魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
28 内憤
「お、おいっ!どうなったんだ?!」
うずくまるエミリーに近寄る、ラルフをはじめとした親世代とも言うべき面々。
あまりに不可解な現象について問うラルフだが、しかしエミリーと同じ光景を見ていた彼もエミリーが認識した範囲くらいは何が起きたのか理解出来ないはずがなく。
「あいつは、ロイドはどこ行きやがったんだ!」
ロイドが消えた。その事は彼とて否応なく認識していた。
「…………」
無言のままうずくまっているエミリーに、次第にラルフの表情が変わっていく。吊り上がった眉尻は下がり、噛み締めるかのような口元は力を無くす。
「………まさかアイツが……、ウソだろ…」
「っ……」
最悪の事態を理解して、ラルフは小さく声を溢した。やはり同じ考えに至ったベルも、ラルフの横で息を呑む。
決して何が起きたかは理解出来ていない。
何もかもが一瞬で、魔力探知といった技術の範疇を遥かに超えた莫大な魔力の衝突と奔流により過程のひとつも追えなかった。
だが、結果だけは今こうして理解出来る。
魔王は消え去った。死を予見させる悪夢の魔術の余波もない。
そして、ロイドもいない。
平和なはずの静寂の中で、嫌な沈黙が満ちていた。
「さてと、エミリーさんはどうしますか?」
しかし、全員が全員、そうではなかったらしい。
平素と変わらぬ口調で沈黙を破ったのはクレア。
そのあまりに場にそぐわない口調に一拍理解が遅れたラルフが、俯かせていた顔をのそりと上げる。
「……私は、そうね。そこらへんを探しに行くわ」
「そうですか。私は待つつもりでしたが……そうですね、やっぱり1人どっか行っちゃったので、追いかけて連れてきましょうか」
「だったら途中までついていくわよ」
「あ、助かります」
同じく、俯いていたエミリーはすくっと立ち上がる。
その口調は、まるで普段と変わりない。
「お、おい……」
「私、寝るわね。もう魔力がないのよぉ。あ、ロゼットに魔導具だっけ?その武器の作成を急いでもらっておいて」
クレア達に口を開きかけたラルフと被るように、シルビアが伸びをしながら言う。
どこか疲労を滲ませてはいるが、悲壮感は見当たらない。
そして伸びを終えると、そのままウィンディア領へと歩き出した。
「探しに行く役目はエミリーにとられたので、僕は王都に向かいますね」
「頼む。すまないが、俺は休ませてもらう」
「それはそうですよ。まともに魔力も残ってないでしょう」
吸魔の秘奥により魔力枯渇寸前のルーガスは、しかし顔色は悪くとも振る舞いは毅然としており、それにどこか呆れたようにフィンクが溜息混じりに返す。
「おい」
「………」
そこで、ラルフの限界が来た。
ルーガスの胸ぐらを掴み、『剣神』の名に恥じぬ鋭い視線を叩きつける。
それを、ルーガスは静かな瞳で受け止めた。
「休むだぁ…?ふざけた事ぬかしねんじゃねぇぞ!!」
ロイドが消えた。
魔王と共に朽ちたとしか見えない状況に、しかし弔うことすらなく休むという親二人に、ラルフは理性を忘れた。
「それともなんだ?魔王さえ消えればそれで終わりってんのか!?」
「先輩は生きてます」
絶望感を転化させた怒りを堪える事すら忘れて吐き出す彼に、しかし返事はルーガスよりも早くクレアから返ってきた。
非現実的な、現実逃避のような言葉に、ラルフは妖刀のような鋭すぎる目つきそのままにクレアに顔を向ける。
「あの人が簡単に死ぬワケないじゃないですか」
しかし見ただけで腰を抜かしてしまいそうな視線は、クレアの言葉に一切の揺れを生む事はなかった。
それによってか、冷たさはそのままながらもラルフの気勢が微かにそがれる。
「……根拠はあるのか」
「ありません。でもひょっこり帰ってきますよ」
「………」
「先輩が、約束を守らず消える訳ないですから」
何を当たり前の事を。そう聞こえてきそうな口調で、クレアは言葉を重ねた。
ロイドは、レオンの行く先を切り開く手伝いを約束していた。
それを中途半端にするような男ではないと、クレアは知っている。
「なので、早とちりなレオンさんは回収して一緒に待ってもらいます」
「僕は、あの魔王とやらが死んだとも思えないので、備えるために王都に行きます」
言葉を引き継ぐように、フィンクが口を開いた。
「それに、カイン皇太子がラルフさんみたいに先走らないとも限りませんしね」
「………はぁ…」
国の時期トップとまとめて小馬鹿にするようなフィンクに、むしろ肩の力が抜けたとばかりにラルフは大きな溜息をついた。
それを見計らったかのように、ルーガスがラルフの肩に手を置く。
「俺の息子で、元お前の教え子が簡単に死ぬとでも思っているのか。それより、万一に備えて体調を整える事に集中しろ。……お前達もな」
ラルフに手を置いたまま、視線を周囲に向けるルーガス。
一言も話さなかったが、ラルフと似たような表情をしていた面々がその視線を受け止めた。
「……はぁ、なんて家族だい」
「全くだな」
「疲れたし、寝る」
その視線に溜息混じりにベル、ディアモンド、ドラグがシルビアを追うように歩き出した。
それを見送るように眺めていたルーガスに、ラルフが口を開く。
「……悪い。冷静じゃなかった」
「気にするな。ラルフの導火線が短いのは知っているしな」
「うるせぇよ」
謝罪もすぐに軽口へと消え、二人は示し合わせる訳でもなく同時にウィンディア領へと足を踏み出した。
そんな中、チラと小さく後ろに目を向ける。その視線の先で、フィンクが王都へと歩き始め、少し遅れてクレアとエミリーがフェブル山脈へと歩き出していた。
そして、視線を戻して横にいるルーガスへと視線を向け、そして先を行くシルビアへと視線を移す。
そして、密かに溜息をこぼした。
(はぁ……ほんと、俺の短気はどうしようもねぇ)
己の未熟さと、狭くなりすぎていた視野を自嘲する。
何故なら、フィンクも、クレアも、エミリーも。シルビアも、ルーガスも。
(俺よりもキレてやがるもんな)
まるで日常会話のように話す彼ら彼女らの、奥底で燻る感情にさえ気付けないのだから。
うずくまるエミリーに近寄る、ラルフをはじめとした親世代とも言うべき面々。
あまりに不可解な現象について問うラルフだが、しかしエミリーと同じ光景を見ていた彼もエミリーが認識した範囲くらいは何が起きたのか理解出来ないはずがなく。
「あいつは、ロイドはどこ行きやがったんだ!」
ロイドが消えた。その事は彼とて否応なく認識していた。
「…………」
無言のままうずくまっているエミリーに、次第にラルフの表情が変わっていく。吊り上がった眉尻は下がり、噛み締めるかのような口元は力を無くす。
「………まさかアイツが……、ウソだろ…」
「っ……」
最悪の事態を理解して、ラルフは小さく声を溢した。やはり同じ考えに至ったベルも、ラルフの横で息を呑む。
決して何が起きたかは理解出来ていない。
何もかもが一瞬で、魔力探知といった技術の範疇を遥かに超えた莫大な魔力の衝突と奔流により過程のひとつも追えなかった。
だが、結果だけは今こうして理解出来る。
魔王は消え去った。死を予見させる悪夢の魔術の余波もない。
そして、ロイドもいない。
平和なはずの静寂の中で、嫌な沈黙が満ちていた。
「さてと、エミリーさんはどうしますか?」
しかし、全員が全員、そうではなかったらしい。
平素と変わらぬ口調で沈黙を破ったのはクレア。
そのあまりに場にそぐわない口調に一拍理解が遅れたラルフが、俯かせていた顔をのそりと上げる。
「……私は、そうね。そこらへんを探しに行くわ」
「そうですか。私は待つつもりでしたが……そうですね、やっぱり1人どっか行っちゃったので、追いかけて連れてきましょうか」
「だったら途中までついていくわよ」
「あ、助かります」
同じく、俯いていたエミリーはすくっと立ち上がる。
その口調は、まるで普段と変わりない。
「お、おい……」
「私、寝るわね。もう魔力がないのよぉ。あ、ロゼットに魔導具だっけ?その武器の作成を急いでもらっておいて」
クレア達に口を開きかけたラルフと被るように、シルビアが伸びをしながら言う。
どこか疲労を滲ませてはいるが、悲壮感は見当たらない。
そして伸びを終えると、そのままウィンディア領へと歩き出した。
「探しに行く役目はエミリーにとられたので、僕は王都に向かいますね」
「頼む。すまないが、俺は休ませてもらう」
「それはそうですよ。まともに魔力も残ってないでしょう」
吸魔の秘奥により魔力枯渇寸前のルーガスは、しかし顔色は悪くとも振る舞いは毅然としており、それにどこか呆れたようにフィンクが溜息混じりに返す。
「おい」
「………」
そこで、ラルフの限界が来た。
ルーガスの胸ぐらを掴み、『剣神』の名に恥じぬ鋭い視線を叩きつける。
それを、ルーガスは静かな瞳で受け止めた。
「休むだぁ…?ふざけた事ぬかしねんじゃねぇぞ!!」
ロイドが消えた。
魔王と共に朽ちたとしか見えない状況に、しかし弔うことすらなく休むという親二人に、ラルフは理性を忘れた。
「それともなんだ?魔王さえ消えればそれで終わりってんのか!?」
「先輩は生きてます」
絶望感を転化させた怒りを堪える事すら忘れて吐き出す彼に、しかし返事はルーガスよりも早くクレアから返ってきた。
非現実的な、現実逃避のような言葉に、ラルフは妖刀のような鋭すぎる目つきそのままにクレアに顔を向ける。
「あの人が簡単に死ぬワケないじゃないですか」
しかし見ただけで腰を抜かしてしまいそうな視線は、クレアの言葉に一切の揺れを生む事はなかった。
それによってか、冷たさはそのままながらもラルフの気勢が微かにそがれる。
「……根拠はあるのか」
「ありません。でもひょっこり帰ってきますよ」
「………」
「先輩が、約束を守らず消える訳ないですから」
何を当たり前の事を。そう聞こえてきそうな口調で、クレアは言葉を重ねた。
ロイドは、レオンの行く先を切り開く手伝いを約束していた。
それを中途半端にするような男ではないと、クレアは知っている。
「なので、早とちりなレオンさんは回収して一緒に待ってもらいます」
「僕は、あの魔王とやらが死んだとも思えないので、備えるために王都に行きます」
言葉を引き継ぐように、フィンクが口を開いた。
「それに、カイン皇太子がラルフさんみたいに先走らないとも限りませんしね」
「………はぁ…」
国の時期トップとまとめて小馬鹿にするようなフィンクに、むしろ肩の力が抜けたとばかりにラルフは大きな溜息をついた。
それを見計らったかのように、ルーガスがラルフの肩に手を置く。
「俺の息子で、元お前の教え子が簡単に死ぬとでも思っているのか。それより、万一に備えて体調を整える事に集中しろ。……お前達もな」
ラルフに手を置いたまま、視線を周囲に向けるルーガス。
一言も話さなかったが、ラルフと似たような表情をしていた面々がその視線を受け止めた。
「……はぁ、なんて家族だい」
「全くだな」
「疲れたし、寝る」
その視線に溜息混じりにベル、ディアモンド、ドラグがシルビアを追うように歩き出した。
それを見送るように眺めていたルーガスに、ラルフが口を開く。
「……悪い。冷静じゃなかった」
「気にするな。ラルフの導火線が短いのは知っているしな」
「うるせぇよ」
謝罪もすぐに軽口へと消え、二人は示し合わせる訳でもなく同時にウィンディア領へと足を踏み出した。
そんな中、チラと小さく後ろに目を向ける。その視線の先で、フィンクが王都へと歩き始め、少し遅れてクレアとエミリーがフェブル山脈へと歩き出していた。
そして、視線を戻して横にいるルーガスへと視線を向け、そして先を行くシルビアへと視線を移す。
そして、密かに溜息をこぼした。
(はぁ……ほんと、俺の短気はどうしようもねぇ)
己の未熟さと、狭くなりすぎていた視野を自嘲する。
何故なら、フィンクも、クレアも、エミリーも。シルビアも、ルーガスも。
(俺よりもキレてやがるもんな)
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