小噺

間宮 

小噺 1 ケッペキ

  目の前で交通事故が起こった。軽自動車と、女性の接触。事故が多い道だと噂ではあったが、まさか事故の瞬間を見るとは思わなかった。
  宙に舞う女性の姿と、何事も無かったかのように去って行く軽自動車に、一瞬、何が起こっているのか分からなかったが、すぐに我を取り戻す。
(助けなきゃ)
逃げた自動車を追おうったって無理な話だ。自分にできるのは、人命救助の為の応急処置。救急車を呼び、すぐに女性の元へ向かう。そして、女性の容態を確認する。
  出血が酷い。腕や脚、頭も少し切れているだろうか。とにかく止血をしないと。
「……いで」
女性から声が聞こえる!意識はあるみたいだ。
「大丈夫ですよ。もうすぐ、救急車が来ます!」
意識があるなら助かる見込みはあるだろう。しかし、気は抜けない。しっかりと止血をしないと……
「触らないで」
「え?」
「止血は続けてほしいですけど……せめて手袋を……それも綺麗なので……」


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