ー月曜日ー 裏道カレイド

ノベルバユーザー399011

−1– 廃園になった理由

◆オモテ◆


 0.
 良い裏道知ってるよ。
 人生をあっという間に終わらせる近道さ。


 1.


 …ウワサ。
 《廃園になった理由》
 …
  あの遊園地には度々、子供がいなくなるって噂があったな。
  廃園した理由は知らないけどさ。そんな噂があるようじゃねえ。
  …




  幽霊なんかいるわけがないよ。
  じゃあついてきてくれるわよね?
  そんな簡単な売り言葉に買い言葉で、僕は彼女にこんな山奥まで連れてこられてしまった。
  裏野ドリームランド跡地、廃墟遊園地探索ミステリーツアー。
  埼玉県の山奥のさらに僻地。駅からバスを乗り継いで、徒歩。
  生い茂るススキ野原をかき分け山道を登る。
  夏休み初日。海の日。休日をどのように使うかが大事だが、僕たちはこの得体の知れないツアーに充ててしまった。
  蒸し暑い七月の夕方近く。月曜日。昨晩の雨は止み、晴れてはいるがジメジメと蒸し暑い。そんな日に山道を歩かされているのは苦痛だった。
 沫河の挑発に乗せられてしまった形だ。これからはもう少し言動に気をつけよう。
 山道を小一時間歩いてやっと辿り着いたのは、寂れた遊園地だった。
 廃園したのは十年前だという話だが、もっと前に潰れていたのでは無いか、と思うくらいぶっ壊れていた。電飾の消えた『裏野ドリームランド』の看板は、その名称を知っているからこそ読めるそれであって、腐敗と荒廃で朽ちた看板は人の手を離れた建造物の死を容易に想像させた。
 その光景に向けて真剣にシャッターを切る人がいた。廃墟写真家の伝言坂でんごんざか 言伝ことづてさんだ。
 茶色の革のコートにブーツを履いて、中折れ帽を被っている。帽子こそ違うが、茶色いスナフキンのような出で立ち。このクソ暑い中、よくあんな服を涼しく着こなしているなと思った。汗一つかいていない。
 一方、僕の頬からは汗が滝のように流れ落ちた。
「うわあ、みなさんいらっしゃいましたね」
  朽ちた遊園地の入り口の中で僕たちを待っている少女がいた。歳は僕らとあまり変わらないように見えた。
「裏野うららです。よろしくお願いします」
 話を聞いたところ、彼女はこの裏野ドリームランドのオーナーの孫だそうだ。裏野という苗字が気になったので聞いてみたらビンゴだった。
「ふふ。そんなに珍しいんですか? この遊園地が、伝言坂さん」
「珍しいというか、素晴らしいんですよ。うららさん」
  シャッターを切りつつ、伝言坂さんは応える。
「人間が開発した土地を、自然が取り戻し、時が巻き戻す。廃墟はね、人間が作り出したものだという意見もあるけれど、的を射てはいないと思うよ。廃墟は、自然と時の復讐が生み出したものだ。荒れ果てた道路も、朽ち果てた建物も、人間には決して作り出すことができない。そういうものにこそ、俺は心奪われるんだ」
「ふーん、そうですか」
  裏野さんはあまり興味はないようだった。
「ねぇ、檻原君。あの人の靴、とってもオシャレよね」
「なんだい突然…」
 靴?
 沫河が指をさしていた靴は確かに、僕の理解と想像をはるかに超えている靴だった。ショッキングピンクとブルー。左右で色の違うスニーカーだ。ラメがギラギラと目に痛い。
「オシャレっていうのかあれ」
「ふっ、お目が高いね、君」その靴の持ち主はあろうことか僕に話しかけてきた。
「え、僕ですか?」沫河は少し離れたところに逃げて、こちらの様子を見ている。おいこら。
「そう、何を隠そう、このスニーカーは限定10足のウラビィスニーカーなのだ! イェイ!」
「う、うらびぃ…?」
 聞いたことのないワードだ。
「ウラビィは、UDL、裏野ドリームランドのマスコットの名前だよ! 招待状の封筒にウサギのキャラクターがいたでしょ? あの子よあの子! 何にも知らないんだね!」
 まぁ、廃園したの十年前だもんなぁ。とそのスニーカーを履いた女性は呟く。
 招待状の封筒に描かれていたうさぎを思い出した。あの病んだ目をしたピンク色のうさぎか。ウラビィ、ねぇ。
 そんな彼女は裏野ドリームランドの熱狂的なファンの黒屑くろくず 最果もかさんだ。スニーカーやらリュックサックやら傘やら、彼女のアイテムは目に痛い色が多い。おそらくそれらもこの遊園地の限定アイテムなんだろう。
「皆さん、謎解きツアーを始める前の自己紹介はよろしいでしょうか。さすがは皆さま、謎解きツアーの最大の必勝法をご存知のようですね」
 ツアーガイドの溝朽みぞくちさんが切り出した。
「謎解きツアーの必勝法?」僕は知らない。
「もちろん! それは、参加者のみんなが仲良くなることだよ! 謎解きはチームワークだからね!」黒屑さんが力説する。
「おっしゃる通り、今回の謎解きツアーは六人で一チームとして皆さんに挑戦していただきます。そのチームワークこそが謎解きのカギとなります!」
「そうは言っても、ここには六人もいませんよね?」
 僕と沫河、伝言坂さんと裏野さんに黒屑さん。ガイドの溝朽さんを合わせてようやく六人だ。
「えぇ、申し訳ございませんが、当日のキャンセルが二人分出たため、人数は六人に満たないスタートとなりますことを、ご了承ください」
「六人でひとチームなのに、半分だね。まぁ、キャンセルなら仕方がないなぁ」
 黒屑さんが残念そうだ。「よろしくね! 少年とお嬢さん!」
「…どうも」と僕。
「よろしくお願いします」と沫河が返事をする。
 沫河は外面は良いからな。僕は人見知りだから、黒屑さんのような、人を善意で巻き込むパワフルな嵐のような人は苦手だな、と思って、少し輪から離れることにした。
 しかしまぁ、こうして少し離れて遊園地全体を俯瞰してみると、廃墟とはいえ、これだけ広い土地に僕ら六人しかいないというのは、贅沢だな。
 人混みは嫌いだから。
 人はいないが、何か出そうで、少し肌寒い気がする。この蒸し暑さには丁度いいかもしれない。
「あーあ、天下のUDLも廃園か。でもまぁ、あんな噂や事件があるんだもん。仕方ないよね」
  黒屑さんのほんの呟き。風に揺れる木々の音に掻き消されてしまうそんなか細い声なのに、それは集まりの一番外側にいた僕の耳にも届いた。
  だからそれはおそらく、ここにいる全員に聞こえたということだろう。






「それでは皆さん、長旅お疲れ様です。裏野ドリームランド跡地、廃墟遊園地ミステリーツアーにようこそ!」
 山道1時間強で始まった、このような地獄の旅にも華は咲く。白い手袋に華やかな声、ツアーガイドの溝朽さんだ。
「改めて自己紹介させて頂きます。この度ツアーをガイドさせていただく、溝朽みぞくち みぞれと申します。皆さんを謎が渦巻く悲劇の遊園地、裏野ドリームランドへご招待させていただきます!」




 こうして謎解きツアーが始まった。
 裏野ドリームランドにはとある七つの噂があった。
 十年前の遊園地に蠢く悪い噂。
 その謎が、このツアーで解けるのだろうか。
 ちなみに、
 この物語では、人が死ぬ。
 謎が存在するし、それを解く者がいる。
 それでもこれはミステリーとは言えないかもしれない。
 何故ならば、
 真実が一つとは限らないからだ。





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