魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
4 登山
「おぉー……」
水上を走る、さして大きくもないが、しかし小さくもない木造船。そのデッキで、ロイドは口を緩く開いたまま感嘆の声をもらした。
「わぁ……森とか山は見慣れていたと思ってましたが……随分と綺麗に見えますね」
そのロイドの横に現れて話しかけるクレアも、ロイドと同じ方向に視線を向けていた。
海を思わせる巨大な河川、大河ノーベム。その先に見えるのは、美しい木々を蓄えた山々が並ぶ、自由国家セプテン。
その景色に目を奪われていると、ロイドの隣、クレアの反対側に並んだエミリーが口を開く。
「用のある場所に居る人達も、綺麗な性格してる人達ならいいわね」
「まぁ……そうだな」
少しの気怠気な雰囲気を滲ませた言葉に、ロイドも曖昧に肯定した。
王や皇帝といったトップのいないセプテン。しかし、代わりにと言うべきか様々な人種が集まる国でもある。
他国では滅多に見ない獣人や亜人と称される者達も多くはセプテンに住んでおり、主に民族毎に分かれて住んでいる。
そして国家全体に関する問題や話し合いにおいては、代表的な民族や人種の代表によって国家の運営について会議している。
という話を、船に乗る直前にエミリーから聞いていたのだ。
「肉食系の獣人はあまり話を聞いてくれないって噂らしいですしね」
「ドワーフは酒さえありゃOKとからしいけどな」
「気楽なものね……」
完全に旅行気分のロイドとクレア。エミリーは諌めるような言葉を漏らしつつも、表情はロイド達と似たようなものだ。
その光景を後方にある椅子に腰掛けたレオンは内心はともかく、呆れたように眺めていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うわ、こうして近くに来ると綺麗とかいう話じゃねーな」
「そうね。鬱陶しいわ」
セプテンへと到着してすぐ、まずは目的の場所へと向かうと道から外れて山へと歩き出したレオン。
それを追うロイドとエミリーは、眉根を寄せて高く生い茂る草を手で払いながら吐き捨てていた。
「いっそ焼こうかしら……」
「いいなそれ。風で火力の手伝いするわ」
冗談にしては真剣すぎる目の姉弟に、クレアは苦笑いで声を掛ける。
「えと、それはまずいんじゃ……」
「分かってるわよ」
「冗談だよ、冗談」
本当かなぁ?とクレアは内心呟く。ロイドに至っては魔力まで練っていたし。
「てか、クレアは平気そうだな」
「あ、はい。森には慣れてますしね」
「あー、なんだっけ?『森の調停者』だっけ?」
「らしいですね。何か調停した訳ではないですけど」
エルフの別名である。所以は諸説あるが、有力なのは森においての戦闘能力がずば抜けて高い事と争いを好まない性質から、森での争いを止めてまわったという昔話から生まれたとされている。
現に、転生者という元は現代日本人のクレアにも関わらず、まるで平地を歩くように鬱蒼と茂る草木の中で歩を進めていた。
「よし、クレアの後ろ歩こっと」
「そうね。私もそうするわ」
スムーズに歩くクレアを真似するように2人は歩き出した。某ゲームの移動画面と似た絵面は、どこか間抜けさが無くもない。
「……なんか慣れてきたかも」
そうしている内に要領が掴めたのか、クレアの後ろから飛び出しつつも、変わらぬペースで歩き出したロイド。
それを称賛するような視線で見るクレアと、悔しそうな表情で睨むエミリーを脇目に、レオンの横へと並んだ。
「じじい、今なら俺の方が早く進めるわ」
「くだらん。のんびり山を楽しむ気持ちはないのか」
「あるとしてもここまで生い茂ってると遭難気分が先立つわ!それを言うならさっさと用事済ませて観光した方が良くね?」
「……そういうものか」
どうやらこのルートはレオン的に気配りが下地にあったようだ。的外れだったようだが。
それを聞き耳立てていたクレアは苦笑いを、エミリーは呆れた表情を浮かべる。
「……それはともかく、俺より山道を早く歩くのは不可能だ」
「あんだと?やってみるか?」
「ふん、最近調子に乗っているようだからな。少し身の程を教えてやるか」
「常に偉そうなじじいに言われたかねぇよ!よし勝負だこら」
「クレア、あとでこのクソガキが泣きつくだろうから準備しておけ」
流れるように勝負を始める2人に、女子2人は先程の表情をより深いものにするが、それに構う様子は当然無い。
「ゴールは?」
「真っ直ぐ進めば集落がある。そこだ」
「はっ、楽勝だな」
「あぁ、俺がな」
「言ってろ!お先ぃ!」
言い捨てながらするりと障害物をすり抜けるように駆け出すロイド。
魔法師団の一斉掃射を掻い潜り間合いを詰めた事もあるロイドは、まるで早送りのような速度で山道を進んでいく。
それに対して、
「っておいぃい!それは色々アウトだろ?!」
「どこがだ?真っ直ぐに速く集落に向かう。それに一番適した行動だ」
「単なる破壊行為だろそれ!」
レオンは言葉通りに真っ直ぐ進んでいた。
生い茂る草も、さぞ長く生きたであろう木々も、等しく薙ぎ倒して進む様は、まるで巨大な魔物の行進のようである。
「おまっ、最低だな!セプテンの住民に怒られろ!」
「負け犬の遠吠えは辞めろ、耳障りだ」
「……んのヤロぉ」
普通ならば障害物によって速度は落ちようものだが、やはりレオンの膂力には関係ないようで、ロイドを置き去りにしながら破壊行為に勤しむレオン。
そんな彼の言葉にロイドはでかい青筋を浮かべて唸り、
「そっちがその気ならぁ!」
魔力を練り上げた。
「俺はこうだ!」
風の刃を放った。
「はっはっは!遅くないですかぁ、じじい?!」
追い風を風魔術で行使、併行して身体強化全開。なんならちょこっと『神力』発動。
そうしてレオンの前に躍り出るロイドに、レオンは無言で加速。
「……クレア」
「えぇ、任せて下さい。あ、そのかわり」
「そうね、説教は私に任せなさい」
そうして二筋の道路と破壊痕を残す師弟を見送りながら、クレアは治癒魔法を発動して草木を戻しつつ進むのであった。
水上を走る、さして大きくもないが、しかし小さくもない木造船。そのデッキで、ロイドは口を緩く開いたまま感嘆の声をもらした。
「わぁ……森とか山は見慣れていたと思ってましたが……随分と綺麗に見えますね」
そのロイドの横に現れて話しかけるクレアも、ロイドと同じ方向に視線を向けていた。
海を思わせる巨大な河川、大河ノーベム。その先に見えるのは、美しい木々を蓄えた山々が並ぶ、自由国家セプテン。
その景色に目を奪われていると、ロイドの隣、クレアの反対側に並んだエミリーが口を開く。
「用のある場所に居る人達も、綺麗な性格してる人達ならいいわね」
「まぁ……そうだな」
少しの気怠気な雰囲気を滲ませた言葉に、ロイドも曖昧に肯定した。
王や皇帝といったトップのいないセプテン。しかし、代わりにと言うべきか様々な人種が集まる国でもある。
他国では滅多に見ない獣人や亜人と称される者達も多くはセプテンに住んでおり、主に民族毎に分かれて住んでいる。
そして国家全体に関する問題や話し合いにおいては、代表的な民族や人種の代表によって国家の運営について会議している。
という話を、船に乗る直前にエミリーから聞いていたのだ。
「肉食系の獣人はあまり話を聞いてくれないって噂らしいですしね」
「ドワーフは酒さえありゃOKとからしいけどな」
「気楽なものね……」
完全に旅行気分のロイドとクレア。エミリーは諌めるような言葉を漏らしつつも、表情はロイド達と似たようなものだ。
その光景を後方にある椅子に腰掛けたレオンは内心はともかく、呆れたように眺めていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うわ、こうして近くに来ると綺麗とかいう話じゃねーな」
「そうね。鬱陶しいわ」
セプテンへと到着してすぐ、まずは目的の場所へと向かうと道から外れて山へと歩き出したレオン。
それを追うロイドとエミリーは、眉根を寄せて高く生い茂る草を手で払いながら吐き捨てていた。
「いっそ焼こうかしら……」
「いいなそれ。風で火力の手伝いするわ」
冗談にしては真剣すぎる目の姉弟に、クレアは苦笑いで声を掛ける。
「えと、それはまずいんじゃ……」
「分かってるわよ」
「冗談だよ、冗談」
本当かなぁ?とクレアは内心呟く。ロイドに至っては魔力まで練っていたし。
「てか、クレアは平気そうだな」
「あ、はい。森には慣れてますしね」
「あー、なんだっけ?『森の調停者』だっけ?」
「らしいですね。何か調停した訳ではないですけど」
エルフの別名である。所以は諸説あるが、有力なのは森においての戦闘能力がずば抜けて高い事と争いを好まない性質から、森での争いを止めてまわったという昔話から生まれたとされている。
現に、転生者という元は現代日本人のクレアにも関わらず、まるで平地を歩くように鬱蒼と茂る草木の中で歩を進めていた。
「よし、クレアの後ろ歩こっと」
「そうね。私もそうするわ」
スムーズに歩くクレアを真似するように2人は歩き出した。某ゲームの移動画面と似た絵面は、どこか間抜けさが無くもない。
「……なんか慣れてきたかも」
そうしている内に要領が掴めたのか、クレアの後ろから飛び出しつつも、変わらぬペースで歩き出したロイド。
それを称賛するような視線で見るクレアと、悔しそうな表情で睨むエミリーを脇目に、レオンの横へと並んだ。
「じじい、今なら俺の方が早く進めるわ」
「くだらん。のんびり山を楽しむ気持ちはないのか」
「あるとしてもここまで生い茂ってると遭難気分が先立つわ!それを言うならさっさと用事済ませて観光した方が良くね?」
「……そういうものか」
どうやらこのルートはレオン的に気配りが下地にあったようだ。的外れだったようだが。
それを聞き耳立てていたクレアは苦笑いを、エミリーは呆れた表情を浮かべる。
「……それはともかく、俺より山道を早く歩くのは不可能だ」
「あんだと?やってみるか?」
「ふん、最近調子に乗っているようだからな。少し身の程を教えてやるか」
「常に偉そうなじじいに言われたかねぇよ!よし勝負だこら」
「クレア、あとでこのクソガキが泣きつくだろうから準備しておけ」
流れるように勝負を始める2人に、女子2人は先程の表情をより深いものにするが、それに構う様子は当然無い。
「ゴールは?」
「真っ直ぐ進めば集落がある。そこだ」
「はっ、楽勝だな」
「あぁ、俺がな」
「言ってろ!お先ぃ!」
言い捨てながらするりと障害物をすり抜けるように駆け出すロイド。
魔法師団の一斉掃射を掻い潜り間合いを詰めた事もあるロイドは、まるで早送りのような速度で山道を進んでいく。
それに対して、
「っておいぃい!それは色々アウトだろ?!」
「どこがだ?真っ直ぐに速く集落に向かう。それに一番適した行動だ」
「単なる破壊行為だろそれ!」
レオンは言葉通りに真っ直ぐ進んでいた。
生い茂る草も、さぞ長く生きたであろう木々も、等しく薙ぎ倒して進む様は、まるで巨大な魔物の行進のようである。
「おまっ、最低だな!セプテンの住民に怒られろ!」
「負け犬の遠吠えは辞めろ、耳障りだ」
「……んのヤロぉ」
普通ならば障害物によって速度は落ちようものだが、やはりレオンの膂力には関係ないようで、ロイドを置き去りにしながら破壊行為に勤しむレオン。
そんな彼の言葉にロイドはでかい青筋を浮かべて唸り、
「そっちがその気ならぁ!」
魔力を練り上げた。
「俺はこうだ!」
風の刃を放った。
「はっはっは!遅くないですかぁ、じじい?!」
追い風を風魔術で行使、併行して身体強化全開。なんならちょこっと『神力』発動。
そうしてレオンの前に躍り出るロイドに、レオンは無言で加速。
「……クレア」
「えぇ、任せて下さい。あ、そのかわり」
「そうね、説教は私に任せなさい」
そうして二筋の道路と破壊痕を残す師弟を見送りながら、クレアは治癒魔法を発動して草木を戻しつつ進むのであった。
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