ショートショート

けだま

単純で単純な

窓から入り込んできた風が、このどうしようもない熱を幾度となく冷まそうとした。しかし、全く効果を示さない。
 それどころか、更に熱は増した。
 「好きです!」
 その言葉がもう一度繰り返されたから。
 顔が瞬時に熱くなるのを感じる。俺の目の前で顔を赤く染め上げる彼女。
    ……俺は彼女に出会った日を意図せず思い出していた。
 荒れていた彼女……それは目の前の彼女の様子からではとても想像ができないものだった。本当に酷かったなぁ。……と、
 「付き合って下さいっ!」
 そんな思考もすぐに吹き飛ばされた。繰り返されたその言葉で……。
 「なぁ」
 何か言わなければいけない。そう思って口にしたもののそこから先を言葉にするのに詰まった。
 ただただ教室には沈黙が流れる。
 そして、その沈黙を破ったのもやはり彼女だった。
 「ダメ、ですか?」
 俯いている彼女から発せられた言葉が脳内で飛び交う。好き、付き合う、ダメ……。
 そんな言葉が反響するたびに頭が混乱していく。
 俺はなんて言えばいえば………………。
 ……いや、そんなものはもとから決まっていた。
 自分が目を背けていただけだった。
 不安、恐怖、怒り……。黒いその塊から。
 今もその存在を何故だか強く感じていた。だけど、言わなければならないという使命感がそれを制した。
 「俺は……」
 彼女の肩が震えるのが見えた。
 「いや、俺も……」
 その言葉に反応するように彼女の顔がゆっくりと上がっていく。
 目が合った。その目には何かしらの感情が渦巻いているのが見てとれた。
 「好きだ」
 空気が更に張り詰める。
 ……と、目の前の彼女の目から一筋の涙がこぼれ、頬を伝う。
 「お、おい!?」
 焦りをあらわにした俺を見て、彼女は自分の目からこぼれた涙に気づいたようだった。そして、彼女も慌てだす。
 「こ、これは違うからっ!」
 何が違うというのだろうか。そんな思考を察したらしい彼女は、胸の前で手をわたわたと暴れさせる。
 「な、なんでもないっ!……とにかく、よ、よろしくね!」
 締まりの無い返しに、俺は苦笑いした。彼女らしかった。
 「おう、よろしくな」
 そう返すと、彼女は赤い顔を隠そうともせず無邪気な笑顔をみせた。
 「うん!」
 ─こうして、俺と彼女は付き合うことになった。
 詰まる所、これからは俺と彼女の物語になるのだと思う。

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