一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった...

来亜子

優輝と由香の恋 5

〈優輝side〉

『仲間』なんてものも、『愛する人』なんてものも、中学までいわゆる〈ぼっち〉だったこの僕が手に入れることが出来るなんて思わなかった...

あの日この校門を、なんの期待もしてないよって顔してくぐった入学式の日の僕に会うことが出来るのなら伝えたい、仲間も、心から愛する子も出来るよって...

思えば、すべては来蘭ちゃんが引き起こしてきた〈奇跡〉だったような気がするんだ。

言葉は無力だ...
とか、来蘭ちゃんは言うけれど、僕の作った曲に〈言葉の翼〉を与えてくれたのは君だった。

そしてその歌声が、どれだけの人の心に届き、そして救って来ただろうか...

来蘭ちゃんの歌声が人の心を動かすのは、彼女自身が深い苦しみや悲しみを知っているからなのだろう...そして何より、彼女はその苦しみや悲しみを自分に与えた人々を、決して恨んだり憎んだりしないという所が尊いのだと僕は思う。

神様なんてものは信じないけれど、来蘭ちゃんのその歌声だけは信じてやってきた。
あぁどうか、その歌声で由香に〈奇跡〉を起こしてくれないか...






由香の容態は、抗がん剤投与を止めたことによって、吐き気などがなくなったことで少し落ち着いたようだった。

ガラス越しの面会しか出来ない日々は続いていたが、僕は出来うる限り顔を見に足を運んだ。

僕は、由香の主治医とご両親に、由香にライブを見せてあげられないかと相談をすることにした。

主治医の見解としては、もう少し体力が戻るようならば、奏太の母親である看護師の春子さんが付き添うことを条件に許可をしてくれると言ってもらえた。そして、もうこの機会が外出許可の最後の機会になるだろうと...

ご両親も、Re Lightのライブが見たいとずっと言っている由香の願いを叶えてあげられるのならと、了承してもらえた。

僕も最初は奏太が提案してくれたライブハウス『LA.LA.LA.』での貸切ライブを考えていたのだが...待てよ?

もう10日後にはさいたまスーパーアリーナでのライブだ。

ライブは週末土日の2daysだが、金曜日はゲネプロと言って、本番と同じメニューを通しで行うリハーサルを行う。

その日なら、間違いなく今出来るRe Lightの最高のライブを由香だけに見せてあげられるじゃないか!

すぐさまRe Lightメンバーみんなと事務所側に相談をすると、みんな賛成してくれて、事務所もライブスタッフも全面的に協力してくれることになった。


ガラス越しに、備え付けの受話器を使って由香と会話をした。

「由香、今日は少しご飯食べれた?」

「うん...少しだけね」

「なぁ由香、Re Lightのライブ見に来ないか?」

「え?」

「来週のさいたまのライブのゲネプロって通しリハする金曜日、春子さんに付き添ってもらってならいいって先生に許可もらったんだ」

「ほんとに?」

由香はベッドから起き上がり、目を輝かせて喜んだ。

「2万人以上入る会場で、由香1人だけのためのライブを見せてやる!だからほら、体力つけないと!」

「あの曲...やってくれる?あたしに作ってくれたあの曲...」

「あぁ、もちろんだよ!由香に聞かせたのはピアノとギターだけだったろ?実はな、こないだ徹夜でRe Lightバージョンを仕上げたんだ!すごい素敵な曲に仕上がった...」

「あたし、天国にひとつだけ持って行くことが出来るのなら、あの曲を持って行く...」

そう言って由香は、僕が作ったメロディーを口ずさんだ。

「そんなこと...そんなこと言うなよ...僕を置いて行くなよ...」

溢れる涙は、もう抑えようがなかった...

すると由香はベッドから降り、僕らを隔てているガラスに手を当てた。僕は由香の体温を少しでも感じたくて、その手に自分の手を重ねた。そして僕らはガラス越しに唇を重ね、世界で一番切ないkissをした...


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