ー月曜日ー 裏道カレイド

ノベルバユーザー399011

−2− ミラーハウスでの入れ替わり

 2.
 …ウワサ。
 《ミラーハウスでの入れ替わり》
 ミラーハウスから出てきたあと、「別人みたいに人が変わった」って人が何人かいるらしいよ。
 なんというか、まるで中身だけが違うみたいだって……。


 …
 裏野ドリームランドに着くまでの山道。その永遠とも取れる長い時間。黒屑さんが遊園地に伝わるウワサについて解説してくれたおかげで、ただ無言で歩き続けていたとしたら相当に苦行だっただろうけど、気を紛らすことができた。黒屑さんは熱狂的なファンというだけあって、この遊園地の知識が豊富で、噂にも詳しいようだった。
 とは言うものの、噂の大半は、呼吸を整え列についていくのに必死で聞いている余裕はなかったが。
 どうやら、今回の謎解きツアーには、少なからずそのウワサが関わっているようなのだ。招待状にもそんなようなことが書いてあった。持って来るのを忘れてしまった。
 黒屑さんが言うには、今回の謎解きツアーは、まだ裏野ドリームランドが廃園になっていない時の、閉園時に行われるはずだった夜間ミステリーツアーの原案が元になっているとのことだ。
 美術館や動物園の閉館後、閉園後に行われる謎解きツアーがあるのを、そういえば聞いたことがあった。遊園地にもそういうものがあってもおかしくはない。


 ツアーガイドの溝朽さんがツアーの説明のようなものを続けていた。


「私は裏野ドリームランドでアクアツアーのガイドを担当していたこともありますので、スタッフしか知らない裏野の裏話も交えてお話しさせていただければと思います。宜しくお願い致します」


「はいはーい」
 ガイドの話を遮って手を挙げたのは黒屑さんだった。
「私はUDLのこと、大体知ってるので、今日はこれだけを教えてくださいよ。どうしてUDLは廃園しちゃったんですか? もしかして、例の噂の、ジェットコースターの事故のせいで……」


「それについても、今回のミステリーツアーをクリアーしていただければ、ご納得していただける回答が得られると思います」
 溝朽さんはにこやかに答える。
 ジェットコースターの事故? 穏やかではない。


「へーえ、そうなんだ。それは楽しみね〜」
 そう言って、黒屑さんは入り口の写真をスマートフォンで撮影していた。ファンサイトのブログでも書くためのものだろうか。
 しかし、ブログなんか書いてそうもない沫河が同じようにスマートフォンで写真を撮っていた。
 インスタグラム? ははは。まさか。


「沫河、この遊園地が廃園になった理由に、興味があるか?」
「……特に今の所はないわね」
「だよな」てっきりミステリーツアーの景品は、ここまでの冒険が宝物だ! 的な精神的なものだと思っていた。マニア垂涎の裏話がクリア景品らしい。興味ないな。


「それでも、黒屑さんが話していた噂のうち、一つには興味があるわ」
「なんだよ」
 沫河は邪悪そうな笑みを浮かべて僕に顔を近づける。
「ミラーハウスでの入れ替わり、よ」
「へぇ」僕は沫河から少し距離をとった。テンションが怖い。
 意外だと思った。僕はてっきり、この遊園地で子供が度々いなくなるっていう噂のことだと思ったから。こいつ、子供嫌いだし。
「ミラーハウスに入る前の私と、出た後の私の中身がまるで別人だったら、あなたはどうする?」
「どうもしないよ」
 僕の返答に不満げな沫河だった。
「あらそう。つまんない」
「だって、君は君だからね」
「……そういう事言うんだ」
 僕は心なしか沫河の機嫌がよくなっているのを横目に確認して、話を主軸に戻すことにした。
 一体、彼女は何を求めてこんな奥地に僕を誘い出したのだろう。今の所は僕らが求めている気持ちの悪さがここにあるとは、とても思えなかった。
 でもまぁ、せっかくこんな辺境に来たんだ。
 何か起こってくれなきゃ、勿体無いね。




 ガイドの溝朽さんが最初に案内してくれたのは、朽ち果てたミラーハウスだった。
「MIRROR HOUSE」と書かれていたであろう看板は崩れかけていて、お客様を迎え入れる準備ができているとは言い難かった。ツアーが企画されているところをみると、一応最低限の安全は確保されているらしいけれど。
 安全な廃墟って、逆になんだか安心できないよな。
 人の使っていない建物というのは、すぐに朽ちていくらしい。ジェットコースターやメリーゴーランドほどの設備やメンテナンスは必要ないため、ミラーハウスは今でも楽しむことができるとか。
 整備がいらないと言っても、清掃くらいはしておいてほしいところだ。錆びた鉄の匂いとかするし。まぁ、そんなことを言ってしまうと伝言坂さんに怒られちゃうかな。
 時と自然の復讐?
 ただの経年劣化だろう。
「ミラーハウスにはこんな噂があります…。と言っても、先ほど黒屑さんがご説明してくださった通りなんですけどね(笑)」


「中身だけが別人ってことは、鏡の中のもう一人の私が、本当の私を乗っ取っていったってことよね…」


 沫河が聞く。こいつ少し怖がってないか?
「そう……、あなたと同じ顔のあなたとは別人の偽物。乗っ取られた本物は、鏡の世界に閉じ込められてしまうの。鏡の中から脱出するためには、偽物をもう一度ミラーハウスに連れて行く必要があるんだ。まぁ、私がもし偽物だったら、全力でミラーハウスに行くことを拒否するだろうけどね」


 黒屑さんが面白そうに解説をする。もうこの人がガイドをすれば良いんじゃないかな。


「そのために遊園地の出入り口とミラーハウスは繋がっているんです。園内に入るためにはミラーハウスに入らないといけないし、園外に出るためにもミラーハウスに入らないといけない。だから、もし鏡の世界に閉じ込められても大丈夫なんですよ?」
 裏野さんが説明してくれた。


「そうだったんですか」
「うふふ。実は私もこの遊園地のこと、何にも知らないんですよ? 私が子供の頃、廃園になってしまって。もう十年も前ですし」
「え? ならどうしてそんなにご存知なんですか?」
 ミラーハウスの噂話は、先ほどの黒屑さんもそんなに詳しく話してはいなかったように思う。聞いてなかっただけかもしれないけど。


「何にも知らないと楽しめないと思って、さっき溝朽さんからツアーのパンフレットをもらったんです。ほら、じゃじゃーん」
 裏野さんが見せてくれたパンフレットには、この遊園地の地図が載っていた。(※図1)
<a href="//21813.mitemin.net/i254157/" target="_blank"><img src="//21813.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i254157/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


 本当だ。出入り口とミラーハウスが繋がっている。こんな作りは、他の遊園地ではあまり見ない。
 ってか、じゃじゃーんって、何か子供みたいだな。可愛いからいいけど。


「普通迷路って、行きだけですよね。ただ戻るだけでも、周りが鏡ですから、行き以上に迷ってしまって帰れない人が続出したんですよ。案外、子供がいなくなるって噂もこのミラーハウスから来ているのかもしれませんね」


 だとしたらかなりはた迷惑なアトラクションだ。


「それでは、これから皆さんには、ミラーハウスに挑戦していただきます。ゴールには、このミステリーツアーの次の手がかりが隠されています。どんどん先に進んでください。大人数で迷路を挑戦するのも味気ないので、何人かに分かれて挑戦していただきましょう。幸い、この迷路はスタートが三つに分かれています」


  自信満々な黒屑さんは一人で。僕と沫河で二人組。そして、伝言坂さんは裏野さんを誘って。こうして即席三チームは出来上がった。
  溝朽さんは長い蝋燭を取り出した。
「これが皆さんの命の灯火、カレイドキャンドルと言います。この蝋燭が燃え尽きる前に、この廃墟遊園地に隠された謎を解き明かして、迷路のスタート地点で待つ私の元に戻ってきてください。じゃあ、スタートする方から火を点けますね」


「よっしゃ! じゃあ私が最初に挑戦しまっす! 火をつけてください!」


 黒屑さんが名乗り出た。かなりやる気満々だ。
 というか、おそらく黒屑さんほどのファンなら迷路の道筋を全て頭に入れているに違いない。隠れウラビィマークとかも全部知ってそうだ。そんなものがあるかどうかも分からないけれど。


「黒屑さん、お気をつけてくださいね。鏡の世界に閉じ込められてしまうかもしれません。そうしたら、本物の黒屑さんにお会いするのは、これが最後になるかもしれないので…」


「なんという不吉なこと言うかな(笑)。溝朽さん私たちを怖がらせようと必死だよね」まぁ、それがお仕事だからしょうがないけどさ、と言いながら長い髪を後ろでまとめた。戦闘準備万端といったところか。


「まぁ、見ててよ。最速でクリアーしてあげるからさ」
 ミラーハウスの行きの最速タイムは15分48秒とのことだ。
 溝朽さんが言うには、「この蝋燭は約90分消えない」らしい。このタイムを聞く限り、ここの探索はかなり急いだ方がいいようだ。
 廃園したとは言え、広い遊園地を90分で動き回るのは大変だろう。


 定刻18時30分。辺りは夕焼け空だ。これからもっと、夜が更けてくるだろう。
 きっと園内では、このカレイドキャンドルの灯りが怪しく揺らめくはずだ。


 順番に火を点けてもらい、黒屑さんの次に僕たち二人がスタートすることにした。
 伝言坂さんはオーナーの孫である裏野さんとのチームということで、彼女に合わせて特別参加として、キャンドルを貰わないという。ただし、迷路だけは挑戦するとのことだった。まぁそもそも、迷路にクリアーしないと園の中に入ることができないので、それは当然のことだった。
 おそらく、廃墟の写真を撮る時にキャンドルが邪魔だということを、それらしい理由をつけて辞退しただけだな、と僕は思った。


「それではぁ! 謎解きツアー! よーい……スタート!!」
 ガイドの溝朽さんの美しい声が響いた。キャンドルの灯火が消えてしまいそうなくらいの勢いで黒屑さんがスタートしていった。僕らもスタートすることにした。


 迷路の必勝法は、右手を当てて歩き続けることなのだろうか。鏡が壁を覆い尽くすこの迷路では手を触れることは憚られる。
 ま、僕はこの遊園地の謎には興味はない。適当に歩いて時間を潰そう。
 この迷路は平面ではないらしく、階段を登ったり降りたり、また、降りたり登ったりして先に進んだ。
 時折、照明が少なくなり暗くなるところがあり、蝋燭でのみ照らされる沫河の横顔が、思いの外綺麗だと思ったのは内緒だ。


「合わせ鏡って聞いたことあるわよね」沫河が声を発した。
「うん」


 合わせ鏡というのは、学校七不思議などで聞いたことのある都市伝説のようなもの。
 前方と後方、鏡を向かい合わせると、普通向かい合った前面しか鏡で確認できない後方も視認することができる。背中が映った後方の鏡像が前方の鏡にも映るからだ。後方の鏡が映った前方の鏡の中にまた後方の鏡が映り、その繰り返しで鏡の中には無限の奥行きが生まれ、角度によっては複雑な写り込みの連鎖で異世界を映し出す。万華鏡はこの仕組みで作られているとか。
 狭い空間にも奥行きを、領域を作り出すことから、夜の向かい合わせの鏡に呪文を唱えると悪魔が出てくるなどの、噂が飛び交うメジャーな都市伝説の一つだろう。
 この遊園地にある噂も、鏡の世界に引きずり込まれる、とか。合わせ鏡の都市伝説を下敷きにしていることは明白だ。
 日常生活で合わせ鏡を見る機会は、実はあまり無い。自分の姿が映るほどの大きい鏡を二枚以上用意することは、学校以外にはあまり無い。まぁ、合わせ鏡の噂が怖がられすぎたためか、僕らの高校の合わせ鏡は撤去されたらしいし。


 だからか、ひどく気持ちが悪い空間だ。
 否が応でも自分の姿を見なくてはならないこの空間が。
 目をそらそうにも自分の姿が何重にも映るこの領域が。
 気持ち悪くてしょうがない。
 楽しいとか、わくわくだとか、そういった気持ちで子供たちはこのミラーハウスを楽しんだのだろうか。
 ひび割れた鏡に映る、ひび割れた己の姿を、気持ち悪がっている顔を見つめながら。薄暗い道を揺らめく蝋燭の炎の明かりで、影なのか自分の姿なのかわからない不確かな道を。鏡を割りたい衝動を抑えつつ進む。
 その時、僕は確かに見た。鏡の中で嗤う、彼の顔を。
 あの時彼と話した、恐怖の出来事を。




「………ねぇ」
 僕の隣にいた沫河が、僕の後ろに映った沫河が、僕の前方で顔をひび割らせながら問いかける。
「ひどい顔してるわよ。鏡を見てごらんなさい」
「…うるさいな、わかってるよ」


 見なくても、そこに僕はいるんだから。
 僕の前にも、僕の横にも、僕の後ろにも、僕の真上にだって、僕はいる。
 もううんざりだ。


「ほら」
 そう言って、沫河は僕の手を握った。
 振り向いて隣の彼女の手を見たわけではなかったが、鏡に映った僕らは手を繋いでいたし、何より彼女の手の温かい感触が確かにあった。
「早くここから出ましょう。なんだか、気持ちが悪くなっちゃった」
「あぁ、まったくだ」
 手を繋いでいる姿を他の誰にも見られたくは無いから、早く出ようと思った。




 僕らがスタートして15分ほど経過してからだったか。
 ガラスが割れるような、ガシャンという音がした。
 そして、悲鳴。


 悲鳴としか思えないような叫び声。
 空気が震えている気がする。
 この声は、おそらく先を走っていった黒屑さんだろうか。
 朽ち果てひび割れたミラーを震わせ、命を搾り取るような声は長く続く。
 しかし、声が永遠に続くということはない。
 黒屑さんは息を吐き続け、二度目の悲鳴をあげることのないまま静寂が訪れた。その静寂は一瞬。その後、溝朽さんの慌てたような声が聞こえる。


「みなさん! 何か! 何かあったんですか!」
 走りながら近づいてくるような音の変化を感じた。僕と沫河はおとなしくその場で待っていることにした。


「私は大丈夫です! 黒屑さん! …の声ですよね……?」
 裏野さんの消え入りそうな声も近くで聞こえた。当たり前だ。この寂れた遊園地には、ただっ広い敷地内の朽ち果てた迷路の中には、僕たち六人しかいないのだ。
 悲鳴を上げた黒屑さんはその後静かで、僕たちに異常を知らせることも、居場所を教えてくれることもしてくれなかった。先ほどの悲鳴の声の近さから見て、直線距離は近そうだが…?


 異常な状況。先の見えぬ恐怖。
 非日常の空気。ざわつき。
 確認しよう。
 ここは僕たちの好きな世界だ。


「はぁ…はぁ…今の声、黒屑さんですよね…」
 僕たちの後ろから走って来たのは溝朽さんだった。


「そういえば伝言坂さんの声は聞こえてきませんね?」
「聞いてませんね…、上の階にいるのかもしれません。私は出口までの最短ルートを走って来たので…お会いしてもないですね。どこかの行き止まりにいるのかも…」
 まぁ、そういうこともあるか。とりあえず、溝朽さんはこの迷路の最短ルートを熟知しているらしいことはわかった。
 そして、あの自信満々な態度を見ていれば、おそらく黒屑さんも。


「溝朽さん、僕たちを出口まで案内してください。黒屑さんの身に何かあったのは、確実です」
「……はい! 入り口は三つに分かれていますが、ゴールは一つです! そちらで合流しましょう!」
 溝朽さんの後に僕たちは続く。
 黒屑さんの身に何かがあった。その「何か」。それは何なのか。
 山道で消耗したはずの僕の体力は今、出発前に戻っていた。いや、もしかしたら出発前よりももっと。早くその場を確認したい。
 もしかしたら、もしかするかもしれない。


 しかし、そんな僕の不謹慎な企みは空振ることになる。


「ここの道の突き当たりを右に行けば出口なんですが……あっ」
 出口へ向かう途中の道の突き当たり近くに、見覚えのある靴が落ちていたのだ。
 ブルーのラメが光る靴が。左右で色の違う靴。黒屑さんが履いていた靴だった。
 間違いない! 黒屑さんはあの道の先にいる!
 僕たちは落ちている靴を追ってすぐに左へ曲がった。するとその道の先には……、黒屑さんが倒れていた……?


 いや、違う。
 黒屑さんのもう片方の靴や持ち物が乱暴に置かれていた。散乱していたという表現の方が確かかもしれない。そしてその近くの壁の鏡が割れている。
 この鏡はどうやって割ったのだろうと思い、辺りを見回してみた。どうやら、そこに落ちていた黒屑さんの傘を使ったようだ。傘の石突き部分に鏡の割れた破片が刺さっていた。
 まるで荷物だけ置いて、体を鏡の中に連れ去られたみたいな光景だった。


 ……わけがわからない。
 それは沫河も、溝朽さんも、後から追いついた裏野さんと伝言坂さんも同じ感想を持ったようだった。
「これは…鏡の中のもう一人と入れ替わったってこと?」まさかそんな。
 夢の国の出来事じゃあるまいし。


「どう…なんですかね。中身の入れ替わったもう一人って人も誰もいませんし」


「でも、悲鳴も聞こえたし、普通じゃないですよ」


 そうだ。黒屑さんは今どこにいるんだろう。噂みたいに鏡の世界に連れ去られたわけでは無いだろうし、園内のどこかに隠されているとか? 僕たちより先にスタートした黒屑さんが、入り口に戻っているとは思えない。
 いや、もしかしたら…?


「溝朽さん、これは…ミステリーツアーの演目…ですよね?」
 ここは廃園したとはいえ遊園地で、これは廃墟探索であるとはいえミステリーツアーだ。そう簡単に非日常が落ちている訳ではない。


「いいえ! そんなことは……ありません!」
 しかし溝朽さんの話す剣幕を見ている限り、ツアーの一環という訳ではないようだった。


「一体誰がこんなことを? 園内には私たちスタッフを含めて全部で六人しかいないはずなのに…」
 ガイドの溝朽さん、マニアの黒屑さん、オーナーの孫の裏野さん、写真家の伝言坂さん、僕と沫河の六人か。
 黒屑さんが迷路を先に出発してから、僕と沫河以外の三人は僕らの後ろにいた。溝朽さんに至ってはスタート地点にいたのだろう。僕たちの後ろから追いかけてきたのだから。よって、黒屑さんを誘拐できた人間はいないだろう。
 ミラーハウスの幽霊の仕業?
 いや、幽霊はいない。それが僕にとっての常識だ。人を殺すのは人だ。人を脅かすのは、人でしかない。
 何らかの理由がある、人為的なもの。いくら不可解だったとしても。
 不可能なことだけ排除していけばいいのだ。
 最後に残ったものが幾分マシな真実だ。


「これは…何?」
 沫河が靴の近くで見つけたようだった。
「赤い血のようなもので、何か書いてあるの…。「アアァ…」って、さっきの叫び声みたいに!」
 沫河は寒気を感じたように自分の両腕を抱きしめた。
 そこには1枚の写真が落ちていた。
 タイルに血文字のようなものが書いてある。
 僕もその字を確認してみると、正確には、叫び声というか、何かの名称が書いてあるように見えた。
 写真の血文字(※図2)<a href="//21813.mitemin.net/i254161/" target="_blank"><img src="//21813.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i254161/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


 何回も書き直したような、周りにも赤い色が擦れていた。
 これは、一体なんなのだろうか。
「……これは、この迷路のゴールで配る予定だった、暗号です」溝朽さんが説明する。
 このダイイングメッセージにも見える字を見て、沫河はうーーんと唸ってはいたが、特に何も答えが出てこないようだった。沫河は暗号を解くのが苦手なようだ。溝朽さんが答えを言う前に、僕が答える。


「暗号の答えは、アクアツアー、ですよね」
「……はい。最初は簡単な謎じゃないと、誰も先に進めませんからね」


「簡単……? むむー。でも、私が血の暗号最初に見つけたし…」
 沫河が拗ねているのを軽くスルーして、僕は切り出した。


「ここにいても仕方ないですし、黒屑さんを探しに行きませんか?」
 ミラーハウスでいなくなった黒屑さんを。
 手がかりは、アクアツアー。
 まぁ、他にもいくつか手がかりはあるけれど、割愛。
 まだまだ楽しみは後に取っておかないとね。


  

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