神業(マリオネット)

tantan

2ー50★アークとは?

俺とフェンの二人はエルメダに連れられて山小屋の中に入る。
奥の広めの部屋には、結構多目の食事が用意されていた。
恐らくエルメダ一人で頑張ったのだろうが…
若干、頑張りすぎなのでは?と思ってしまう量に感じる。


そして、俺たち三人よりも先に集まっているメンバーを見ると…
アンテロとノルドの二人だけだ。
フィリアが見当たらない。


『あれ?フィリアさんはどうしたの?』
『彼女は結構お疲れのようで、私と今後の方向性を話した後、そのまま眠ってしまいました』


俺の疑問に優しい顔でノルドが応える。
彼女の話を聞く限り、ここに来るまで心休まるときなんて彼女にはあったのだろうかと思えるほどに、彼女には色々とあったようだ。
まだ問題が解決したとは言えないが、せめて休めるときは休んでほしいものだ。


『なるほどね。確かにここに来るまで色々と会ったようだからな』
『はい。詳しい身の上などは敢えて聞かなかったのですが、それでも話している最中からベッドで眠るのが久しぶりだと何度も言っていたので…』
『だよな…うん。それで、ノルドと今後の方向性って言うのを話したってことは…彼女治るってことなの?』
『んー。元のように普通の人間として振る舞うには多少の時間はかかるとは思います。彼女の治療に使う緑色の碧玉ジャスパーの問題もありますので…』
『ん?じゃすぱー?』
『ちょっとぉ~。ナカノさん…私…お腹空いたんですけど…』


エルメダが話の間に入ってきて食事の催促をして来た。
確かに食べようと準備をしていているのに、俺の話でそれを妨害しているようにも思えるのかもしれない。


『あー、ごめんね。エルメダ!そうだよね。先ずは食事だよね?って事で…食べながらの話でもいいですか?』


俺も腹が減っていないかと言われれば、それは嘘になる。
だが、明らかに俺の知らない話の内容だけに、どうせならきちんと聞いてもおきたい。
両方を希望する俺は、少しセコいがみんなの顔色を伺いながら食事と話の了解を求めた。


みんなが無言で頷いてくれたので俺は安心して、ノルドの方に再び視線を向ける。


『はい、緑色の碧玉ジャスパーと言うのは簡単に言うと、彼女の悪い原因を取り除いてくれる石の事です。とは言っても、これだと話の方があまりにも飛びすぎているので順を追って話しますね』
『おねがいします』


俺の言葉に合わせてアンテロとフェンも顔をノルドの方に向けた。
恐らく彼らにとっても興味がある話なのだろう。


『先ず今回、彼女が宿り子になってしまった原因と言うのは、神器アークの中の聖杯が原因と言うのは疑いようもありません』
『でも、それだと…』
『どうしました?アンテロさん?』
『はい。フィリア様は宿り子になる前に呪詛にかかっていたと言われてましたが、そちらの方はどうなるのでしょうか?』
『多分、きっかけにすぎなかったと思いますよ。聖杯を使わせる為の、もっと言うと自分が聖杯を手にするための…』
『『『ん?自分が?』』』
『はい、そうです。ほぼ間違いなく呪詛をかけた本人と聖杯を手にした人物は同一人物でしょう』
『『『『えっ?』』』』


俺には、いや、恐らく他の三人にもだろう。
ノルドの言葉の一つ一つが、とんでもない爆弾に思えてしまう。
正直、フィリアがいなくて良かった。


『この中に呪詛について詳しい方はいますか?』
『少しだけ…って言うか…記録とか話に聞いた類いしか…でも…みんな一緒でしょ?』
『呪詛と言うのは普通の魔法などとは違い、特別な手段を踏むことになります。なので、その多くは禁止されているものがほとんどです。だから一般的にはエルメダさんのような意見になると思います』
『でも、だからって…なんで呪詛をかけたヤツと聖杯を手にしたヤツが一緒になるんだ?』
『それは、聖杯で呪詛を打ち消すことができたからです』
『ん?どういうこと?』
『では神器アークについて最初に話をした方がいいかもしれませんね。そもそも、みなさん神器アークと言うのは、どういったものかご存じですか?』
『えーっと、伝承とかで聞いたことくらいしか…神から貰った、とにかく凄い力が宿ったアイテムって…』
『あー、確かにフェン君の理解でも間違いではありません。ですが、もう少し掘り下げて説明しましょう。元々、神器アークと言うのは契約の箱という意味があります』
『契約の箱って何を契約するの?』
『いえ、何をと言うよりは誰がと言った方が正しいと思います。今回、契約したのは彼女です』


ノルドが親指である部屋を指差す。
そして彼が指差す先の部屋にはフィリアが眠っているはずだ。


……


全員が一気に息を飲み、横目で互いの顔を見合う。


神器アークと言うのは、みなさんもご存じだと思いますが聖杯を始めに複数個あると言われています。そして、それら一つ一つには、フェン君が言うように凄い力が眠っているのですが、ただ誰もがそれを無条件に使うことができるのかというとそうでは無いのです。神が封じ込めたと言われているその力を使うには、一定の儀式が必要で今回、彼女はその条件を満たしたと言えるでしょう。なので呪詛は、その儀式と言った方が適切なのかもしれません』
『えっ…それって、どういう…?』


俺は言葉がでなかった…


『彼女は今、眠っているはずです。この私たちの話は聞いていません。なので私は敢えてと言いますか、しっかりとみなさんには聞いておきたいのです。どうするのかはみなさんにお任せします。彼女を本当に救いたいのですか?』

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