神業(マリオネット)

tantan

1ー42★アンテロの性格

俺とエルメダ、そしてアンテロの三人一緒での晩御飯は終わった。
晩御飯の後はアンテロが食器などの片付けをしてくれて、エルメダは明日は討伐に行けるのかと言う確認を含んでの話し合い。
ハッキリ言って晩御飯の時間は本当に楽しかった。
お陰で普段の晩御飯が、どれ程いい加減なのかを実感できたと思う。
思い返してみると、いつもは塩とギーを作るのに買い置きをしているバターと黒パンだけで済ませていることが多い。
野菜どころか肉や魚なんてものもほとんどとっていないように思える。
20代の時とかは、それなりに食生活も大切だなとは思っていたのだが、どうも独り暮らしを始めるとね…
そんなこんなで、晩御飯がありがたかったのは事実だが、本当の意味での話の本題についてはこれからだと思う。
エルメダは話し合いが済むと安心して丘を下ったところの孤児院に帰っていった。
そして今はアンテロと二人きりということになる。
問題のアンテロはというと…
俺の座っている椅子の前で膝をおり両手と額を地面につけている。
いわゆる土下座と言うやつだ。


『申し訳ございません。ナカノ様!他に方法がなかったのです』
『だからと言って強引にも程がありますよね…』
『旅の準備が済むまでの間だけで結構ですので、許可をいただけませんでしょうか!』
『旅の準備って…具体的にはどのくらいの期間とか、どうやって整えようとかは考えているんですか?』
『はい、今日お嬢様と二人で話し合いました!』
『へー…どんなことですか?』
『明日から私とお嬢様、それにナカノ様の三人で一緒にパーティを組んでいきましょうということで!』
『えっ…?俺とエルメダと三人でパーティを組む?ん?いや、さっきエルメダはそんなこと一言もいってなかったよ』
『ですが…昼間、お嬢様は大丈夫と仰っていました。三人でパーティを組んで私の力になると!』
『ちなみにアンテロさんって…冒険者とか戦士とか魔法使いみたいな戦闘職を身に付けて旅をしたいってことなの?』
『最初はそのような考えは全くなかったのですが、ナカノ様のお家に置いていただけるのであれば、時間もあることですし戦闘職にチャレンジをしてみるのが良いと思いまして』
薬師くすしの職業は捨てるってこと?』
『はい!今後、旅と言うものを考えた場合、戦闘職の方が良いかと思います』
『ダメダメダメ!それは絶対ダメです!勿体無さすぎます!薬師くすしは絶対に捨てちゃダメです!』
『では…他に方法があるんでしょうか…?』


アンテロはパッと見た限りでは思慮の深そうな女性に見える。
というか…今まで俺はそう思っていたのだが、今日のこの話し合いで意外に無鉄砲な所もあるようだと実感した。
むしろアンテロとエルメダの二人での話し合いと言うのが危険なのかもしれない。


『今日、俺の方はフェンの所に顔を出したんですけど、フェンの考えでは旅の資金を作りたいのであれば、薬師くすしを有効活用するのが最も良い手段だと言われました。アンテロさんって、ポーションは作れるんですよね』
『はい…作れますけど…』


目をパチパチさせて、首を微妙に傾けながら不思議そうにアンテロが頷いてくれる。
この仕種だけ見ると本当に可愛いのだが…


『それならポーションを作って売るのが一番効率が良いのではということになったんです。それに製薬ギルドの登録もまだですよね?ギルドの登録をすれば、他の薬の売買や情報とか色々と分かるかもしれないので、都合が良くなるかもしれないとも言っていましたよ』
『なるほど!確かに一理あるかもしれませんが、私にできるでしょうか…』
『実際行動をしてみないと詳しいことは分からないと思いますけど…』
『そうですね!ではやってみることにします!ナカノ様、私の為にフェン様に相談していただきありがとうございます!私の方もお家でお世話になることも踏まえて、ナカノ様の力になるべく精一杯の努力をしていきたいと思います』
『えっ…お家でお世話になるって…具体的にいつまでなの??』
『いつまでと言われましても、実際に動いてみないと詳しいことは…』
『確かにそうですよね…』
『えっと…ナカノ様は、私が家にお邪魔していると迷惑なのでしょうか…』


先程までは俺の方を見て話していたアンテロが、突然下を向いて声のトーンを2つ位落として話し出した。


『ナカノ様が元々私の事など嫌いで、どうしても私の事を家に置きたくないと言うのは薄々ですが感じてはおりました…』
『えっ…俺…そんな雰囲気出していましたか…?』


全く見に覚えのない態度に俺は不安になり、アンテロの表情を見ようとしたが、アンテロは俺と全く目を合わせてくれない。


『はい…ですがお嬢様もフォローしてくれるとは仰ってましたので…スッカリその言葉に甘えてしまっていたのですが…やはりナカノ様は今すぐにでも出ていけと仰るのですね?』


アンテロの声のトーンが一層低く…声も小さくというか震えているようにも聞こえる…


(あれ…?泣いてるのか??)


『いやっ…別に嫌ってなどいませんよ…』


なんか変な誤解を生みそうだし、とりあえずは否定しておこうと思いアンテロに声をかけるのだが、こっちを向いてくれない。


『嘘です…その言葉には嫌いだという感情がのっています…』


アンテロが震えながら返答している。


『そんな事はないですから…力になるって言ったじゃないですか?ねぇ?』
『本当に嫌っていませんか…?』
『はい、嫌ってませんよ』
『でも迷惑なのは変わらないですよね?追い出したいですよね?』
『えっ…そんなハッキリと…は…』
『ハッキリと仰ってください!追い出したいと!力になると言ったのは方便だと!』
『力になるつもりなのは本当ですよ』
『それでも、やっぱり追い出したいんですね…』
『いや…別にそれは…』
『追い出したいとハッキリ言ってください。お前なんかどこで野垂れ死にしても構わないとハッキリ言ってください。』
『えっ…そんな事言えるわけ…』


俺がアンテロの言葉に言い淀んでしまった。
その隙と言えばいいのか…俺が色々な反応に躊躇していたら、アンテロが俺の右足にイキナリしがみついてきたのだ。


『お願いします!ナカノ様、絶対に迷惑はかけません。ナカノ様しか頼れないのです…』


(この光景…どこかでみたな…)


アンテロは正に渾身の力のごとく俺の右足にしがみついている。
先日体験した記憶が蘇ってきた。


『ちょっと…アンテロさん…冷静に話し合いましょう?ねっ?』
『嫌です!ナカノ様が了解してくれるまで絶対に離しません!』


(こうなると絶対に離してくれないんだよね…)


さすがに二度目の体験だけに俺は今回、無駄な抵抗はしないことにした。


『分かりました、アンテロさん。出ていけ!なんて事は言いませんよ…』
『ほっ…本当ですか…?』


これも分かっていたことだが…
自分の都合の良い言葉には非常に敏感なアンテロ。
俺の妥協を聞いたかと思うと、一瞬で俺の方を向き満面の笑顔を見せてくれる。


(かなり現金な性格だよね…)


『その代わりしっかりと話しはさせてもらいますからね!』
『はい、勿論でございます』


明日こそは冒険者ギルドに足を運ぼうと思ったので、早めに寝たかったのだが…
はたして睡眠時間はじゅうぶんにとれるのかと不安に思いながら、アンテロとの話し合いに望むことにした。

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