蒼穹のカナタ

葵 希帆

 分からず屋

湯上陽子。第三魔導学園に通う高校三年生の女子生徒だ。
 身長百八十半ばと女子の平均よりも高い美帆よりもさらに高い。
 黒髪のロングで、かなり毛量が多い。
 鋭い目つきはまるで肉食獣のようだ。
 胸は美帆よりやや小さいがそれでも巨乳である。
 推定Fカップ。
 モデルような体型で、ファンの女の子も多い。
 二刀流の火属性である。
 学園ランキング三位と、美帆の次の次に強い。

 その陽子が手から炎を出しデパートを燃やしていた。

 それだけではない。

 お尻から九本の黒い尻尾が出ている。
 頭にはまるで狐のようね耳。
 まるで九尾の魔獣のようだった。

「……なんなのその姿」
「……君にだけは見られたくなかった」

 ずっと人間だと思っていた。でも人間にあんな狐みたいな尻尾など生えていない。
 いくらマナが使える人間でも、そんなことはありえない。
 ずっと親友だと思っていた陽子がまさか人型の魔獣、魔人だとは思わなかった。

「陽子、今すぐ止めなさい」

 美帆の頭は混乱していた。
 それに、陽子とは戦いたくなかった。

 親友の陽子に拳を向けられるほど、まだ美帆は大人ではなかった。

「悪いな美帆。あたしは九尾の妖狐だ。お前の命令は聞けぬ」

 陽子はなにか覚悟するかのように腰に下げている二振りの剣を抜く。
 陽子が戦闘態勢に入った瞬間、美帆も一瞬で手にグローブをはめ、戦闘態勢に入る。

 だてに学園一位の称号は持っていない。

「陽子。剣を納めなさい」
「悪いな美帆。ここでさよならだ」

 美帆の説得虚しく、陽子は右手を伸ばすとそこからソフトボール大の火の玉が放出される。

 美帆は自分の足に電気を走らせ、反応速度を上げ右に避ける。
 その一瞬後、物凄く早いスピードで火の玉が通過する。
 その威力は地面が蒸発するほどものだった。
 美帆は炎撃を避けてすぐに陽子に迫る。
 陽子は美帆との距離を空けようと後ろにステップを踏む。
 それを予測した美帆は、なにもない虚空に向かって殴りつける。

 その瞬間、そこにあった空気が圧縮され、まるで空気の銃弾のように陽子に襲いかかる。
 それを陽子は辛うじて剣で切り伏せ、難を逃れる。

「貴様の未来予知は厄介だな」
「お願い陽子。こんな馬鹿なことはしないで」
「悪いな美帆。美帆が人間であたしが魔人である以上、それは無理な話だ」
「私と陽子は親友よ。そんなの問題ない」
「甘い。あたしと美帆は一緒にいられない運命なのだ」

 美帆は陽子に叫び続けるも、陽子は聞く耳を持ってくれない。

 でも陽子も葛藤していることだけは分かる。

 陽子の苦々しい顔を見ていれば、今まで過ごしてきた時間は無駄ではないということが分かる。

 美帆が陽子に神速の速さで近づき殴打し、その拳を陽子が剣でさばき切る。
 一発一発がコンクリートの壁を壊すぐらい威力がある。
 それを剣だけでさばく陽子は間違いなく強い。
 辺りの粉々になったコンクリートなんかは美帆の風圧だけで吹っ飛んでいる。

 美帆の急な回し蹴りに陽子は二本の剣で防ぐものの、吹っ飛ばされる。
 吹っ飛ばされながらも転ばないように足で踏ん張りながら、体勢を保っている。

「陽子。こんなことは止めよう」

 美帆はまだ陽子の説得を諦めていなかった。

「うるさい」

 陽子は虚空を剣で切り裂き、斬撃を飛ばす。
 普通の魔導聖騎士でも斬撃を飛ばせる人は少ない。

 ここからも陽子の非凡さが分かる。

 美帆は未来予知をしながら、斬撃をかわしてく。
 決して美帆も楽勝なわけではない。

 一瞬の判断ミスですぐ死につながる。

 風圧だけでも髪の毛が切れてしまう。
 十分距離が空いたと判断した陽子は、右手を伸ばし今度は炎柱を何度も放つ。
 美帆はそれを避け、避けきれないものは腕で弾き飛ばす。

「どうした美帆。お前の実力はそんなもんか」
「もうー、この分からずやー」

 美帆もとうとう魔法を解禁し、右腕から雷撃を放つ。
 炎撃と雷撃がぶつかり合い、爆風が吹き荒れながら消滅する。

 その瞬間、二人はお互いに一瞬で肉薄し、美帆は陽子のミゾを打つ抜き、陽子の剣は美帆の肩を浅く切り裂く。
 殴られた陽子は勢い良く壁に突っ込んでいく。
 肩を斬られたものの、このぐらいの傷は戦場にいれば日常茶飯事なので特に怪我と言う怪我ではない。

「もう止めよう、陽子」

 美帆は陽子に手を差し伸べる。
 左肩から生温かい命の血が流れている。
 陽子は嗚咽しながら、立ち上がる。

 闘志はまだ消えていなかった。

 陽子の剣がほんの少し動く。
 ヤバいと感じた陽子は右に避ける。
 そのすぐ後に斬撃が通る。

「……速い」
「まさか避けられるとはな。大した奴だ」
「いえ、私も驚いたわ。モーションが小さい分威力は小さいけど陽子ほどの実力なら、立派な攻撃になるわ」

 もし未来予知ができていなかったら美帆も大けがを負っていただろう。

 それぐらいの威力はあった。

 今の攻撃はとにかくモーションが小さい。

 そのため、認知できない場合がある。

 陽子だからあの小さな動きで、地面を切り裂く威力だったが普通の魔導聖騎士だと地面に傷をつける威力ぐらいしかない。

 それに単発技なので、連続攻撃ができないというのも難点だ。

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