魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
102 圧倒
一瞬、空気が死んだ。
そう思うような時間の停滞が学園全体に起こる。
「……あの、やっぱ怒ってる?」
その静まり返った雰囲気を、言葉にならない程怒っていると思った少年は恐る恐る顔を上げて伺う。
そしてチラと見た学園防衛の大将であるカインは、呆けたように目を丸くしていた。
「ん?あの、カインさーん?もしもーし」
あれ?怒ってない?とか思っていつもの飄々とした雰囲気を取り戻した少年、ロイドはカインの目の前で手をヒラヒラしてみせる。
「この……」
「この?」
小さく呟く、聞き逃しそうな声にロイドが耳を近寄せるように顔を覗き込ませると、
「馬鹿者がぁあ!!」
「あいってぇええ?!」
その頬に思い切りビンタするカイン。
首がグキリと嫌な音を立てる勢いで叩かれたロイドは、土下座の時の正座のままだった体勢から吹き飛ばされて地面を滑っていく。
「おま、おまっ!おっせぇんだよ!」
「ぶふぇぁあっ!」
更には滑っていくロイドを跳ね返すように蹴るグラン。ふわりと浮いた体は、どすんと音を立てて地面に突き刺さった。
「なんだあいつは……」
「さぁ……」
思わず上位魔族さえも呆れた視線を向けてしまう状況。
そんかなんとも言えない空気からいち早く立ち直ったのはまさかの校舎内の避難した若者達。
「ふ、ふざけてる場合かぁっ!」
「そいつを囮にして逃げましょう!」
「それだ!おいそこのお前!突撃して少しでも時間を稼げ!」
ロイドへの罵倒。仕方ないとも言えるが、しかし内容はあまりに酷い。 え、めっちゃ言うやん。なんて内心苦笑いなロイド。
「っ、ロイド!状況が悪い、寝てないで手を貸さんか!」
「ぶっ飛ばしたんあんたですやん」
その罵倒に我に返って指揮官としての顔を取り戻すカイン。思わず呟いたロイドの言葉に再び青筋を浮かべてはいたが。
「まぁ遅刻した分は頑張りますわ。クレア」
「はい、先輩。……先輩、もうちょっと考えて登場しましょうよ」
「言ってる場合か、やるぞ」
「先輩がそれ言いますか?」
と言いつつも魔力を練り上げるクレアとロイド。
「っ、なんだあいつは……!」
その高まる魔力の圧力に、奇しくも呆れたように呟いた先程と同じ言葉で、しかし全く違う意味の声が魔族から漏れる。
人族、しかも子供という貧弱な魔力ばかりのはずの学園。使う魔法は予想以上だったが、しかし外で同族を相手にしている2人以外では目立つ戦力は数人程度。
そういった戦力になる人物に対してで見れば数的優位は魔族にあった。いくら束になろうと、弱い者では強い個には届かない。
だが、それを正反対に覆さんとする気配。
つまり、こちらが束になろうとも、それより強い個には勝てないという先程までとは逆転した戦況が脳裏を過ぎる。
「くっ、総員、あのガキを撃てっ!」
「「おおおっ!」」」
上位魔族でもリーダー格と思われる1人が叫ぶ。
高まる魔力に、他の魔族達も同様の事を考えていたのか、その反応は既に動いていた事が窺える程に迅速。
だが、
「ま、まさか……」
「……『剛魔力』?!」
魔法が放たれるよりも早く、ロイドの身体から立ち昇る碧の魔力。
可視化出来る程の濃密な魔力に、魔族の動きが一瞬止まる。
ほんの小さな硬直だが、ロイドからすれば十分すぎた。
「ん?隙だらけだな。『斬空』」
その隙を容赦なく突くロイド。
空間魔術『斬空』で、上位魔族が飛翔する上空の座標をまとめて空間ごとズラす。
音はない。が、空間が一瞬にしてズバンとズレる振動が、聞こえないはずの音として校庭に響いた。
「……な…」
「バカな……」
一瞬だった。
飛翔していた13体の上位魔族を斬り裂き、何が起こったのか分からないといった表情で絶命して地に落ちるそれら。
「あ、残りは私が。『風檻』『風檻』『崩炎壊』『崩炎壊』」
ふぅと息をつくロイドの横で、クレアが二つの魔法を二重に唱える。
すると、あまりの事態に固まっていた残り2人の上位魔族を包むように風が渦巻き檻のように捕らえ、その時点でハッとしたように回避をしようとする彼らよりも早く、一点集中の爆破魔法が発動。
風の檻で爆破の衝撃と炎熱を逃さず込められた事で、上位魔族であろうとひとたまりもなく消し飛ばされた。
たった数秒で指揮官を失った下位魔族達は、呆然としてしまう。
しかし学園の生徒達はその隙を突くどころか同じく呆けてしまう。
が、いち早く立て直したカインが指示を出そうとして、
「やれやれ、呑気なもんだね」
「本当よ。まぁ大体片付いてるみたいだけど」
氷の刃と、蒼い炎に下位魔族達は呆気なく呑まれていった。
カインから見てその惨劇の後ろ、校門から姿を現したのはウィンディアの長男と長女であるフィンクとエミリーだ。
その姿を見て、ロイドは首を傾げる。
「あ、兄さん、エミリー。どこ行ってたん?」
「いや、ロイドに言われたくないな」
「そうよ。まぁどうせギリギリまで修行して回復が間に合わずに遅れたんでしょうけど」
「…………」
見事に図星を突くエミリーに、ロイドは口をそっと閉じた。
「た、助かったのか……?」
「そう、みたいね……」
あまりに唐突に終結した学園防衛に、着いていけないように呆然とする避難した若者達。
先程まで罵倒の声をあげていたその1人が言う。
「あ、あの人達……ウィンディアの兄弟だ」
「え、あのウィンディアの?」
「間違いないって!『神童』、『風の妖精』と……『恥さらし』だ!」
「いやでも、『恥さらし』っていうけどすげぇ強くねぇか?」
戦場の中心で、しかしいつものようなテンションで話す三兄弟を指差して話す若者達を無視して、カインは言葉を放つ。
「よくやった、ウィンディアの血族よ!そして学園生達の決死の戦いのおかげで、学園の防衛は為された!感謝する!」
てめぇが早よ来てりゃこうも苦戦はしなかったがなぁ!といった視線をロイドに向けつつ宣言するカイン。
ロイドは無言で素直に頭を下げたのであった。
そう思うような時間の停滞が学園全体に起こる。
「……あの、やっぱ怒ってる?」
その静まり返った雰囲気を、言葉にならない程怒っていると思った少年は恐る恐る顔を上げて伺う。
そしてチラと見た学園防衛の大将であるカインは、呆けたように目を丸くしていた。
「ん?あの、カインさーん?もしもーし」
あれ?怒ってない?とか思っていつもの飄々とした雰囲気を取り戻した少年、ロイドはカインの目の前で手をヒラヒラしてみせる。
「この……」
「この?」
小さく呟く、聞き逃しそうな声にロイドが耳を近寄せるように顔を覗き込ませると、
「馬鹿者がぁあ!!」
「あいってぇええ?!」
その頬に思い切りビンタするカイン。
首がグキリと嫌な音を立てる勢いで叩かれたロイドは、土下座の時の正座のままだった体勢から吹き飛ばされて地面を滑っていく。
「おま、おまっ!おっせぇんだよ!」
「ぶふぇぁあっ!」
更には滑っていくロイドを跳ね返すように蹴るグラン。ふわりと浮いた体は、どすんと音を立てて地面に突き刺さった。
「なんだあいつは……」
「さぁ……」
思わず上位魔族さえも呆れた視線を向けてしまう状況。
そんかなんとも言えない空気からいち早く立ち直ったのはまさかの校舎内の避難した若者達。
「ふ、ふざけてる場合かぁっ!」
「そいつを囮にして逃げましょう!」
「それだ!おいそこのお前!突撃して少しでも時間を稼げ!」
ロイドへの罵倒。仕方ないとも言えるが、しかし内容はあまりに酷い。 え、めっちゃ言うやん。なんて内心苦笑いなロイド。
「っ、ロイド!状況が悪い、寝てないで手を貸さんか!」
「ぶっ飛ばしたんあんたですやん」
その罵倒に我に返って指揮官としての顔を取り戻すカイン。思わず呟いたロイドの言葉に再び青筋を浮かべてはいたが。
「まぁ遅刻した分は頑張りますわ。クレア」
「はい、先輩。……先輩、もうちょっと考えて登場しましょうよ」
「言ってる場合か、やるぞ」
「先輩がそれ言いますか?」
と言いつつも魔力を練り上げるクレアとロイド。
「っ、なんだあいつは……!」
その高まる魔力の圧力に、奇しくも呆れたように呟いた先程と同じ言葉で、しかし全く違う意味の声が魔族から漏れる。
人族、しかも子供という貧弱な魔力ばかりのはずの学園。使う魔法は予想以上だったが、しかし外で同族を相手にしている2人以外では目立つ戦力は数人程度。
そういった戦力になる人物に対してで見れば数的優位は魔族にあった。いくら束になろうと、弱い者では強い個には届かない。
だが、それを正反対に覆さんとする気配。
つまり、こちらが束になろうとも、それより強い個には勝てないという先程までとは逆転した戦況が脳裏を過ぎる。
「くっ、総員、あのガキを撃てっ!」
「「おおおっ!」」」
上位魔族でもリーダー格と思われる1人が叫ぶ。
高まる魔力に、他の魔族達も同様の事を考えていたのか、その反応は既に動いていた事が窺える程に迅速。
だが、
「ま、まさか……」
「……『剛魔力』?!」
魔法が放たれるよりも早く、ロイドの身体から立ち昇る碧の魔力。
可視化出来る程の濃密な魔力に、魔族の動きが一瞬止まる。
ほんの小さな硬直だが、ロイドからすれば十分すぎた。
「ん?隙だらけだな。『斬空』」
その隙を容赦なく突くロイド。
空間魔術『斬空』で、上位魔族が飛翔する上空の座標をまとめて空間ごとズラす。
音はない。が、空間が一瞬にしてズバンとズレる振動が、聞こえないはずの音として校庭に響いた。
「……な…」
「バカな……」
一瞬だった。
飛翔していた13体の上位魔族を斬り裂き、何が起こったのか分からないといった表情で絶命して地に落ちるそれら。
「あ、残りは私が。『風檻』『風檻』『崩炎壊』『崩炎壊』」
ふぅと息をつくロイドの横で、クレアが二つの魔法を二重に唱える。
すると、あまりの事態に固まっていた残り2人の上位魔族を包むように風が渦巻き檻のように捕らえ、その時点でハッとしたように回避をしようとする彼らよりも早く、一点集中の爆破魔法が発動。
風の檻で爆破の衝撃と炎熱を逃さず込められた事で、上位魔族であろうとひとたまりもなく消し飛ばされた。
たった数秒で指揮官を失った下位魔族達は、呆然としてしまう。
しかし学園の生徒達はその隙を突くどころか同じく呆けてしまう。
が、いち早く立て直したカインが指示を出そうとして、
「やれやれ、呑気なもんだね」
「本当よ。まぁ大体片付いてるみたいだけど」
氷の刃と、蒼い炎に下位魔族達は呆気なく呑まれていった。
カインから見てその惨劇の後ろ、校門から姿を現したのはウィンディアの長男と長女であるフィンクとエミリーだ。
その姿を見て、ロイドは首を傾げる。
「あ、兄さん、エミリー。どこ行ってたん?」
「いや、ロイドに言われたくないな」
「そうよ。まぁどうせギリギリまで修行して回復が間に合わずに遅れたんでしょうけど」
「…………」
見事に図星を突くエミリーに、ロイドは口をそっと閉じた。
「た、助かったのか……?」
「そう、みたいね……」
あまりに唐突に終結した学園防衛に、着いていけないように呆然とする避難した若者達。
先程まで罵倒の声をあげていたその1人が言う。
「あ、あの人達……ウィンディアの兄弟だ」
「え、あのウィンディアの?」
「間違いないって!『神童』、『風の妖精』と……『恥さらし』だ!」
「いやでも、『恥さらし』っていうけどすげぇ強くねぇか?」
戦場の中心で、しかしいつものようなテンションで話す三兄弟を指差して話す若者達を無視して、カインは言葉を放つ。
「よくやった、ウィンディアの血族よ!そして学園生達の決死の戦いのおかげで、学園の防衛は為された!感謝する!」
てめぇが早よ来てりゃこうも苦戦はしなかったがなぁ!といった視線をロイドに向けつつ宣言するカイン。
ロイドは無言で素直に頭を下げたのであった。
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コメント
330284 ( ^∀^)
ロイドのつよさを改めて実感した