ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第13話

保健室でバスタオルを借りた俺は、子犬を洗う松岡と合流して教室へと向かった。

「なんだ、それは」

いつも以上に不機嫌そうな小山は、眼鏡をクイと上げながら言った。

「今日はお前も一緒か、山下」

眉間に皺を寄せて、俺を睨みつける。

「ああ? 知らねぇのか? コレはイヌってんだぜ。イ・ヌ。――よかったな、一つ賢くなれて」

俺と小山の間に割って入った松岡の台詞に、ピクリと小山が片眉を上げた。

「誰が、そんな事を訊いたんだ? 俺が訊きたいのはな、何故チャイムが鳴って十分以上も経ってから、ズブ濡れになったお前と山下が、そんな子犬を持って入って来たのかって事なんだよ」

「何故って……。こいつ雨ん中、放ったらかされてたんだぜ。捨てられたのかもしんねぇ。見てやってくれよ。こいつこんなに震えてんだぜ。ほら、風邪でもひいて死んだらどーするよ」

松岡が俺の腕の中の、バスタオルに包んだ子犬を抓んで小山の顔の前に突き出す。

「止せ!」

バシリと手を払いのけた拍子に、松岡の手から子犬が弾き飛ばされた。キャンと悲鳴をあげて床を転がり、壁にぶつかった。

怯えた黒い瞳が、小山を見上げる。

「バッカ……! 何すんだよ!」

信じられない面持ちで子犬を見遣った松岡が、勢いよく小山に掴み掛かる。松岡同様に驚いた視線を子犬に注いでいた小山は、しかし負けじと松岡を睨み返した。

「何するって、此処は学校だ。犬なんぞを飼う所じゃない。捨てて来い!」

「なにィー!」

ギリリッと歯を食いしばった松岡が拳でバンッ! と黒板を叩いた。その音に、ビクリと教室中の生徒達が肩を縮める。

「こいつに対して言う事はそれだけか? あんたを、同じように壁にぶつけてやってもいいんだぜ」

怒気を含んだ松岡の声音に、緊張感を伴った空気が流れ出す。

「…………」

俺には、はっきり言って松岡が何故そこまで怒り狂っているのかが理解出来なかった。しかし黒板に押し付けられている彼の拳が、次は小山へと向けられる事だけは、確実なように思えた。

「先生」

俺は震える子犬を拾い上げ、再びバスタオルに包んでやりながら小山に目を向けた。

「俺も、先生の言う通りだと思いますよ。俺が見つけてたんなら、放ったらかしてたかもしれないし」

松岡の、驚きを含んだ視線が向けられる。それを無視して、俺は言葉を続けた。

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