栴檀少女礼賛

マウスウォッシュ

鳥の腹の底からの雷騰

 放課後、ミカにプリント配布を任せ、マキ先輩と話し合うためにアミと一緒に図書室に向かった。


 アミが、ミカに「先輩からの質問は後で私がまとめてやるから。」と言い聞かせ、ミカにはプリント配布のみに専念してもらう事にした。


「よ、テツ。マキ委員長いる?」


「ん、あぁ。いま奥の書庫に篭ってるハズ。カウンターから、ちょっと大きめの声で呼べば来ると思う。」


「おけ。」


 僕達はカウンターに向かい、マキ先輩の名を呼んだ。すると奥の方から足音が聞こえてきた。


「人の名を、随分と気安く呼んでくれるじゃないか。」


「すみません、でもケリはつけないといけないと思うので。」


「ケリ?」


「アキバ先輩のことについてです。少し話し合おうと思って。」


「君らと話すことなんて無いよ。タイヨウは私のものだし、私が勉強を教えて当然だし、タイヨウは貴女のせいで事故に遭ったの。」


「まだそんなことを......」


 僕が依然として意見を変えないマキ先輩にガッと言おうとした瞬間、アミが静かに止めた。そしてアミが僕より前に出て、話を続けた。


「アミ先輩、貴女は図書委員長ですよね?」


「ん? そうだけど? それが何?」


「ならば、かなり本を読まれた事でしょう。」


「ん、そうだな。まぁ並大抵の人以上は本を読んでいると自負できる。」


「読んだだけですか?」


「は?」


「もう一度言います。読んだだけですか?」


「質問の意味が分からない。」


「本を読むという行為には必ず『作者の気持ちや思考を自身の中に取り入れる』ということが付随してきます。つまり自身が持ちうるリテラシーによる読解。読んで、理解する。」


「何? 貴女は私が本を読んだだけで、本から作者の気持ちや思考を理解をしてないと言いたいの?」


「端的に言えばそういう事です。貴女は紙の上の活字を目で追っていただけ。何も見識を得ていない。」


「どうしてそんな事が言えるのかしら?」


「単純な話、本をよく読んでいる人はリテラシーが高く、良識を持ち合わせていて、問題の本質を的確に捉える能力に長けている。反面、マキ先輩の今までの主張は、本を読んでいる人間とは思えないものが多くて。」


「何よ......大切な人が事故に遭って、落ち着いてなんて居られるワケ無いでしょう!」


 マキ先輩がアミの発言に対して声を荒らげた瞬間、アミはゆっくりと人差し指を唇に当てた。


「図書館では、お静かに......ですよね?」

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