子犬を拾った時間帯がバレてしまったのなら、さっき友也さんに気付かれたのと同じ過程で、授業を受けていないのに気付かれてしまったに違いない。

お手上げだと肩を竦めた俺達に、友也さんがクスリと笑った。

「やっぱり、バレてしまったね」

そう言いながら、三人分のケーキの乗った盆を松岡に渡し、自分もカップの乗った盆を手にする。

それを友也さんと共にさっきの客のテーブルへと運んだ松岡は、戻って来るなり勢い込んだ声を出した。

「新田! かく俺に任せろ」

そう言って、新田の背中を拳でトンと叩く。

「頼もしい事だね、保」

「ああ! 見ててよ、友也さん。絶対、一番いい結果を出してみせっから」

その拳で友也さんの胸を軽く小突いた松岡に、友也さんがやさしく微笑む。

「そうか。なら、期待してる」

「では『迷える子羊ストレイ・ラム』。この依頼、確かにお引き受け致します」

依羅さんの言葉に合わせて、胸に右手をあてた三人が一斉にお辞儀する。

――へぇぇ…っ!

見世物のような一指乱れぬ三人の動きに、目を瞠った俺は思わず拍手でもしたい気分になった。

お辞儀された新田は勿論の事、テーブル席の三人も頬を紅潮させ、その優雅な動作に見惚れている。

――やっぱ、変わってんな。このサ店て。

又もや好奇心を擽られた俺に、顔を上げた依羅さんが薄い微笑みを浮かべた。

しかしその視線は、すぐに松岡へと向けられる。

「明日が地区予選だという事だから、丁度いい。明日一緒に行って、試合を見ておいで。明日は私と友也も出掛けるからね。明後日の日曜、いい報告を待っているよ」

少し驚いた様子で眉を上げた友也さんを見て、依羅さんはポンと先程紙切れを入れた胸ポケットを叩いてみせた。

「こちらの子羊ラムも、中々手強そうなのでね」

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