一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった...

来亜子

蓮との出会い 7

〈蓮side〉

来蘭のバンドのライブの日までの数日間は、なんとなくそわそわした。

いや、行かねぇし!

とか呟きながら、カレンダーを見て今日は木曜日か...とか思ってまた

だから行かねぇし!

そんなのを繰り返した。




結局来てしまった...

うわ...こんなに人気あるのかよ...
ライブハウス『LA.LA.LA.』の入り口には人が溢れていた。

「はぁ...やっと来蘭ちゃんに会える...」
と言って涙ぐむ子...

「今日はいっぱい来蘭と加奈絡んでくれるといいなぁ」
って目を♡にする子...

「来蘭加奈推しはいいよねぇー、あたしたち来蘭奏太推しは、絡みって言ったって視線が絡むのが見れるくらいだもんなぁ...ほんとの絡みは私生活でだろうし...同じ学校の子が羨ましいよー、毎日来蘭奏太のラブラブっぷりをそこかしこで見れるんだろうから...」
ってため息をつく子...

なるほど。
来蘭の恋人というのは、バンド内のメンバーなのか...
まぁ...やっぱりちょっと凹むな...

あの夜来蘭と交わした〈土曜の夜にライブに来て〉という約束を果たすためにここに来た...というのは建前で、来蘭にもう一度会いたかったっていうのが本音だった...

女子率の高さにも驚くけど、やっぱり男のファンも多い。まぁ当然だよな、あの来蘭のルックスにやられる男子は多いに決まってる。

開場になり、ライブハウスに人が流れ込む。

「今日『Re Light』のワンマンライブでしょ?それでこのぎゅうぎゅうは凄くない?デビューは卒業してからってウワサだけど、このライブハウスじゃもうキャパオーバーだよねー、会場のハコが大きくなってくのも時間の問題かもねー」

聞こえてきた会話に、急に来蘭が遠い存在に感じる...

あっという間にフロアは人で埋まった。


ステージにメンバーたちが現れる。
来蘭は赤いゴスロリのワンピースから溢れそうな大きなバストを魅せつけながら、マイクスタンドの前に立ち、演奏陣をぐるっと見回してから、片足をモニターアンプに乗せ語り出す...

.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*

Re Lightのライブへようこそ!
今日は、ここに居る一人一人のここに(と言って胸を叩く)火が灯るように歌うからね!
ついてきてよ!!
いくよ!!

.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*

いきなりHARDな曲が続く

演奏陣もすごいけど、歌...
アイツあんな小さい身体のどこからあんな声が出てるんだ...

男より男っぽい、だけどセクシーな女ベーシストと来蘭が絡むと、あちこちから悲鳴が上がった。
BLやGLといった、同性同士のそれには全く興味がない俺ですら、ちょっとあのエロティックな感じはゾクゾクした...

来蘭はギタリストともハードに絡み、キーボディストとも楽しそうに掛け合いをし、一段せり上がったドラムセットに登ってドラマーと視線を絡ませた。

ベーシスト、ギタリスト、キーボディスト、ドラマー、そいつらの眼差しを見ていたら分かってしまった。

♪。.:*・゜♪。.:*・゜

みんな来蘭に恋してるんだ

♪。.:*・゜♪。.:*・゜

5曲をノンストップで演奏したところで一度照明が落ちた。

下手からスタッフがアコースティックギターを持って来る。

ギターを抱えて、マイクスタンドの前に立つ来蘭だけを、スポットライトが照らし出す。


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆

さすがにノンストップ5曲はキツかった...
とか言ってる場合じゃないね。

これからわたし1人で、弾き語りをするんだけど、その前に少し話しをしてもいいかな...


文化祭ライブを見に来てくれた人、そのライブの生配信を見ていてくれた人は知ってると思うけど、わたしのこの右手は動きません。まさにこのステージで事故に合って失いました。

こないだね、右目の視力を失った人と出会ったんです。「手」と「目」、失ったものは違えど、やっぱり身体の一部を無くしたものにしか分からない、行き場のない悔しさとか、苦しみとかを分かち合えて、わたしはとても救われて、またひとつ強くなれました。

その人にね、今日のこのライブ見に来て、とだけ伝えてさよならしたの...
来てないかもしれないけど、その彼に向けて最後の2曲は歌ってもいいかな...

バンド名『Re Light』(リライト)に込めた想いをあなたに...
〈右側〉という世界を失っても、また心に火は灯る、一緒に歩む仲間が居るならば...

☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆


傷の手当てをしてくれた時に少し聴かせてくれたあの曲を、来蘭は静かに奏で始めた。

動かぬ右手で鳴らすギター、弱さをそっと撫で、包み込むような歌声、どう頑張ったって溢れる涙は止めることが出来なかった...

最後まで来蘭は一人で弾き語りで歌い終えると同時に、ギャンギャンに歪んだギター鳴り渡る。
悲しく寂しいピアノ...泣くようなハイポジションのベースのフレーズ...
そのダークすぎる世界観に、一気に引きずり込まれる...
来蘭の歌声が沁みてきて、すべての感覚を亡くしたはずの右目の奥が痛む...

そこへスネアの一発を合図に、すべての照明がステージを照らし、一気に曲調が変わる!!

ジャンプして飛び上がった来蘭が、一瞬スローモーションに見えて、強烈にその瞬間を収めたくて心の中でシャッターを切った...

『撮りたい...』






ライブが終わり、フロアにも人がまばらになっても、俺はそこを動けずにいた。

フロアの隅に座り込む俺の前に、ミネラルウォーターを二本手にして来蘭は現れた...

「やっぱり来てくれてたんだね」

「約束したからな...」

「蓮にあの歌を聞かせたかったんだ...蓮のここに届いたかな」
そう言って、来蘭は俺の胸を叩いた。

「届いたよ...まいったわ...」

「良かった...」
心底ホットしたように来蘭は微笑んだ。

「来蘭、俺さ、今日のライブ見ていて、ものすごくお前とか演奏してるメンバーとかを撮りたい!って思う瞬間がいくつもあってさ、カメラも持ってないのに、何度もシャッターを切ったんだ。やりたいことまで見つかっちまったよ」

「すごい!蓮!
わたし、蓮に撮ってもらいたい!
ねぇ!うちの専属フォトグラファーになってよ!」

「いや、俺、なんもカメラすら持ってねぇし」

「そんなのどうにでもなる!事務所の瀬名さんに言って揃えて貰うから心配ない!」

騒ぐ来蘭の声に、メンバーたちがやって来た。

「来蘭、何騒いでんの?」

「加奈!やっぱり蓮来てた!」

「この人が連さん?」

俺は立ち上がって頭を下げた。
「初めまして、蓮です!」  

他のメンバーも俺に続いて
「ベースの加奈です」 

「ギターの陽介です」

「キーボードの優輝です」

「ドラムで来蘭の彼氏の奏太です」

「ちょっとそうちゃん!」

分かりやすく圧をかけてきた彼に笑ってしまった。

「蓮が、わたしたちのライブの写真撮ってみたくなったって言ってくれたの!専属ライブカメラマン欲しいねって話してたじゃない?蓮にお願いしてもいいかな?」

「来蘭がそうしたいって言うなら僕はいいよ?Web担当の伊集院と連携しながら、彼が撮った写真をSNSに効果的に載せて行こうよ!」
キーボードの優輝に頷くメンバー

「よろしく、蓮!!!!!」

なんだか俺もこの『Re Light』の一員になった気がして、胸の奥が温かくなるのを感じていた。


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