一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった...

来亜子

初ライブ 9

〈奏太side〉

落とされた照明の中、俺たちは演奏をしていた。

来蘭の歌声に抱かれるようだった。

ずっと孤独の中を歩いてきた来蘭の『暗』の感情が流れ込んでくる...

真っ暗闇の地下でうずくまる来蘭の姿が浮かぶ、この1コーラス目は、何度演奏しても心がえぐられる...

光が差し込む2コーラス目に入る合図を出すのは俺だ!!
来蘭を光のもとへ、俺が連れて行くんだ!!

大サビに向かって高揚していくのが、来蘭の声から伝わる...最高にエロティックで、脳天が痺れる...


その時だった!
最前列のポール柵をくぐり、モニターアンプを蹴り飛ばし、来蘭に向かって刃物を向けて襲いかかる女の姿が目に入った!

ドラムスティックを投げ捨て、ドラムセットから飛び降りて、来蘭の元に駆け寄る...
倒れ込んだ来蘭の身体を抱き上げる...
俺の手に、ねっとりと血の感触が伝わり、無我夢中でベースを外す
「来蘭!!」
暗闇で、どこを刺されたのかわからない!
「傷はどこだ!来蘭!」
震える声で来蘭が
「右...腕...右腕が熱い...」
右腕に触れると、拍動に合わせて血が溢れている...
俺は着ていたTシャツを破って腕をキツく縛り上げた...
駆け寄ってくる井澤が
「救急車!誰か救急車を呼んで!!」と叫ぶ

照明がついて、明るくなった時に目に飛び込んできたあの惨劇のような光景を俺は忘れることはないだろう...
俺の腕の中で、みるみるうちに青白くなって行く来蘭の顔が見れなかった...
このまま来蘭が...そう思うと怖くて見れなかった...

それから救急車が到着するまでの時間は、果てしなく長く感じた...

駆けつけた救急隊員が、来蘭の傷口に巻かれたオレのTシャツを見て
「素晴らしい応急処置だ!えらかったな!」
そう言って頭を撫でてくれた瞬間に、涙が溢れた。
ストレッチャーに乗せられて運ばれる来蘭
「彼氏だろ?君だけ一緒においで」

救急車の中で、その救急隊員に状況を聞かれた。
気を失って横たわる来蘭の横で俺は、泣きじゃくりながら懸命に状況を話した。

その救急隊員は
「怖かったな...
応急処置よくやったな...
大丈夫だよ、彼女は出血性ショックで少し気を失ってるだけだから。
いいか?泣くのはここでだけにしろ?彼女が目を覚ました時に、お前が泣いていたらかっこ悪いだろ?」
そう言って、デカい手で俺の頭をまた撫でた。



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コメント

  • 来亜子

    いつもカッコイイそうちゃんも、普通の男の子なんだよね。
    そうちゃんだって泣くんだよ
    好きな女の前では泣くなよ?って言った救急隊員、かっこよかったねぇ...(しみじみ)

    1
  • ノベルバユーザー427233

    不味い、涙が出てくる…救急隊員の最後の言葉彼女の前では泣くなの言葉 泣くの今だけって言葉で泣いてしまった。泣かされたのは 初めてでした。

    1
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