ストレイ・ラム
第19話
「ああ、よかった。その歳でもう小学生の頃の記憶が欠乏してるのかと思ったよ。――越したのは東京なんだけどね、高校はこっちなんだ。今は、学校の寮に住んでる。山下こそ、どうしてこんな所に?」
どうやら、厭味な性格は変わってないらしい。
「俺もこっちに越して来たんだよ」
俺の隣でつまんなそうにしている松岡を肘で突付いて、耳元にそっと囁く。
「例の、弁護士の息子だ」
「えぇぇぇぇ、こいつがぁ?」
松岡の反応に、「あのなぁ」と頬を引きつらせる。
――あからさま過ぎだって。
まぁいいか、と心の中で嘆息した俺の気持ちも知らず、驚いた様子で一歩退いた松岡が今度は興味深げに相手を見つめた。
いきなりこいつ呼ばわりされた相手は、それでもニッコリと笑顔を浮かべ真っ直ぐに松岡の視線を受け止めている。
「どうも、新田 博之です」
「ああ。松岡保だ」
愛想のない松岡に、少し気まずい雰囲気が流れる。眉を寄せてジッと新田の顔を見つめていた彼は、相手の反応を窺うようにゆっくりと声を発した。
「違ってたら、悪いけど。お前、なんか悩み事あんじゃねぇの?」
「え……っ」
驚く新田に、軽く肩を竦める。
「……やっぱりそうか。何悩んでんのかは知らないが、睡眠が妨げられる程なら早く解決した方がいいぜ。出来るならな」
「悩み事? なんかあるのか?」
松岡と俺の言葉に、新田が沈黙する。俺をチロリと見遣った彼は、何かを言おうと口を開きかけたが、思い留まったように首を左右に振った。
「いや、なんでもない」
とてもじゃないが、なんでもないとは思えない表情を見せる。「どう思う?」と目を向けた俺に、松岡がヒョイと肩を竦めた。
「俺がいちゃ邪魔ってんなら、いなくなるからさ。こいつに話してみれば? 解決はしなくても、少しは楽になるかもよ」
親指で俺を示し、子犬を抱え直して歩き出す。しかしその松岡の肘を、新田が慌てた様子で掴んだ。
「違うんだ!」
縋るような瞳を向けた新田に、松岡が怪訝そうに振り返る。
「あぁ?」
「あ、ご免。さっきの僕の態度を勘違いしたんなら、違うんだ」
目を剥く松岡にパッと手を放した新田は、俺達の顔を交互に見ながら口篭った。
「どう、言ったらいいかが……判らないんだ」
「はぁ?」
「――解決策があるとも、思えないし」
歯切れの悪い新田の顔を見つめていた松岡が、ポンと新田の肩を叩く。
どうやら、厭味な性格は変わってないらしい。
「俺もこっちに越して来たんだよ」
俺の隣でつまんなそうにしている松岡を肘で突付いて、耳元にそっと囁く。
「例の、弁護士の息子だ」
「えぇぇぇぇ、こいつがぁ?」
松岡の反応に、「あのなぁ」と頬を引きつらせる。
――あからさま過ぎだって。
まぁいいか、と心の中で嘆息した俺の気持ちも知らず、驚いた様子で一歩退いた松岡が今度は興味深げに相手を見つめた。
いきなりこいつ呼ばわりされた相手は、それでもニッコリと笑顔を浮かべ真っ直ぐに松岡の視線を受け止めている。
「どうも、新田 博之です」
「ああ。松岡保だ」
愛想のない松岡に、少し気まずい雰囲気が流れる。眉を寄せてジッと新田の顔を見つめていた彼は、相手の反応を窺うようにゆっくりと声を発した。
「違ってたら、悪いけど。お前、なんか悩み事あんじゃねぇの?」
「え……っ」
驚く新田に、軽く肩を竦める。
「……やっぱりそうか。何悩んでんのかは知らないが、睡眠が妨げられる程なら早く解決した方がいいぜ。出来るならな」
「悩み事? なんかあるのか?」
松岡と俺の言葉に、新田が沈黙する。俺をチロリと見遣った彼は、何かを言おうと口を開きかけたが、思い留まったように首を左右に振った。
「いや、なんでもない」
とてもじゃないが、なんでもないとは思えない表情を見せる。「どう思う?」と目を向けた俺に、松岡がヒョイと肩を竦めた。
「俺がいちゃ邪魔ってんなら、いなくなるからさ。こいつに話してみれば? 解決はしなくても、少しは楽になるかもよ」
親指で俺を示し、子犬を抱え直して歩き出す。しかしその松岡の肘を、新田が慌てた様子で掴んだ。
「違うんだ!」
縋るような瞳を向けた新田に、松岡が怪訝そうに振り返る。
「あぁ?」
「あ、ご免。さっきの僕の態度を勘違いしたんなら、違うんだ」
目を剥く松岡にパッと手を放した新田は、俺達の顔を交互に見ながら口篭った。
「どう、言ったらいいかが……判らないんだ」
「はぁ?」
「――解決策があるとも、思えないし」
歯切れの悪い新田の顔を見つめていた松岡が、ポンと新田の肩を叩く。
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