神業(マリオネット)
2ー30★王女の回想⑯ただ待つばかり
夜も更け牢屋の窓から照らされる光もすっかり弱くなった頃。
王女は今、牢屋の隅でボーッとしていた…
何をするわけでもない、窓とは反対側の壁にピッタリとくっつきながら小さく転がっている。
以前、庭にこんな姿を取りながら器用に移動している猫を見たと意味もないことが思い浮かぶ。
何故そんな無意味な事をしているのかというと…
そんなに猫が好きと言う理由では絶対にない。
理由は二つほどあり一つ目は
彼女の考えが吹っ切れ緊張感が、すっかり解けてしまったのが一点。
誰に見られても自分は処刑されるだけ…
何を思われても関係ないという感情が彼女の中で大きくなっていた。
そして二つ目というのが…
二日ほど前、牢屋に閉じ込められた日、彼女は小さく白い何かを見つける。
気になり近づいて確認してみると羊皮紙を丸めたものだった。
外側から見てみると中に何かが書いてある。
彼女は不思議に思い、中を確認してみた。
[夜窓危険]
とだけ書いてある…
彼女にとっては全く何を意味しているのか分からない。
だが、この羊皮紙は誰かがここに意図して投げ込んだはず。
そう考えた彼女は首をかしげながらも取り合えず従っていた。
ちなみに昨日と一昨日の夜も王女は窓から離れていたのだが、別に危険なことはない。
全く変化がない三日目だけに、すっかり王女は気が緩んでいた…
そんなわけで食事も食べた後で何もすることがない彼女は、コロコロと転がっている。
幼い頃、食べて直ぐ横になると注意されたものだが…
今は注意をしてくる者が近くにいない。
食事は最低限のパンとスープのみ。
最低限、飢えない程度の食事では量が足りない。
話す相手もいない。
日に二度ほど見たこともない者が食事を持ってくるが、話しかけても無言で見向きもしない…
本も鏡もない。
ベッドと床の固さがほとんど変わらない。
睡眠は昼間に散々とったので全く眠くない。
体を拭くことも出来ない。
貰える水は飲み水以外に利用したくない。
何も出来ない…
窓から入ってくる僅かな光と通路の明かりにまじりながら、人の声が微妙に聞こえてきた。
王女の方は、もう既に自分の人生など諦めている。
なので本来であれば人の声など興味がない。
だが他にすることがない王女は興味もないが聞き耳をたててみた。
詳しい内容は不明だが、かなり多くの男が騒ぎ立てているように聞こえる。
王女のいる位置から普通の市民などが少し騒いだところで声が聞こえるはずもない。
恐らく聞こえるのは兵士や執事とかだろうとふと考える。
それに騒いでいる人数もどうやら十人、二十人どころじゃない気がした…
男達の騒ぎ声は時間がたっても全く収まる様子がない。
収まるどころか大人数が走り出す音まで聞こえてきた。
もしかしたら侵入者?
一瞬、体を起こし窓まで近づこうかなと考えるが…
そうは言っても、自分には関係がない…
王女はすぐに思い直すと再び体を倒しコロコロ転がりだした。
★★★
どれ程時間がたったろうか…
相変わらずやることがなく、コロコロ転がる王女の耳には男達の声と足音が響いていた。
そして彼女の耳に入るそれらは小さくなるどころか先程よりも一層の激しさを増しているようにさえ思える。
ただ先程とは違う点が一つだけあった。
それは光の量だ。
窓からの光は先程までは弱々しい光が一つだけだった。
だが今では窓から入ってくる光は複数確認できる。
そしてその光は全て忙しく動いていた。
まるで何かを一生懸命に探すか追っているように思える。
忙しく動く光を最初に見た時、彼女は面白半分に目で追いかけていたのだが…
それも直ぐに飽きてしまう…
今では早いところ静まってくれないと睡眠に差し支えるなどと思っていた…
そうこうしている内に次第に様々な者の声までもハッキリ聞こえだす。
先程までは明らかに男達の声だけだった。
だが、いつのまにやら女の声も混じっているように聞こえる。
それも騒いでいるのは牢屋の窓の下辺りなのだろう。
折角だし内容くらいは聞いておいた方がいいのかなと思い窓の方へ近寄ろうとすると…
どこからかミシっという音が聞こえた気がする…
あれ?
とは思いながらも…
別に今更、彼女は自分の心配などそれほどしていない。
どうせ処刑されるのだから…
ミシミシ
再び変な音が聞こえた。
そして今回は気のせいではない。
牢屋の窓の少し上の辺りから明らかに気になる音がした。
窓から聞こえる男女の声も大きくなるばかり。
これらの材料から彼女は気づいた。
牢屋の上に何かがいるのだと…
それも分厚い牢屋の壁に圧力をかけるほど大きな力を持つ何かなのだ。
そう思った瞬間、窓から翼のようなものが見えた。
見えたのは一瞬だ。
だが間違いなく確認できてしまった…
恐らくは鳥かなんかだとは思うんだけど…
そんな誰でも分かることを考えた瞬間…
辺り一面にとんでもない轟音が鳴り響く。
そして同時に彼女の前から無数の石と突風が襲ってきた。
牢屋の壁が何者かに破壊された!
幸いなことに石、突風と轟音は窓の方から襲ってくる。
なので逆側にいる彼女は壁を壊すほどの一撃は直撃していない。
とは言っても予期せぬイキナリの出来事。
「いったぁぁああ~……なっ…なっ…」
無防備な状態で壁まで飛ばされたことにより、頭を思いっきり打ち付けることになる。
無様に余裕なくただひたすらにもがく彼女。
声にならない声をあげ頭を押さえながら蹲っている。
周囲の声や音など気にも出来ない。
警戒なんてできるはずもない王女、だが苦痛の原因を作ったナニカの一撃は休まらない。
空中から勢いをつけ彼女の両肩を乱暴に掴むと、そのまま空中へと飛んだ。
事情も分からず頭の次は両肩に痛みを感じる彼女は、そのまま悲鳴をあげながらナニカに連れ去られてしまった。
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