神業(マリオネット)

tantan

1ー56★ビーチフラッグス

従属モンスターに狙いを絞らせたくはない。
なので俺は真っ正面から、セアラは左から回り込むように走り間合いを詰めることにした。
モンスターは一瞬どちらに狙いを定めればいいのか躊躇したように見えたが、すぐに左手を俺の方へ右手をセアラの方へ向けると蔦を勢いよく伸ばして俺とセアラを掴みにかかった。
俺は片手を、セアラは槍を蔦に絡ませて踏ん張ることに成功。
思っていた通り力は強くないようだ。
これなら粘れると思いアンテロに合図を送る。
アンテロも了解したようで俺たちをサポートしには来ない。
モンスターから身を交わしてヘンリーの方へ向かうべく右に回り込むように距離を取り出した。




『さーてとっ…セアラさん、こいつ見てくれ通りと言うか、力はあまり強くないみたいですね』
『そうだね、毒があるようにも見えないし、一気にいこうか!』


モンスターまでの距離は俺が自分の腕を絡ませている分だけ近い。
俺はモンスターが絡ませてきた蔦を逆に利用するようにして距離を詰める。
だがセアラの方はモンスターとは距離を詰めていない。
槍先はモンスターの右手に絡まったままなので、モンスターは次第に俺とセアラの両方から引っ張られる形となった。


『よーし!そのまま、もう少しで間合いに入る!』


両手を絡ませているモンスターは身動きをとることができない。
俺は自分の間合いに入ったらナイフの一撃をくらわせてやろうとジリジリと近づいていった。
後もう少し、ほんの2歩か3歩で間合いに入ると思ったその時…


『セアラ様!後ろ!危ない!』


ヘンリーとラゴスの方へ先に向かおうとしていたアンテロがイキナリ叫びだす。
俺は何事かと思って彼女の方をみると、先ほどまで俺とセアラに引っ張られていたモンスターが向こうの方から一気に距離を詰めてきた。
俺は予測できずに、みぞおちに一撃をもらってしまう!


モンスターの捨て身の一撃!


俺は腹を押さえて踞り何故だと思い原因を探すべく辺りを見渡す。
すると左側に槍が転がっているのを見つけた。


(あれは…確か…セアラの槍…?)


槍を持っていたはずのセアラがいない。
どうしてだろうと思い再び周囲を見渡した。
すると若干奥の方にセアラが倒れているのが見える。
何かに足をとられたか引っ掛かったかしたようで、注意してみるとどうやら根のようだった。


(根…?もしかして…)


そう、あれは間違いなく先ほどまで俺とエルメダが苦しめられていた根だ。
モンスターの方も俺とエルメダが根から脱出したのはとっくに気づいたはず。
粘液まみれになったとは言え、それは根の全部がと言うわけではない。
もちろん、動かせる部分も存在する。
粘液の処理がすぐに対応できないと思えば、開き直って阻害行為を再び開始することも予想できたはずだ。


『くっそ…マジか…』


俺は心の底から悔しさが込み上げてきて仕方がなかった。
だが、そんな俺の心に余裕をくれるほど戦闘と言うのは優しいものではない。


『ギギギィィィ~!』


先ほど俺に痛恨の一撃を浴びせてきたモンスターが近づいてきた。
ヤバイ、とは思って身を翻してみたが無駄な抵抗のようだ。
しっかりと馬乗りマウントポジションをとられてしまった。
モンスターも自分が有利な体制と言うのは分かるようだ。
だが少し前のやり取りで力がないのは分かっている。
押し合いや単純なつかみ合い程度なら何とかなるような気がした。
モンスターの方も同様の感覚を覚えていたのかは分からない。
だが何かよい策はないかと思い辺りを見回していた感じはする。
少しして良い策があったのか目を思わせる黄色い光が、にやけるように細長くなった。


そしてモンスターは右の方を振り向くと、セアラの槍が転がっている地点を凝視していた。


(おい、おい、この体勢でビーチフラックスでもやれって言うのかよ…冗談だよな…)


モンスターは槍を見た後、再び俺に視線を戻してきた。
その視線は「おい、お前。用意はいいか?」と言っているように見える。


俺とモンスターの間で目線が重なり一瞬の沈黙の後、緊張しながらゴクリと唾を一度飲む。


どこからか[カーン!!]というゴングの音と[レディゴー!!]という掛け声が同時に聞こえた気がした。


先手はモンスター!
スタート位置が馬乗りマウントポジションとなっているだけあり、ワンテンポ俺よりも行動が早い。
すかさず立ち上がり勢いよく駆け出そうとしていた。


一方俺は仰向け状態からのスタートなので、走り出そうとするとモンスターに遅れをとってしまうことになる。
仮に走り出そうとしても距離が短いのでモンスターの前に出れる自信がない。
なので俺はモンスターと競争するのを諦める。
モンスターが立ち上がり走り出そうとする瞬間を見計らって、全身を活きのいい海老のごとくしならせた。
一か八かのかけだったが運よく俺の左手がヤツの左足に引っ掛かった。
引っ掛かった左小指からピキッという音が一瞬した気がしたが、そんなのは関係ない。
千載一遇のチャンスとばかりに、そのままモンスターの左足にしがみついた。
笑われようが、無様と言われようが、そんなのは全く気にもしない。
自分が生き残る方法として最善の方法を選んだつもりだ。


モンスターにとって俺の行動は予想外らしい。
競争にはなると思っていたのだろうが、足を取りに来るとは思っていなかったようだ。
足をとられると受け身もとれない体制のまま腹を直撃するように転げ落ちた。
だがモンスターも腹を打ったぐらいでは怯まない。
左足をとられたまま俺を貫くべく槍の方へ一直線に進もうとしている。
俺はとられないように、一秒でも長く自分が生きるために、モンスターを進ませないように頑張った。


そんな俺とモンスターのサバイバルに決着をつけてくれたのが、やはりアンテロだ。

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