ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第25話

二階から下りて来た友也さんを横目で見た依羅さんは、友也さんから小さな紙切れを受け取ると、それを大事そうにシャツの胸ポケットへと入れた。

「だからまぁ、此処は警察でも探偵事務所でもない訳だ。君の隣には友人も座っている。幸いな事に、他にお客もいない。この状況の喫茶店でお客に緊張されては、私達プロとしては少々落ち込んでしまうな」

首を傾げ薄く微笑んだ依羅さんに、新田が微笑み返した。さっきよりは、幾分落ち着いた感じで話し出す。

「あの、相談というのは――」

それでもやはり話し難いのか、カウンターに両手を組んだ新田は言葉を失い、唐突にこちらを向いた。

「山下、きみ、ドッペルゲンガーって、信じる?」

身を乗り出す新田に、目を見開いた俺はぎこちなく首を傾げてみせた。

俺にとって『ドッペルゲンガー』などというのは、信じる・信じないなどのレベルではなかった。只知識として知っている、程度の代物。

しかしどちらかを選べというのなら、やはり答えは『信じない』になると思う。

俺の反応に明らかに落胆した様子の新田は、今度は依羅さんに顔を向けた。それを小さく頷く事でかわした依羅さんは、身振りで話の先を促した。

「僕の友達――寮でのルームメイトの事なんです。そいつ武田たけだ 昭弘あきひろって言って、サッカー部員で俺と同じ一年なんですけど、すごくサッカーの才能ある奴で、いきなりレギュラーとかに抜擢されたんです。勿論本人も大喜びで、明日からは地区予選も始まります。

事の起こりは、二週間くらい前。サッカー部三年の小西って先輩の一言から始まりました。『昨日映画館で会ったのに、どーして無視するんだよ』って、そんな感じの事言われたみたいなんです。でもその日は一日中僕と一緒に過ごしてたんで、一歩も外に出ていないのは僕が知っています。

『俺、映画館になんか、行ってませんよ』って言っても、『いや、確かにあれはお前だった』って先輩の方も譲らなくて、その内誰かが何気なく言ったんです。『お前のドッペルゲンガーじゃないか』って。勿論その場は『そんなバカな』って笑い話になったそうなんですけど。でもそれ以来、絶対いる筈のない場所で『確かに武田を見た』って生徒が何人か現れて。最初は武田も全然気にしてなかったんですけど、いろんな人に言われるようになって。その内――」

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