運命に刃向かえますか?神様に歯向かえますか? 。
7、ヴァイオレット・ファリストリス・マリア
次に目を開けた時には、辺りに人が沢山集まっていた。
また、知らない人 ______ 
 そんな私に気付いたのか、安心するように皆が息を漏らし、中には涙を零し、お嬢様っ!と喜びの声を上げた。
 私は、黙っているしかなかった。私は、マリアじゃない。マリアとしての立場や、この人達を知らない。
安易に喋り、マリアでは無いと気付かれるのが怖かったのである。ぱちくりと瞬きをする度、瞳がちかちかする。やっぱり、この場所は苦手だ。
「お嬢様 ___ 良かった。」
 先程の侍女が 、涙を零しながら 抱き着いてきた。ぎゅっと、強く抱き締められる。自然と、私の目からも涙がボロボロ落ちていた。
 人の温もりなんて、心配されるのなんて、一体いつぶりだろう。気づかない内に積もった孤独は、情けないことに こんなに容易にも溶かされてしまう。
これは、誰の涙 ______ ? 
 マリアが泣いているのか、私が泣いているのか。鈴菜と云う存在がマリアに溶けてしまったのだから、きっとそれはもう2度と分からない。
 マリアも、鈴菜も、全てが私へと還ったのだ。だからこそ、苦しい。この優しさが、この 環境が。私は、或る意味マリアの人生を取ったのだから。
 罪悪感。それに近いのかもしれない。これは、マリアの人生、マリアが受けるべき愛情 。もやもやとした黒い靄が、胸の中に生まれる。私は、マリアとして生きていいのだろうか ___ ?
「 … 父様は?」
 私の言葉に、皆の表情が凍りつく。気持ちの悪い、居心地の悪い沈黙。抱き着いていた侍女さんの顔も、青ざめでいて 涙を溜めていた。
 自分でも、驚いている。私は、マリアのお父さんなんて知らない。じゃあ、何故私はこんな事を … ? 。答えは、簡単だった。マリアだ。マリアの感情なのだ。
 「 __ 主様は、ただ今 お仕事でいらっしゃっていません … 別に、お嬢様を心配していらっしゃらないわけでは、決して御座いません … 。」
 腫れ物に触れるような、そんな喋り方だった。何となく察する。皆に対し、マリアに対し "父様"と云う単語は禁句だと。
「 … うん。分かってるわ。父様、忙しいものね。」
 お嬢様と言われているのだから、口調も丁寧なのだろう。視線を落としつつ そういうと、皆が 少しポカン … としていた。
もしかしたら、何かしてしまった __ ? 
 どうしたの?と訴えるように侍女さんを見詰めていたら、ハッとした様子で 笑みを浮かべる。
「はい、しかし 今日の夕食にはお帰りになられるかも知れません。」
 会いたい。ふと、良く分からない感情に苛まれた。これはやはり、マリアなのだろう。胸に手を当てる。この鼓動は、あくまでマリアのもの。私は、今更無下にする訳にはいかない。
 __ 私は、マリアを幸せにしてみせる 。
 少なくとも、それがマリアに対しての報い。自己満足だが、幸せにしてみせると決意した。運命を定められた 、ヴァイオレット・ファリストリス・マリア 。
 可哀想な子。きっと、これまでも辛い日々だったのだろう。ぎゅっと手に力を込める。
 そんな私に、侍女さんが囁いた。
「お嬢様 、そして ___ お嬢様が寝ている間に、神官様からご報告がありました。神の声が、お嬢様に新しい名を授けるとの 事です … 」
  ヴァイオレット・ファリストリス・マリア
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