魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
45 スタンピード4
「はぁっ、はぁっ!」
息を荒げる少女。
だが、それを気遣ってくれる魔物がいるはずもなく、次々と襲い掛かる魔物に少女――ラピスは歯を食いしばって破壊魔法を放つ。
黒い球体に当たった魔物は、まるでそれに食い破られたかのように体に大きな穴を体に空けて倒れていく。
それに比例するように、彼女の呼吸はさらに荒いものとなる。
「ラピス!無理すんな!」
そんな彼女を守るように岩壁が目の前に現れた。
その岩壁の向こうにいるであろう魔物達は壁を壊さんと攻撃を叩きつけているようだが、崩れそうになった箇所から修復されていくので突破出来ないでいる。
「はぁっ、はぁっ、あ、ありがとうグランくん」
「気にすんなって。それより一旦下がれよ、今はまだ無理する場面じゃねぇよ」
「うん……ありがとう」
グランに促されて下がるラピス。
少し悔しそうにしながらも、グランの言う事が間違っていない事と自身の状態を考えて素直に頷いた。
無理する場面ではないーーそれは、この新世代の少年少女達が王都に辿り着いたからに他ならない。
今は王都の砦を背にして防衛戦といった状態だ。しかし攻勢に出れない。ここに辿り着くのに魔力が大きく減ってしまったのだ。
ともあれ、ラピスは砦の入り口付近まで下がり腰を下ろす。
その横には、エミリーとクレアがいた。
「お疲れ、ラピス」
「お疲れ様です。無茶しないでくださいね」
「ありがとう、エミリーさん、クレア」
息を落ち着かせながら労いの言葉を受け取るラピスは、前方に視線をやる。
「ほんと、すごいですよね……」
「そうね。悔しいけど……持久戦や総合力だと敵わないわ」
「割と短期決戦タイプですしね、私達」
そんな言葉と共に視線を向ける。それを背に受けて立つのは、2人の少年。
フィンクとグランだ。
「それもあるけど、単純にあの2人の魔力の運用が上手いのよ」
「あーなるほど。確かに魔力操作能力も高いですしね」
それぞれが氷と大地を手足のごとく扱い、無駄なく魔物を倒していく。
単なる火力ではなく、魔法の運用の仕方や魔法を無駄なく扱う魔力操作能力が高く、少女達がガス欠になった今でもまだ戦えているのだ。
「とは言え……」
「えぇ、まずいわね」
そう、いくら防衛線という消費を抑える形の戦い方をしようとも、必ず限界は来る。
今も少女達を下がらせて休憩をとらせようと少年達が踏ん張ってはいるが、彼らとていつまでも戦える訳ではない。
完全なジリ貧である。
しかも王都に辿り着こうとした時、すでに間に合わず魔物が砦に殺到していた。
それなのにこうして防衛戦を可能としているのは、王族の魔法があってこそ。
王族秘伝の火魔法『火桜』。
超広域殲滅魔法のそれを、王と皇太子の2人が同時に発動した事でどうにか魔物の群れを焼き払い、その隙にフィンク達が先回り出来たのだ。
もっとも、砦を覆うほどの魔物達を一気に焼き払う程の威力だ。
王都2人にもう一度同じ『火桜』を放つ余力はないだろう。
「こういう時にMP回復薬とかあれば良いんですけとねぇ」
「なにそれ?」
「あ、なんでもないです。というか、本当にどうしましょうかねこれ」
正直に言えば、ルーガス達が来るまで粘るくらいしか出来ない。いや、それすら怪しい。
もしくはレオン達だが、さすがに化け物クラスの2人と言えど端から端の距離となればどうしてもそれなりに時間はかかる。
「仕方ないわね……最後に一発でかいのお見舞いして、すぐに王都に引きこもるわよ」
「それしかないですよね……下手に粘って呑まれても仕方ないですし」
「うぅ……最近訓練サボってた罰かなぁ」
疲れた様子のエミリーとクレア、なんだか申し訳なさそうにしょんぼりするラピスに、フィンクの声が届く。
「3人とも、一回王都まで下がろうか。これ以上は危険だ」
「俺もそろそろ魔力がやべぇ!撤退すんぞ!」
どうやら少年達も同じ考えに至ったらしい。
せめてジリ貧の防衛ばかりの苛立ちを込めた一撃――もとい、撤退のために距離を作る一撃を入れんと5人全員が魔力を練り上げる。
だが、
「っ!?まずい!」
「ちっ……全員伏せろぉ!」
顔をしかめたフィンクとグラン。
ほぼ同時に気づいていたエミリーとクレア、一拍遅れてラピスが慌てて体を深く沈める。
その頭上を、凄まじい熱線が通り過ぎていった。
「ふぅ。このタイミングで出てくるか」
「ちょぉ……っと厄介だなぁ、おい」
フィンクとグランが苦い表情で視線を遠くにやる。
そこには、真紅と言うべき鮮やかな赤色を纏った竜がいた。
「はぁ、もう。何匹いるのよ竜って」
「さすが魔境ってことですかね」
「うぅ……この状況で色竜はまずいよう」
少女達3人も竜――上位竜である色竜を見て冷や汗を流した。
なんせ、あの破壊力を持つ魔物が居るとなると、砦の向こうに下がったところであっさりと砦ごと破壊されてしまうからだ。
つまり、逃げ道を潰されたのである。
「なぁフィンク、魔力探知はまだ効くか?」
「かろうじて。……ただ、まだ遠くに居るよ」
「うへぇ……しんどいな」
そろそろ魔力探知をする魔力も怪しくなってきたグランがフィンクに親世代や英雄の応援が間に合うか伺うも、その返答は無常なもの。
いかにルーガス達やレオン達であろうと、そう早くに大災害を駆逐して駆けつける事は難しい。
「仕方ない。やれる限りやろう」
「ま、それしかねぇな」
その言葉を置いていくように駆けるフィンク。
それを追うようにグランが走り、地魔術で道中の魔物を弾き飛ばしていく。
しかし魔力が減っている影響か、それに耐える魔物も増えていった。
「「『炎砲』!」」
そこに、クレアとエミリーの火魔法が叩き込まれる。
すでに上級魔法を撃つ余力はないが、2人の魔法を重ねる事で中級のそれを上級クラスへと引き上げていた。
「ていっ!」
可愛らしくも裂帛の気合いを込めた声と共に、戦鎚がフィンクに迫る魔物を蹴散らす。
先程の『炎砲』を追うようにして先頭に躍り出たラピスがフィンクのフォローを担う。
彼女の破壊魔法はその威力と引き換えに大量の魔力を要する。
すでにラピスはまともな破壊魔法は撃てず、もうひとつの武器である近接戦での援護に入らざるを得なかった。
それでもその連携の甲斐あってか、フィンクは色竜へとたどり着く。
が、代わりにとばかりにラピスに魔物が殺到した。
「くっ!なめんな!」
「させないわよ!」
「ふっ!」
グラン、エミリー、クレアが即座に援護。
2つの炎と地魔術がラピスの退路を開かんとする。しかし、
「うわわっ…!」
「くそっ、やべえ!」
「くっ、逃げなさい!」
「ラピスっ!」
完全に切り開く力のないそれは、ラピスを逃し切るには至らない。
更には、グラン達にも魔物が殺到している。
いかにずば抜けた実力と潜在能力を誇る彼らとて、魔力が尽きれば数の暴力に押し込まれる。
ここ数年は無かった死が迫る感覚に、彼らは目を瞠った。
「『水閃』!」
そこに、水のレーザーが突き抜けた。
ラピスに迫る魔物を貫き、それによりかろうじてその隙をついて魔物の囲いから抜け出す。
「えっ、ティア?!」
「援護するわ!ただしこんな群れの相手は無理よ!早く下がりなさい!」
その出所はティア。独自の水魔法を持つ、学園での先輩にあたる女傑だ。
一点突破に改良された独自の魔法である『水閃』はかの魔境の魔物をも貫くが、しかしどうしても一体ずつが限界だ。
彼女の言うように、この戦況をひっくり返すには不向きである。
「『水閃』!『水閃』!」
「今のうちにひくぞ!急げ!」
「はい!」
グランがフォローしつつラピス達はエミリー達のもとまで下がり、そしてそのまま砦の入り口まで下がろうとする。
が、その足は思わず止まる事となった。
「ぐっ……!」
「フィンク兄!?」
下がるエミリー達の目の前に、吹き飛ばされたフィンクが背中から落ちた。
思わず駆け出したエミリーだが、しかしそれよりも早く魔物がフィンクへと殺到する。
「『水閃』!」
それらを間一髪でティアが吹き飛ばす。
その隙に駆け付けたエミリーはフィンクを掴み、持ち上げて撤退ーーしようとした。
「ゴァアアアァアアッッ!!」
それを許さないのは、災害とも称される上位竜。その生物の頂点の最大攻撃であるブレスが迫ってきた。 当然である。それを単身で食い止めていたフィンクは倒れているのだから。
「『水閃』っ!」
せめてもの抵抗である水のレーザーも、ほとんど拮抗する事なく蒸発させられた。
「っ、魔力が……っ!」
「ヤバっ……」
すでにまともな魔法も放てない5人は、灼熱の炎を目の前にただ立ち尽くしーーついに、巨大な炎に呑まれた。
息を荒げる少女。
だが、それを気遣ってくれる魔物がいるはずもなく、次々と襲い掛かる魔物に少女――ラピスは歯を食いしばって破壊魔法を放つ。
黒い球体に当たった魔物は、まるでそれに食い破られたかのように体に大きな穴を体に空けて倒れていく。
それに比例するように、彼女の呼吸はさらに荒いものとなる。
「ラピス!無理すんな!」
そんな彼女を守るように岩壁が目の前に現れた。
その岩壁の向こうにいるであろう魔物達は壁を壊さんと攻撃を叩きつけているようだが、崩れそうになった箇所から修復されていくので突破出来ないでいる。
「はぁっ、はぁっ、あ、ありがとうグランくん」
「気にすんなって。それより一旦下がれよ、今はまだ無理する場面じゃねぇよ」
「うん……ありがとう」
グランに促されて下がるラピス。
少し悔しそうにしながらも、グランの言う事が間違っていない事と自身の状態を考えて素直に頷いた。
無理する場面ではないーーそれは、この新世代の少年少女達が王都に辿り着いたからに他ならない。
今は王都の砦を背にして防衛戦といった状態だ。しかし攻勢に出れない。ここに辿り着くのに魔力が大きく減ってしまったのだ。
ともあれ、ラピスは砦の入り口付近まで下がり腰を下ろす。
その横には、エミリーとクレアがいた。
「お疲れ、ラピス」
「お疲れ様です。無茶しないでくださいね」
「ありがとう、エミリーさん、クレア」
息を落ち着かせながら労いの言葉を受け取るラピスは、前方に視線をやる。
「ほんと、すごいですよね……」
「そうね。悔しいけど……持久戦や総合力だと敵わないわ」
「割と短期決戦タイプですしね、私達」
そんな言葉と共に視線を向ける。それを背に受けて立つのは、2人の少年。
フィンクとグランだ。
「それもあるけど、単純にあの2人の魔力の運用が上手いのよ」
「あーなるほど。確かに魔力操作能力も高いですしね」
それぞれが氷と大地を手足のごとく扱い、無駄なく魔物を倒していく。
単なる火力ではなく、魔法の運用の仕方や魔法を無駄なく扱う魔力操作能力が高く、少女達がガス欠になった今でもまだ戦えているのだ。
「とは言え……」
「えぇ、まずいわね」
そう、いくら防衛線という消費を抑える形の戦い方をしようとも、必ず限界は来る。
今も少女達を下がらせて休憩をとらせようと少年達が踏ん張ってはいるが、彼らとていつまでも戦える訳ではない。
完全なジリ貧である。
しかも王都に辿り着こうとした時、すでに間に合わず魔物が砦に殺到していた。
それなのにこうして防衛戦を可能としているのは、王族の魔法があってこそ。
王族秘伝の火魔法『火桜』。
超広域殲滅魔法のそれを、王と皇太子の2人が同時に発動した事でどうにか魔物の群れを焼き払い、その隙にフィンク達が先回り出来たのだ。
もっとも、砦を覆うほどの魔物達を一気に焼き払う程の威力だ。
王都2人にもう一度同じ『火桜』を放つ余力はないだろう。
「こういう時にMP回復薬とかあれば良いんですけとねぇ」
「なにそれ?」
「あ、なんでもないです。というか、本当にどうしましょうかねこれ」
正直に言えば、ルーガス達が来るまで粘るくらいしか出来ない。いや、それすら怪しい。
もしくはレオン達だが、さすがに化け物クラスの2人と言えど端から端の距離となればどうしてもそれなりに時間はかかる。
「仕方ないわね……最後に一発でかいのお見舞いして、すぐに王都に引きこもるわよ」
「それしかないですよね……下手に粘って呑まれても仕方ないですし」
「うぅ……最近訓練サボってた罰かなぁ」
疲れた様子のエミリーとクレア、なんだか申し訳なさそうにしょんぼりするラピスに、フィンクの声が届く。
「3人とも、一回王都まで下がろうか。これ以上は危険だ」
「俺もそろそろ魔力がやべぇ!撤退すんぞ!」
どうやら少年達も同じ考えに至ったらしい。
せめてジリ貧の防衛ばかりの苛立ちを込めた一撃――もとい、撤退のために距離を作る一撃を入れんと5人全員が魔力を練り上げる。
だが、
「っ!?まずい!」
「ちっ……全員伏せろぉ!」
顔をしかめたフィンクとグラン。
ほぼ同時に気づいていたエミリーとクレア、一拍遅れてラピスが慌てて体を深く沈める。
その頭上を、凄まじい熱線が通り過ぎていった。
「ふぅ。このタイミングで出てくるか」
「ちょぉ……っと厄介だなぁ、おい」
フィンクとグランが苦い表情で視線を遠くにやる。
そこには、真紅と言うべき鮮やかな赤色を纏った竜がいた。
「はぁ、もう。何匹いるのよ竜って」
「さすが魔境ってことですかね」
「うぅ……この状況で色竜はまずいよう」
少女達3人も竜――上位竜である色竜を見て冷や汗を流した。
なんせ、あの破壊力を持つ魔物が居るとなると、砦の向こうに下がったところであっさりと砦ごと破壊されてしまうからだ。
つまり、逃げ道を潰されたのである。
「なぁフィンク、魔力探知はまだ効くか?」
「かろうじて。……ただ、まだ遠くに居るよ」
「うへぇ……しんどいな」
そろそろ魔力探知をする魔力も怪しくなってきたグランがフィンクに親世代や英雄の応援が間に合うか伺うも、その返答は無常なもの。
いかにルーガス達やレオン達であろうと、そう早くに大災害を駆逐して駆けつける事は難しい。
「仕方ない。やれる限りやろう」
「ま、それしかねぇな」
その言葉を置いていくように駆けるフィンク。
それを追うようにグランが走り、地魔術で道中の魔物を弾き飛ばしていく。
しかし魔力が減っている影響か、それに耐える魔物も増えていった。
「「『炎砲』!」」
そこに、クレアとエミリーの火魔法が叩き込まれる。
すでに上級魔法を撃つ余力はないが、2人の魔法を重ねる事で中級のそれを上級クラスへと引き上げていた。
「ていっ!」
可愛らしくも裂帛の気合いを込めた声と共に、戦鎚がフィンクに迫る魔物を蹴散らす。
先程の『炎砲』を追うようにして先頭に躍り出たラピスがフィンクのフォローを担う。
彼女の破壊魔法はその威力と引き換えに大量の魔力を要する。
すでにラピスはまともな破壊魔法は撃てず、もうひとつの武器である近接戦での援護に入らざるを得なかった。
それでもその連携の甲斐あってか、フィンクは色竜へとたどり着く。
が、代わりにとばかりにラピスに魔物が殺到した。
「くっ!なめんな!」
「させないわよ!」
「ふっ!」
グラン、エミリー、クレアが即座に援護。
2つの炎と地魔術がラピスの退路を開かんとする。しかし、
「うわわっ…!」
「くそっ、やべえ!」
「くっ、逃げなさい!」
「ラピスっ!」
完全に切り開く力のないそれは、ラピスを逃し切るには至らない。
更には、グラン達にも魔物が殺到している。
いかにずば抜けた実力と潜在能力を誇る彼らとて、魔力が尽きれば数の暴力に押し込まれる。
ここ数年は無かった死が迫る感覚に、彼らは目を瞠った。
「『水閃』!」
そこに、水のレーザーが突き抜けた。
ラピスに迫る魔物を貫き、それによりかろうじてその隙をついて魔物の囲いから抜け出す。
「えっ、ティア?!」
「援護するわ!ただしこんな群れの相手は無理よ!早く下がりなさい!」
その出所はティア。独自の水魔法を持つ、学園での先輩にあたる女傑だ。
一点突破に改良された独自の魔法である『水閃』はかの魔境の魔物をも貫くが、しかしどうしても一体ずつが限界だ。
彼女の言うように、この戦況をひっくり返すには不向きである。
「『水閃』!『水閃』!」
「今のうちにひくぞ!急げ!」
「はい!」
グランがフォローしつつラピス達はエミリー達のもとまで下がり、そしてそのまま砦の入り口まで下がろうとする。
が、その足は思わず止まる事となった。
「ぐっ……!」
「フィンク兄!?」
下がるエミリー達の目の前に、吹き飛ばされたフィンクが背中から落ちた。
思わず駆け出したエミリーだが、しかしそれよりも早く魔物がフィンクへと殺到する。
「『水閃』!」
それらを間一髪でティアが吹き飛ばす。
その隙に駆け付けたエミリーはフィンクを掴み、持ち上げて撤退ーーしようとした。
「ゴァアアアァアアッッ!!」
それを許さないのは、災害とも称される上位竜。その生物の頂点の最大攻撃であるブレスが迫ってきた。 当然である。それを単身で食い止めていたフィンクは倒れているのだから。
「『水閃』っ!」
せめてもの抵抗である水のレーザーも、ほとんど拮抗する事なく蒸発させられた。
「っ、魔力が……っ!」
「ヤバっ……」
すでにまともな魔法も放てない5人は、灼熱の炎を目の前にただ立ち尽くしーーついに、巨大な炎に呑まれた。
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