ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第16話

「ああ、ご免。それで、俺んち庭なんてシャレたモンなかったから、近くの空き地にそいつを埋めてやる事にしたんだ。ひどい雨が降ってて、ビショ濡れになりながら土を手で掘ってた。そしたらあいつが、あの弁護士の息子が偶然通りかかって。何か俺に話しかけてきてたんだけど……。

泣き顔見られたくねぇし、ケンカなんてしたくねぇ心境だったから、そいつの事ずっと無視してたんだ。俺、インコ埋めたところに一生懸命土かぶせるんだけど、雨で流されちまって上手くいかなかった。そしたらそいつ、自分のさしてた傘、雨がかかんねぇように土ん所に置いてくれて。一緒になって土かぶせてくれたんだ。理由も解んないだろうに、泥んこになりながらさ。気が付いたらそいつ、いなくなってて。次の日学校行っても、何も言わねぇし何も訊いてこなかった。暫くしてそいつ引っ越しちまったんだけど。――結局、傘も返せずじまいだったな」

「……それが、俺を見て思い出した『あの時』?」

意外そうな松岡の声に、俺は顔を上げた。

「そう。お前を最初に見たのは、お前が雨ん中立ってるトコだったから。無意識に思い出してたんだと思う。お前とあいつって、なんか似てるから……」

「そうか?」

「ああ。学校がつまんなそうなトコとか。あいつよく言ってたんだ、『なんでこんなくだらない授業受けなきゃならないんだ』ってさ」

「小三でその心境かよ。俺の上行くな」

「今はきっと、お前の方が上だぜ。窓から飛び降りたり、教卓蹴ったりはしてないと思う。なんだかんだ言っても、あいつはちゃんと授業受けてたし」

ハハッと笑った松岡は、目を開きクシュンと小さくくしゃみした子犬を抱き上げた。

「あいつが引っ越した後。俺、なんか毎日つまんなくてさ。時々考えたりしてたんだ。あいつは、俺にとってなんだったのかなぁって」

「――それは……やっぱ、友達なんじゃねぇの?」

「そーかな」

「知らねぇよ。でも俺は、そいつよりはもう少し――素直だぜ」

「何それ?」

笑いながら軽く肩を竦めてみせた俺は、松岡の腕で小刻みに震える子犬の頭を撫でた。

「こいつ、風邪ひいてないかな?」

「さあな。なんかあったまるモンでも飲ませてやれりゃ、いいんだがな」

「お前ん家で飼うのか?」

見上げた俺に、松岡は小さく唸るような声を出した。

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