俺は男の娘ではなく女の子にもてたい

葵 希帆

 幼馴染なのになぜ彼氏が……

「怜奈に好きって言われるのは嬉しいよ。でももっと過剰に感情を込めて言われたいんだよ。例えばラノベに出てくる妹のように」

 翼がいつものように怜奈に二次元の妹を説く。
 結構頻繁にこの話が出てくるものだから怜奈も慣れたらしい。
 だから嫌な顔一つせず、ただ淡々と冷静に言葉を返してくる。

「お兄ちゃん、もう高校二年生なんだから二次元と三次元の区別をつけた方が良いよ。二次元の妹と三次元の妹は違うんだから。私は良いよお兄ちゃんの実の妹だから。どんなにお兄ちゃんが中二病でも嫌いにならないし見捨てたりしないけど。他の友達に言ったら一発で距離を置かれるからね。私、それが心配」

 長々と説教した後、怜奈はため息をこぼす。

 怜奈は妹ゆえに優しい。

 だってどんなお兄ちゃんでも嫌いにも見捨てもしないのだから。

 三次元の妹だったら完璧な妹だろう。

 でも翼が求めているのは三次元の妹ではなく二次元の妹である。

 でもこんなに心配してくれる妹を持って幸せだと翼は思う。

「やっぱり怜奈は優しいな。こんな優しい妹のお兄ちゃんになれて俺は幸せだよ」
「私もお兄ちゃんの妹で良かったわ。私のことこんなにも好きでいてくれるんだもの」

 怜奈が優しい微笑みで翼のことを見つめる。

 怜奈だってもう高校一年生だ。

 もしかしたら彼氏の一人ぐらいいるかもしれない。

 この笑顔が自分以外の男に向けられると思うと胸が苦しくなり、悲しくなる。
 でも、今は確かに怜奈がいて自分のことを好きでいてくれる。

 今はそれでも十分満足だと思う翼だった。



 その後、翼が皿を洗い洗濯物を怜奈が干し学校へ向かう。

 ちなみに洗濯は一緒に洗っている。

 この国では男女共用化、性の無差別化が進み、男女の壁がなくなりつつある。
 だから男女一緒に下着を洗うことはもちろん、トイレや更衣室、お風呂までも同じである。

 閑話休題。

 鍵は翼が閉め、学校に向かおうとすると隣の人も玄関を開けて外に出てきた。
 ちなみに翼たちが住んでいるのは六階建てのマンションの四階である。

「おはよう翼ちゃん、怜奈ちゃん」
「おはよう、伊織」
「おはよう、伊織ちゃん」

 隣から出てきた女の子は峰岸伊織。黒川高校に通う高校二年生である。
 翼と怜奈の幼馴染である。
 身長は百六十半ば。
 黒髪のロングで、長さは腰近くまである。
 毎日手入れをしているのか枝毛一つなく、まるで黒曜石のように光輝いている。
 前髪は眉のところで切りそろえられている。
 胸は推定Cカップ。
 バストとヒップは出て、ウエストはくびれている。
 まさに女性の理想の体型である。
 手足も長く、まるでモデルのようだった。

「だからちゃん付けは止めろ」

 昔の癖で伊織はいつも翼のことをちゃん付けで呼ぶ。
 翼だって高校二年生だ。さすがにこの年でちゃん付けは恥ずかしいのだが止めろと言っても止めないのでもう半ば諦めている。

「えぇーだって可愛いじゃん。翼ちゃんって」

 伊織が不満の声を上げる。

「いいじゃないお兄ちゃん。私もお兄ちゃんのことちゃん付けなんだし」

 裏切りの怜奈が伊織の味方をする。

「お兄ちゃんと翼ちゃんじゃ全然違うだろ」

 兄にちゃん付けするのと名前にちゃん付けでは全然意味が違う。

 前者は嬉しいが、後者は恥ずかしい。

 それを二人に説明しても全然理解できないのか、首を傾げている。

「まっ、なににキレているのか分からない翼ちゃんは置いといて学校に向かいますか」
「そうね。遅刻して怒られるのも嫌だし」

 伊織と怜奈は翼のことを無視して歩き出す。

「おい、待てよ」

 翼もその後を慌てて追いかける。
 この幼馴染というポジションはラノベの中では不遇のポジションである。
 なぜなら幼馴染が主人公に恋してもほとんどの場合実らないからである。

 翼にも二次元のような可愛らしい幼馴染がいる。

 美しい黒髪に、小さく可愛らしい顔。
 目はリスのようにまん丸で唇もプルプルしている。
 こんなに自分の幼馴染が可愛いのだ。

 もし自分のことが好きなら絶対にオッケーを出している。
 もし、伊織に彼氏がいなかったらの場合だ。

「良いのか伊織。毎朝俺たちと学校なんか登校して」
「どうして?」
「だってお前、彼氏いるだろ」

 そうなのだ。

 伊織には彼氏がいる。

 普通信じられるだろうか。幼馴染なのに彼氏がいるなんて。

 二次元のラノベの世界ではありえない。

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