一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった...

来亜子

優輝と由香の恋 4

昼間は学校、夕方から深夜までライブのリハーサルという日々が続いていた。


由香ちゃんの容態は一進一退で、予断を許さない状態が続いているようだった。




「申し訳ない、入るとこ間違えた...もう一度初めからやり直させて」

滅多にミスをしない優輝くんが、さっきからミスを連発していた。

「優輝お前さっきからいい加減にしろよ!ちょっと顔でも洗って頭冷やしてこいよ!」

苛立った陽介くんが怒鳴った。

「ちょっと陽介くん!」

庇うようにわたしが声を上げると、立ち上がったそうちゃんが、私に向かって無言で首を振った...

「ちょっと休憩入れよ」
険悪な空気を断ち切るように加奈が言った。

ドラムセットから降りてきたそうちゃんが、スタジオの隅にぺたんと座っていたわたしの頭をぽんぽんっとして、スタジオを出て行った。
程なくして、いちごみるくとカフェオレを手にして戻って来ると、ストローを差したいちごみるくを差し出しながら隣に座り
「来蘭、ほら、ここにおいで」
そう言って、足の間にわたしを誘い入れた。

「陽介のあれはさ、陽介なりの優しさなんだよ」

「優しさ?」

「うん。
中学ん時バレー部で、あいつのああゆうのに何度も救われたもんだよ。
バンドもバレーボールも、仲間内でミスをなぁなぁにしてたら、簡単に歯車は狂う。
そんなことは分かっちゃいるけど、自分以外のミスをハッキリと指摘するのって、簡単なようで出来ないもんだよ...
陽介は人にも厳しいけど、自分にはその何倍も厳しい奴だからこそ、人に言える強さを持ってるんだよ。」

「そっか...」

「それにさ、ミスした時にさ、『いいよいいよ、ドンマイ』とか微妙な顔して言われるのと、ああやって『ふざけんなよ、しっかりやれ!』ってハッキリ言われるの、どっちがいい?」

「ハッキリ言われる方がいい!」

「だろ? 優輝もきっと、陽介にああやって言われたことできっと救われたと思うよ?」

「そっか...そうだよね...陽介くんって、実はすごいんだね」

「そうなんだよ、俺ってすごいんだよ」
いつの間にか側に居た陽介くんが、レモンティーをズビズビ言わせながら飲んでいた。

「うぉいっ!お前は吉井先輩かっ!」
そうちゃんがツッコむ

「あいつ本当に顔洗ってたよ。
可愛いか!ったく...
由香ちゃんの病状はなんとかなんねぇのかよ...くそっ...」

「実はね、こないだ優輝くんに頼まれて、由香ちゃんへ書いた曲の歌詞をわたしが付けたの。その曲を2人でピアノとギターと歌だけで中川さんに録ってもらったんだけど、中川さんも大絶賛の素晴らしい曲なの。その曲Re Lightで演奏できないかな...」

「水くせぇな、そうゆうことは早く言えよ、コード譜と曲聞かせろ」

顔を洗って来た優輝くんが戻ってきた。

「みんなごめん。気持ち切り替えてきたから、もう一度お願いします。」
そう言って頭を下げた。

「今日はもうライブのリハはおしまいだ!
それより優輝、由香ちゃんへの曲聞かしてくれよ。その曲、俺たちにも演奏させてくれないか?」
陽介くんが優輝くんにそう告げた。

「え?あの曲を演ってくれるのか?」

「当たり前だろ?Re Lightで演らなくてどうすんだよ!」

「ありがとう...」
声を震わせ優輝くんは続けた

「実は...由香に残された時間は...もう長くはないんだ...もう...強い抗がん剤に耐えうる体力は無くて...投与は...中止されたって...
あとはもう...残された...僅かな時間を...出来るだけ幸せな時間にしてやるしか...」

途切れ途切れに、言葉を詰まらせながら優輝くんは話し、肩を震わせて涙をぽたぽたと床に落とした...

加奈はそんな優輝を無言で抱きしめ、そうちゃんと陽介くんは、涙がこぼれぬよう上を向き、歯を食いしばっていた。

残された時間に、何が出来るのか...

由香ちゃんが今望んでいること...


「ライブ...」
わたしは呟いた。

「ライブだよ!由香ちゃん言ってたじゃない、Re Lightのライブにいつか行ってみたいって!」

わたしのその発言にそうちゃんが
「由香ちゃんの為だけにライブ演ってやらないか?大森さんに頼んで『LA.LA.LA.』貸してもらって!由香ちゃんには春子さんに付き添ってもらうように頼んでやるから!」

そうちゃんの提案にみんな賛同した。

「よし、そうなればその曲仕上げるぞ!
久しぶりの徹夜リハだなこりゃ!」

張り切った陽介くんに

「ねぇ、明日確かテストだよ?」

の、加奈の言葉に全員青ざめた...

「んなもんどうにかなる!」

根拠のない陽介くんの発言に

「いや、いちばんバカなお前にそう言われても説得力ねぇから!」
とそうちゃんが返す。

朝までかかって曲は完成し、スタジオからそのまま登校したわたしたちのテストの結果は...もちろん散々だった...

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