神業(マリオネット)

tantan

2ー4★老婆と男

マッピングを開始して六日後の昼間。


エルメダと調査員の作業は想像以上に時間がかかる作業となってしまった。
ただ歩くだけなら数時間かかるのか程度の単純な道のり。
だが周囲を気にしながらのマッピングというのは実に困難な作業だったようだ。
それも湖に近づけば近づくだけ、第三者が見ている可能性は高くなる。
当然、慎重に進めなければいけないので、どんどん時間がかかっていく。
気づいたら丸三日もの時間を費やしていた。


そして三日もの時間を費やしても、トーレが言う洞窟の場所が分からない。
みんなの意見は恐らく洞窟の周辺に認識阻害を埋め込んでいるのではないかと言っていた。
もし認識阻害の関係で洞窟を見つけられないのであれば老婆が洞窟にいる。
もしくは老婆にとって何か重要なモノを洞窟に隠している。
このどちらかの可能性が大きいと言えるだろう。
俺たちはマッピングに時間をかけるよりも湖を見張る方が早いのではないかという結論に達した。


なので一通りのマッピングを終わらせ湖を見通せそうな適当な場所を選ぶ。
そこに見張りを置き何か不振な動きはないかというチェックをすることにした。
最初は不足の事態に備えて、数人で湖の見張りを行ってはどうかと考えたのだが…
マッピングで調査が完了した領域というのは、もちろん林全体ではない。
不足の事態が起きた時に、みんな一斉に行動できるほど範囲に余力はないので、見張りは一人で後は拠点に待機ということになった。
トーレとフェンが頑張ってくれた仮拠点。
遊びで来ているわけではない。
いつでも移動できる用意をしておかなければいけない。
俺はやることがなく、ただ連絡待ちの状態で欠伸を我慢していた。


『おい、いたぞ!老婆がいた。あれ…?止まった?アイツ…』


湖の近くで見張りをしていた、ティバーの一人エイジから拠点で待機をしていた俺たちに向けて魔話器マジックアイテムを通して連絡が入る。
魔話器というのは一定範囲の者と会話ができるマジックアイテムらしい。
とうとう連絡がきた!
事前打ち合わせで動く順番は決めてある。
エイジの次は俺だ。
行動を起こせる!
そう思いながら、俺はみんなを見て準備は大丈夫かと小声で呼び掛ける。
拠点にいる他のみんなも準備は万端とばかりに無言で頷く。
俺はとりあえずトーレの証言を確認とりたかったので彼女と拠点を後にしようと思う。
エイジの「止まった?アイツ…」という言葉も気になる。
ここから魔話器マジックアイテムを通してエイジに詳細情報を聞くか一瞬迷った。
だが他のみんなも情報を共有するというのを考えると。
誰か一人以上が間違った風に情報をとらえてしまう可能性も否定できない。
なるべく静かに行動するのがよいと考えた俺は、マジックアイテムを通して「今から行きます」とだけ答え、トーレを見る。
彼女に指で一緒に来てくれとジェスチャーしつつ俺たちはできるだけ急いで、かつ静かに湖の方へ向かった。


★★★


『エイジさん、ごめん。今来た』
『おうっ!ナカノとトーレさんか、まだ大丈夫だが…ほれ、あそこだ!』


俺もエイジも互いに小声で会話をする。
そして彼が指を指した方向を見ると、確かに長髪で真っ白の髪の老婆がいる。


『はい、私が前見たのあの老婆です!ただ…あの横の人は何ですか?』


彼女の証言の通りに確かに湖のところに老婆がいた。
そしてその老婆は何やら一人の男と互いに小さな袋を交換し合っているようだ。


『取引しているように見えますね。ただここからだとハッキリは…エイジさん、分かります?』


俺がそういうと、エイジは静かに魔話器マジックアイテムのスイッチを切った。


『んー、袋の方は分からないんだが…あの男の方は、どうみてもブレッグとしか見えない』


俺とトーレがエイジのとった行動を不審に思い揃って彼の顔を見つめるそばで言ってきた。


『エイジさんの知り合いということですか?』
『ワシの知り合いというか…ロスロー商会のガルド支店で働く男だ…』
『もしかしてフェンに知られたくないから、それを切ったんですか?』
『お坊っちゃんだけじゃなく、他の三人には多分、ワシが顔を見て直接言わないとパニックになる可能性があるからな。ただスイッチを切ったということは、直ぐにスイッチを入れないと今度は不安を煽ることになる。なので、ワシはこのままみんなに合流しに行くので、後の追跡は二人に任せるからな』


俺は驚きよりも納得の感情の方が強く出た。
前にフェンから、それらしい話を聞いたので、これで繋がったという印象が強い。
どうやら俺の横にいるトーレも同様の感情のようで、驚いたというよりは強く頷いた表情を見せた。


『分かりました』


エイジから俺は魔話器を受け取り、再び老婆の方へ目を向けた。
老婆は取引を行ったので、後は自分の根城に戻るつもりなのだろう。
周囲を何度も左右の様子を探るようなしぐさを見せる。


そうこうしている内に老婆は俺達と正反対の方向にある林の方へ入っていこうとしている。
当然ながらそっちの方はマッピングをしていない。
老婆を見失うとどうしようもないので、俺とトーレは迷う暇もなく老婆の後をついていくことにした。

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