死神と歩く異世界冒険録

tantan

第4話 チェストに思いを込めて!

今、充は蛙と対峙している。
外見の色は水色、形はアマガエル。

アマガエルと言われれば、体長は小さなものを想像するものだが、今の充の前にいるそれは、そんな彼の想像を軽く越えている。

「ちょっと……。蛙ってただでさえダメなのに、水色って言う色もおかしいけど、それ以上に、この大きさは反則だろう。俺と同じくらいあるよ。確か人の親指くらいとか聞いたことあるんだけど……」

彼は必死に叫びそうになるのを我慢しながら蛙と対峙していた。
何とか襲われないようにと威嚇の意味を込めながら棍棒ネモを両手で持ち構えてはいるが、全身は震えている。

「ちょっと、でもこれどうにかしないと……。とは言ってもな、蛙って昔から見るのも嫌いだったから、あまり覚えてないんだけど……」

そう言いながら彼はアールヴの言っていたことを再び心のなかに思い返してみる。
・背中に触るな
・殺傷能力は低い
彼が言っていた注意事項はこの二点のはずだ。
そしてその時、自分がなぜ蛙を世界一嫌いになったのかを思い出した。

幼少の頃に触ってしまい、親にこっぴどく怒られた記憶。
場合によっては失明などもするらしいと聞かされた時には、幼かった彼だけにショックで泣いてしまったのだ。
それ以来、とにかく蛙が嫌いになった。

「おい、多分……、コイツって背中に毒あるよね……ハハッ……」
[そう!お前、体震えてるくせに結構冷静だな!]
「あうっ、って、その声は!?」
[なんだよ、近くで見てるって行ってただろ。別に、そのまま本当にいなくなっても良かったんだけどよ~。ちょっとぐらいは見ておいた方がいいかなと思ってな。でもその調子なら何とかなりそうだな、んじゃ~、俺はまた消えるからよ。せいぜい頑張れよぉ~!]
「あっ……、ちょっとアールヴ!ちょっと……、って、そんなあっさり消えなくても……。もう少しヒントとかくれてもいいと思うんだけど……」

一瞬とは言え自身の言葉に対する答え合わせをしてくれたアールヴに感謝をしながら、充は再び彼の言葉を考え始める。

「確か、棍棒ネモを両手で構えて掛け声……」

そう言いながら彼はふと自分の右手を口許に当てた。

「あぶない。今口走りそうになってしまった。確か一日三回とか回数制限があるって言ってたな。と言うことは、どの程度の威力かは分からないけど無駄撃ちは避けたいな。」

彼はそういうと、静かに視線を再び目の前の水色の蛙に向けた。
呼吸を整え、目を合わせ静かに構える。

充が異世界に来てから初めての実践。
自分と相手の間にどのくらいの力量差があるのかは分からない。
そんな状況の中で、相手に弱いと認識をさせるのは全体に不味いと彼は考えた。
日本にいた時に見たテレビ番組では自然の動物は襲うときに相手の目を見て判断すると言うようなことを言っていた気がする。
嘘か本当かの真偽は分からないが彼は、そんなつたない知識を先ずは信じることにした。

「先手は絶対に譲れないな。でも、最初の一撃ってどこに入れるのがいいんだろ……?」

動けなくするのであれば恐らくは2本ある前足のどちらかなのだろうが、アールヴに教えてもらった技が、どういったものなのかは検討もつかない。
そして、どうせ技を繰り出すのであれば、確実にヒットさせるべきだろう。
以上のことから充が導きだした回答は……

「腹だな。それも出来れば間合いをつめて使いたい」

目の前の蛙を見て最も外さないであろう箇所は腹部であると検討をつけた。
と同時に飛び道具であるかどうかも不明なので、最悪の事態に備えて彼は接近戦での勝負をかけることにする。

「いやー、どうにも気が進まないんだよな……」

グニョグニョしてそうな見た目、表面は粘膜のようなものでおおわれているように見える。
恐らく下敷きになった場合、殺傷能力はないようなので大丈夫だとは思うが全身が得体の知れない粘膜にさらされてしまうことになる。
そうなったらどうするんだろうと言うことだけが脳裏に過っていた。
ただ、あの蛙を倒さなければ、恐らく今の自分の状況は改善しない。

「んー、どうしてもやるしかないか。仕方ない」

彼は一言そう呟くと落としていた腰を僅かに上げ、両手で棍棒ネモをしっかりと前に持ちながら走り出した。

そして、アールヴから教えてもらった言葉!

「チェストー!!!」

辺り一面に届くであろう大きな声で彼は叫んだ!
叫んだ…
叫んだのだが…


彼は蛙に強烈な一撃を与える事ができなかった。
蛙の腹は充の棍棒ネモによる一撃を吸収して、彼を逆に跳ね返していた。

「えっ?えっ?どういうことだ?何?何?何があったの?えっ?」

蛙に跳ね返されてしまった充は、空中で棍棒ネモを手放してしまう。
そしてそのまま、もんどりを打って倒れると目の前にモンスターがいるのを忘れてパニックに陥ってしまった。

「嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ……」

武器を手放し顔は青ざめている。
恐怖で体も動かない。
そしてその時、充は悟った…。
彼はアールヴ死神に嵌められたのだと言うことを。

だが悟ったとは言っても状況が好転することはない。
彼の目の前にはモンスターがいるのだ。
そして、そのモンスターは上空へジャンプをしたかと思うと、目標を彼に合わせてきた。

為すすべがない充は、この後モンスター腹部圧迫攻撃フライングボディプレスを全身がベトベトになるまでくらい浴びてしまう。


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