神業(マリオネット)

tantan

1ー78★ラブレター

『村に帰った夜遅く村長の家に呼ばれました。普段は優しい方なのですが、その時の村長の怒りは凄まじいもので…。一晩中ひたすら怒られて「みんなに迷惑をかけるな!」とかそんなことをずっと言われていた気がします。ですが朝方まで怒鳴り散らしても私には全く平気でした。当然、村長にも私のそんな気持ちが分かったようで「次、同じ報告があったら都には行かせない!」何て言うんですよ。この言葉を聞いた瞬間の気持ちが分かりますか?』
『いや、ちょっと…何て言えばいいのか…ごめん…』


話の流れ、相手の男の子の事などを考えてしまうと良い返事なんて全く浮かんでこない。


『いえ、いいんです』


トーレが若干、首を横に曲げ微笑むように返事をしてくれた。


『バカな私は「あー、これが絶望なんだ!」とか思ったりしたんです。でも当時の私は、そんなことだけは絶対に受け入れられません。村長の言葉を聞いて私は村長に必死に許しを乞いました。何度も何度も泣き叫んで、大声でもう二度と間違いは起こしませんと懇願したんです。そんな感じで、その場は何とか許しをもらうことができましたが、私には考えなければいけないことができました』
『考えなければいけないこと?』
『はい、今後の男の子との連絡方法です。次同じような事があれば都には行かせないと言われました。それに、あの男の子は次もお店にいるとは限りません。でも連絡を取らないという選択肢もバカな私には全くなかったんです。そこでバカなりに必死に考え、ある方法を思い付きました』
『お店の人に伝言とか?』
『伝言を言うのもいいと思います。ですが用件が正確に伝わらない可能性もあります。話の内容を村のみんなに聞かれるわけにもいきません。私は羊皮紙に事を書いて、お店の人に渡してもらおうって考えたんです。』


(なるほど…手紙ってことか…)


『確かに、そっちの方が確実かもね』
『はい、そう考えたら私は直ぐに行動に移しました。次の日には羊皮紙を直ぐに用意して、何を伝えればいいのか悩んでいたはずです。どうせ伝えるなら喜んでもらえることがいいですからね。バカな私は、そんなことをしながら次に都にいく日まで男の子への思いを大きくしていきました…気持ちって一度大きくなると止められないんですよね…』


トーレは寂しそうに下を向きながら喋っている。


『そして都にいく当日、羊皮紙を用意して私はお店に行きました。ノックをして扉を開けると…なんと!そこには、いないと思っていた男の子がいたんです。あの時は本当にビックリしました。だけど、あまりビックリしすぎて一緒に来ている村の人に変に思われるわけにはいきません。平静を装いながら、いつもの用件をこなしていたんです。そしたら途中で男の子が寄ってきて、私の右手に何か入れてきました』


彼女は、そう言いながら手の甲を俺の方に向けながら右手でチョキの形を作っている。


『右手の人差し指と中指の間ってこと?』
『そうです!そこに羊皮紙を入れてきたんです。一瞬、アレって思いましたけど…でも直ぐに男の子からの伝言だって気づいたときに、私は男の子と気持ちが通じあったような気がしました。天にも昇る気持ちと言うのはこう言うことなんだと一人で勘違いするほどに。でも周りに気づかれては何を言われるかわかりません。喜びが表情に出ないように口を手で隠して、唇を噛み締めて叫びたい気持ちを我慢したんです。男の子からの羊皮紙は受け取って、今度は私の方が羊皮紙を渡す番ですから。みんなに気づかれてそのチャンスを不意にしないためにも喜びは我慢したんです』
『無事に渡したの?』
『はい、最終確認で馬車の荷物をみんなが数えているときに、私が一人お金を払うことになって、お金と一緒に男の子に羊皮紙を渡しました。最初は不振に思った男の子も直ぐに理解してくれて、声を出さないように笑顔一杯の表情を見せてくれたんです。その日、夜遅くに家に帰って自分の部屋に籠って貰った羊皮紙の中身を確認してみました。最初は読んでて恥ずかしくなるようなことがたくさん書いてあったんです。でもその気持ちが嬉しくて二度も三度も読みたくなって、気づいたら朝まで何度も繰り返し読んでました。おかげで次の日の仕事は寝坊して、こっぴどく怒られましたけどね』
『仕事?それは都の物資の運搬みたいなの?』
『いえ、物資の運搬とかは都に行った日に全て行いますので違います。通常の村の業務ということです』
『あっ…、そうなんだ』
『はい、それがきっかけで男の子とは羊皮紙の伝言は毎回交換するようになりました。互いの気持ちを羊皮紙に書いて思いを伝え合う、それを何度も何度も飽きることなく読み返す。納得が行くまで返事を考える。お店に持って行き交換する。回数を重ねる度に考える時間が増えて、気持ちの割合が大きくなっていくのがハッキリ分かって。気持ちが大きくなればなるほど、自分の中で幸せが大きくなりました。もう自分では気持ちを押さえられない所まで来たのが分かった頃、男の子も同様の気持ちになっていたようです。男の子からの羊皮紙には、ある指輪についての話が書かれていました』

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