神業(マリオネット)

tantan

序ー2★ノルド

大男と15分ほど歩いていくと1軒の山小屋があった。
中にはいると5つほどの部屋が確認でき、男一人が住むにはじゅうぶんすぎるように感じた。
私が入り口をくぐると大男は一番奥の部屋にある椅子に座り、俺には隣の椅子に座るように言ってきた。


『自己紹介が遅れました。私はノルドと言われています』


(は?今、「言われています」と聞こえたんだけど…もしかして偽名ということなのか…)


見た目も怪しそうに見える大男の言葉に警戒感を一際大きくした。


(だが事を荒立てても仕方はない。
それに森で立ち往生の俺を案内してくれたという事実に、こちらも自己紹介を返さなくては失礼に当たるのではないか)


『森の中で迷子になっている中、避難させていただきありがとうございます。
私の名前はナカノアタルと申します。
助けていただきお手を煩わせてしまいますが、現状を確認したいので色々と教えていただけないでしょうか』


確かに俺の前にいるノルドは見た目も言動も怪しいところが多い。
だがそれ以上に今の俺は分からないことが山のようにたくさんある。
そして情報元は目の前にいるノルド以外には考えられないので俺はノルドに訪ねることにした。


『先程、森で見かけたときは何も考えられないし、分からないといった顔でしたからね。
はい、答えられる範囲で良ければ何でも答えますよ』


俺の問いに対してノルドは意外というか丁寧に応えてくれる。
そうは言われたが現状が全く掴めないだけに何から問えばいいのかも検討もつかずに困っている俺の方へ、ノルドの方から質問が飛んできた。


『貴方は登録をしていない方ですか?』


(登録って聞かれたんだけど…何それ?
もしかして職業のことなのかな?)


『職業は会社員です!』


俺はノルドの目を直視してハッキリと大きな声で言うと、ノルドは目を丸くして不思議そうな顔で俺に質問を返してきた。


『カイシャイン?というのは最近発見された新しい職業なのですか?』


(最近発見された会社員ってなんだ?
確かに会社員は職業には違いないけど…でも新しい職業って…
このノルドという男は何をいっているんだろう?)


お互いに見合う表情から俺とノルドはお互いの会話が噛み合っていないのを理解したので、ここは話題を変えようかと思う。


『先程貸していただいたネックレスなのですが…』


と途中まで喋るとノルドが俺の言葉を遮るように発言してきた。


『そのネックレスは決してはずさないでください。
外してしまうと恐らく会話ができなくなると思います。
多分、この部屋の壁に書いてある文字も読めないですよね』


(この壁にあるミミズの這ったような模様って文字なのか?
確かに文字なら読めないけど、ノルドは何故その事が分かるんだろう。
どちらにせよノルドは情報を知っているようだから時間が許す限り、先ずはノルドの話を聞くことが先決なのだろう。)


ノルドはここまで言うと一呼吸空けて上を見た後、大体の事情は飲み込めたという表情で再び口を開いた。


『ナカノアタル様、本日はもう遅いので泊まっていってください。
たいしたおもてなしはできないですが、状況をある程度は説明することなら出来るはずです。』


俺の思った通りノルドは何かを知っているようだ。
ノルドの丁寧な言葉に信頼してもいいかなという感情を抱きながら俺も返答した。


『助けていただいたのは私の方なので、呼び捨てにしていただいて結構です。
こちらこそ出来るだけの現状は把握しないといけないと思っているので、本日は宜しくお願いします。』


いつのまにやら夜も遅くなっている。
俺の理解が先なのか夜が明けるのが先になるのか、不安を覚えながらノルドの話に耳を傾けることにした。

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