ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第18話

雨の止んだ夕暮れの人込みを歩いていた俺達は、時折お互いの顔を見合わせては、溜め息を吐いた。

「どーすんの」

呟いた俺に、手の中の子犬をフリフリと揺らした松岡は、どーしたもんかと空を仰いだ。

「考えなしに拾ったりすっから、こーゆー事になんだぜ」

あの後、何人かの生徒達に訊いてみたものの、誰一人として子犬を引き取ってくれるという奴は現れなかった。

「うーん」

「これからバイト、あんじゃねぇの?」

取り敢えず現実的な問題を挙げてみる。飼い主を探してやるにしても、時間の方が問題だった。

「――まあな」

「じゃ、どーすんだよ」

「それがなぁ……」

再び唸った松岡が、意を決したように顔を真っ直ぐ前へと向けた。

「やっぱり、依羅さん達に相談してみっか」

「あの喫茶店で飼うってのはどうよ?」

「夜は誰もいなくなんだぜ? 子犬一匹残しておけるか?」

「駄目かなぁ?」

「どーかな。少なくとも依羅さんは怒りそうな気がする」

「じゃ、駄目なんじゃん」

「だよなぁ」

顔を背け合った俺達は、前方の人込みの中、俺達を見て足を止めた人物に気が付いた。

学生らしいその男は、顔を突き出すようにして俺達を凝視している。

満面の笑みを浮かべ、手を振って駆け寄って来る男に、互いの視線を交わし合う。

「誰だ、あれ」

「知るか」

「お前の知り合いだろ。手ぇ振り返してやれよ、すげぇ嬉しそうだぞ」

「阿呆かっ。あんな制服、何処の学校なのかも知らねぇよ」

「でも明らかに俺達に手ぇ振ってんじゃん。俺じゃないのは確かだよ、越して来たばっかなんだから」

「俺だって、マジ知らねって!」

案の定、俺達の前で足を止めた男に、俺達は引きつった笑顔を浮かべた。

「久しぶりだな!」

嬉しげに笑った男は、意外にも俺へと顔を向けながら言った。

「山下。キミ、全然変わってないんだな。でも昔は、眼鏡なんてかけてなかったけど」

「は?」

「僕の事、忘れた?」

覗き込むようにして俺の顔を見る男を凝視していた俺は、相手が誰なのかを思い出し、更に驚きの声をあげた。

「なっ……んだよ、お前! なんでこんなトコにいるワケ? お前が越したのって、東京の方だったろ」

俺の反応に、相手は胸に手をあて、少々大げさに撫で下ろす仕草をしてみせた。

コメント

コメントを書く

「推理」の人気作品

書籍化作品