聖玉と巫女の物語

ともるん77

ルサとワズ

『……ルサ! ルサ! どうして行っちゃうんだよ!』
「ごめんね、父さんと母さんとリズをよろしくね。ワズ」
 懐かしいワズ。いつの間にか大きくなって。


「なに言ってるんだよ」
 その声で目を開けると、ファルサの目の前にはヘイワードが立っていた。
「ヘイワード! 無事だったのね!」
 ファルサは彼に抱きついた。


「怪我はどこ? 大丈夫なの?」
 ファルサの行動にヘイワードは困惑しながらもどこか嬉しそうだった。
「わからないけど。傷あとがあるだけで、何も覚えていない」
 彼は胸の傷をファルサに見せた。
 確かに左胸の辺りに一度負傷して、癒えた跡があった。
 ファルサは信じられない思いで、それに触れた。


「君の声が聞こえてた。泣いてただろ?」
 急にファルサは顔を赤くして、傷跡に触れていた手を引っ込めた。
 それを見て、ヘイワードは優しく微笑した。


「ファルサ、ここは天国なのか?」
 よく見ると、そこはあり得ない風景だった。
 花が色とりどりに咲いている草原。それはどこまでも続いていた。


(天国……)


 ファルサはどこか懐かしい感じがした。
「見て! 草原の向こうが光ってる」
 ファルサが指差す方向を見ると、確かに光があった。


「行ってみよう」
 ヘイワードは手を差し出した。


「ずっとファルサの声が聞こえてたから寂しくなかったよ。ありがとう」
 ファルサは微笑み、彼の手をとり、共に光の方向へと歩き出した。

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