魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

40 英雄とウィンディア2

「はぁ……ロイドも素敵な子に好かれてるわね、いや、尻に敷かれそう…?」
「ふふ、先輩は自由すぎますからね。尻に敷けるとこは敷きたいです」

 可愛らしい笑顔。だが、ここにロイドが居たらどんな顔をしたのだろう。
 それを想像してアリアは吹き出した。

「あははっ、良いわね、頑張んなさい。ま、クレアが相手なら浮気なんてしようなんて思いもしないでしょうけど」
「………あー」
「え、うそ。あの子あんな鈍感なくせに浮気症なの?」
「え、あ、いや違います。そうじゃなくて…」
「あ、もしかしてライバルが?」
「うぅ、そうなんですよぅ……」

 呻くクレアの可愛らしさに内心悶えつつ、アリアは考える。
 
 確かにロイドは顔は整っている。
 おまけに実力もついているし、地頭も良い。
 性格は基本穏やかとも言えるし、身内は大切にするーー敵対者には苛烈すぎるが。

 なるほど、実はモテてもおかしくはないのか。
 そう思い至ったアリアだが、しかしクレア程の女性と比べても他の女性に?そんなレベルの女性がぽんぽん居るとは考えにくい。
 綺麗なのに可愛くて性格も良く、更にはこんなに慕ってくれる女性だ。

 ライバルになりそうな女性など、大戦前からと通算しても数えるほどしかーー

「……え?もしかして…」

 そう思いつつなんとなしに見回していると、1人とんでもない美少女が居た。
 先程戦ったルーガスの美人な奥さん、その隣に立つ娘だ。名前はたしかーー

「エミリーちゃん?」
「……はいぃ」

 でろんと項垂れるクレア。
 心なし溶けたようにも見えるたれクレアといった様相の彼女に、しかし今度はアリアが言葉に詰まる。

(た、確かにとんでもなく綺麗ね……ロイド、あんた罪な男だわ)

 クレアのような儚い雰囲気と明るい性格のギャップとは相反するような、見るからに活発そうな美少女。
 人によってはキツさを感じかねない猫目だが、それがマッチした凛とした雰囲気であり非の打ち所がない美少女だ。

 しかしふと思う。

「……あの子だけ?」
「いえ、他にも怪しい子はいっぱいです……末っ子とか、王女とか」
「な、なんか聞き流すにはでかすぎるワードがあったけど……そうじゃなくて、それなら2人とも結婚すれば良いんじゃないの?」
「………むぅ」

 きょとんと首を傾げるアリア。
 彼女からすれば当然の知識であり、むしろ何がいけないのかと純粋な疑問を抱く。
 
 彼女の時代、大戦の影響もって人口が減った。
 それを危惧したのか、当時の国王は平民は妻を2人まで、貴族は上限なしに認めたのだ。
 ちなみに平民が2人までなのは稼ぎの問題で貧困する家庭が問題視された為の上限設定である。

 つまりは、ロイドであれば次男とはいえ貴族である為何人でも娶れるはずなのだ。
 しかしむくれる少女を見て、時代の変化か?と予想するアリア。 
 
 だが、違った。

「そうですけど……やっぱり1人が良いじゃないですかぁ」
「……っ!」
「んぷっ!?」

 頬を膨らませる彼女を思わず抱き寄せるアリア。

「可愛いっ!持って帰るわ!レオン、あとは頼んだわよ!私っ、ちょっとお持ち帰りするわっ!」
「おい待て馬鹿」

 クレアを抱えたまま駆け出すアリアを素早く回り込んだレオンが止めた。

「ぷはっ!……これが女性の武器…!」

 そうしている内にアリアの胸から脱出したクレアが呼吸を整えつつ、アリアの胸元を睨んでいる。が、これ以上場が荒れてたまるかとレオンは無視する。
 
 その際、平均はかろうじてあるか、少し下回る程度のクレアの胸元をちらりと見て、レオンは弟子を思う。

 すなわち、絶対クレアに胸の話をするなよ、と。

「あはは、つい」
「お前のついはシャレにならん」

 実際、レオン以外に逃走しようとしたアリアを捕獲出来なかったらのだからそう言われても仕方ない。
 軽い説教を聞いたり聞き流したりしつつ、アリアはクレアに言う。

「まぁ、向こうでの価値観もあるでしょうから何も言わないけど……クレア?」
「え、あ、なんでしょう?」

 ハイライトの消えた目を元に戻してこちらを見やるクレアに、今初めて気付いたアリアはちょっとびっくり。え、今胸めっちゃ睨んでなかった?あと普通に怖かったし、短期間で2回も気圧されたわ。
 しかしそこは英雄。何気なさを装う。

「これはあくまで参考になればの話よ?昔の女性は、1人目の奥さんが2人目の奥さんができるのを嫌がる人もいたのよ」
「……はい」
「そんな女性も最終的に許したパターンがあってね。なんでだと思う?」
「………分かりません」

 律儀に考えてから首を横に振るクレアに、アリアは包み込むような笑顔を浮かべる。

「それはね。1人目の女性が2人目の女性を好きになったからよ。あ、別に恋愛的な意味じゃなくてね」

 恋愛的な意味じゃなくもない時もあったらしいが、今はとりあえず言わないでおく。

「クレアは、エミリーちゃんの事は嫌いなの?」
「………好きです」
「そう」

 だったら、とは続けない。
 ただ頷いて優しく笑うアリアに、クレアは「せこい」と内心呟く。

 こんなにも美しく、それでいてかっこいい女性の、優しく包み込むような笑顔。
 あまりに魅力的すぎる女性に、クレアは拗ねるような表情しか出来なかった。

「……アリアさん、ライバルにならないでくださいね」
「ふふっ……うーん、どうしよっかしらね」
「え?えぇっ?!ちょ、ま、え、ええっ?!」

 慌てるクレアに、アリアは笑みを深める。
 慌て方も少しロイドに似てるなぁ、なんて思いながら、この微笑ましい少女の頭を撫でたくなるが我慢。無理、撫でた。

「ねぇ、エミリーちゃあん?」
「? はい?」

 そのままエミリーを手招きで呼ぶアリア。ちょっ、聞いてるんですか?!という可憐な声はスルーだ。

「ねぇ、ロイドのこと好きなの?」
「え、はい。好きですよ」
「わお」

 さらりと頷くエミリー。
 何も恥じる事はないとばかりの姿に、綺麗さとかっこよさを持つ素敵な少女だと内心悶えるアリア。
 なるほど、クレアとは違う方向性だが確かに魅力的な少女であると頷く。

「そうなのね。ふふっ、ロイドとあなた、それとクレアの結婚式、楽しみにしてるわね」

 ともすれば無神経な発言だが、しかし探りを入れる意味を込めて言った言葉。
 しかし若干の申し訳なさを覚えつつ放った言葉の反応は、アリアからすれば予想外なもの。

「へ?そ、そんなの……まだ……」

 ごにょごにょ。どんどん小さくなる語尾と、赤くなる顔。
 
 それを見たアリアがまたお持ち帰り宣言をしてレオンに捕まる流れを繰り返したのは言うまでもないだろう。

 そして、落ち着いた後に凛とした眼で告げた「魔王をぶっ飛ばしてから考えるわ」というエミリーの言葉に、アリアが目を剥いたことも。
 
(ほんっとに良い子で、強い女性達ね。こんな子達に好かれて……)

 ロイド、アンタやっぱ罪な男だわ、断罪しなきゃ。と内心呟くのであった。


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