魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
101 学園の戦い
「どうやら予定が狂ったようだな。全員、構えろ!!」
下位魔族が色竜により王都に攻め込み、その一部が学園へと流れ込んでいた。
そんな中、ウィーン魔法学園では皇太子カインの指揮のもと魔族を迎え撃っていた。
「上位魔族は15体!それぞれに二等級生は4人ずつ当たれ!三等級生は全員下位魔族を迎え撃て!」
カインの事前の編成により、60余人の二等級生を最前線に、三等級生を控えさせ、四等級生は得意属性に分かれて後方に編成していた。
最初の予定通りに上位魔族を迎え撃っている最中、下位魔族の一軍が現れて隊列が崩れそうになるのを必死にカインが繋ぎ止めている。
「くそ、下位魔族の数が多い!」
「どうなってんだ?!なんで上級魔族以外が来てるんだよ!」
「上級も思ったより多い!対応が…!」
「落ち着け!数はこちらが圧倒的に有利だ!四等級生は下位魔族へと各隊で魔法を放て!各自ではなく束ねて放つようにしろ!」
想定よりも多い上位魔族の襲撃。最初は20人の上位魔族だったが、5人をフィンクとエミリーが敷地の外で堰き止めている。
そして上位魔族を前後左右で迎え撃つ4人編成で押し留め、下位魔族を三等級生で戦線を足止めする。そして、四等級生の集団魔法で削る。
個で放たれた魔法では破壊魔法の弾幕を貫く事は出来ない為、弾数を削ってでも確実に相手に届き、そして倒す戦法をとっていた。
慌ただしく指示を飛ばすカインのもと、そうした戦況に落ち着いていたが。
「くそ、抜けられるっ!」
「そっち行ったぞ!」
やはり厄介なのは上位魔族だ。
飛翔能力を有する上位魔族は騎士候補レベルの実力を有する二等級生4人がかりであっても抑えるのは困難であり、空を飛ぶ隙を与えまいと間断なく攻めるも、容易にいなされてしまう。
しかし、それもカインは見込んでおり。
「そいつは俺がもらうっ!」
「ならば私はこちらを!」
「えっと、じゃああっちに行くねっ!」
包囲を抜けて猛威を振るわんとする上位魔族に、遊撃部隊として対抗するのがグラン、ティア、ラピスといった面々。
先日のトーナメントの上位者で構成された遊撃部隊により、上位魔族達を迎撃し、そして二等級生の包囲網へと押し戻す。
ちなみにギルベルトもすでに上位魔族と殴り合っていた。
「きゃああっ!」
「ひぃっ!」
学園の校内では、避難していた若者や他学園の生徒達が居た。激しい戦いを目の当たりにして、戦線よりもかなり後方に居るにも関わらず悲鳴や泣き声が飛んでくる。
「ちゃんとやれ!」
「そうよ、早く追い返してよ!」
中には錯乱気味な声で避難する声も少なくない。
そうした声を背中に受ける学園生達は、ジワジワと伝播するように焦燥や恐怖に絡まれていく。
「ぐぁっ!」
「くそ、抑え切れないっ」
ただでさえ慣れない実戦、それも魔族相手。更には背後からの声に、いくら圧倒的な数的有利をもってしても冷静な立ち回りは難しかった。
必要以上に力が入った体では余剰に魔力を魔法に込めてしまい、自分が思う以上に疲弊していく。
また、下位とは言え魔族。数十人相手に100人以上の人員を当ててはいるが、その戦線は徐々に押されていった。
「ちっ」
カインは思わず舌打ちする。
上位魔族もかろうじて後ろに通さず押し留めているものの、いまだに1人として倒せてはいない。
本来ならば二等級生を最前線に置き、三等級生で囲み、四等級生と三等級生の一部で各個撃破していく予定だったのだ。
それを戦力を二分してしまったことで、撃破どころかジリ貧となっていた。
そして、数が多い下位魔族の侵攻を許してしまえば一気に戦場は魔族に傾く。
「子供にしてはやるようだが、所詮はガキだ!」
「騎士や兵士が居ないな。見捨てられたんだな貴様らは」
「我らの戦力を分散させる為のエサにでもされたんだろうよ」
魔族達の言葉に歯を食いしばる学園生達。
グランなんかは聞く耳持たない所か「うるせぇえ!」とか叫んで岩を顔面に叩きつけているが、しかし避難した若者達はそうはいかず。
「やっぱりそうなのか?!王よ、僕達は囮なのですか?!」
「嫌ぁっ!死にたくないっ!」
もはや反狂乱といった様相で叫ぶ校内。
それにガリガリと精神を削られる学園生達も、顔色を悪くしていく。
「くそっ……!火よ、咲き誇る花となれ、舞い散――」
「カイン、落ち着け!まだだ!」
今にも崩れそうな戦線に、指揮官であるカインが打開せんと詠唱するが、それをグランが止める。
父と同じく『火桜』を放たんとしたカインだが、予定では避難している校内へと侵攻を許した際に放たれる最終手段としていた。
学園の校舎を覆うような大規模な『火桜』は、ディアスならまだしもカインにとっては全魔力を必要とする大魔法。
一度きりの切り札であり、そしてその『火桜』を放つということは撤退の合図でもあった。
もっとも、撤退したからといって無事逃げ切れる保証はない。
むしろ背後から襲われたり、逃げ場の確保が他の騎士や戦場でされているかも賭けという、不確定で危険も多い最後の手段でしかない。
「カイン様!何故撃たないのですか?!」
「お願いです、こいつらを焼き払ってください!」
それに目敏く気付いた校舎内の若者達が叫ぶ。
しかし、今放った所で魔族を一掃する事など出来ないのは分かり切っており、むしろ破壊魔法で相殺されておしまい、という可能性の方がよっぽど高い。
「だぁあ!うるっせぇ!黙って見てろぉ!」
「なんだと!?」
「何よ、あんたらがやられそうなのが悪いんじゃない!」
思わず叫ぶグランに、しかし返ってくるのは避難の声。
カインとて大事な民に声を荒げたくはないが、そうしたいと思ってしまうのは仕方ないだろう。
「避難した皆、すまないがーー」
「うわぁああっ?!」
「ぐぁあっ!」
せめて静かにさせようとカインが口を開いた時、校庭から響く悲鳴。
慌てて振り返ると、下位魔族が三等級生の防衛ラインを崩して進軍する姿が。
「ちっ、俺が行く!」
「私も援護します!……『水閃』!」
カインの指示よりも早く、グランの土魔術による防壁とティアのウォーターカッターが飛ぶ。
それによりどうにか立て直そうと崩れた戦線を再び紡ごうとするが、
「く、っそ……」
「こっちに手を貸してくれぇ!」
上位魔族を抑えていた二等級生も限界が近かった。
魔力も残り少なく、傷も目立つ姿は、いかにも厳しそうな状況を示していた。
「……っ!」
追い詰められている。そう痛感せずにはいられない戦況。
本来ならば後方に控えた治癒魔法の使い手のもとに、二等級生の後ろに控えた三等級生が一時的に防衛を代わる事で下がってローテーションするつもりだが、当然今はその余裕はない。
「カイン様ぁっ!魔法を撃ってくださいっ!」
「お願いします、死にたくないよぉっ!」
崩れる三等級生の戦線、限界に近い二等級生の編成陣、追いつかない遊撃部隊。そして阿鼻叫喚といった校舎内。
これまでか、としてカインが魔力を練り上げていく。
「火よ、吐き誇る花となれ、舞い散る花弁よ、爆ぜて散れーー」
詠唱を終えんとするカインに、しかしグランやラピス達も歯噛みはすれど止めはしない。
戦争開始からかなりの時間が経ったように思うが、実際そこまで経過していないだろう。このタイミングで撤退しても逃げ場があるとは思いにくい。
だが、ここで粘っても被害は増えるばかり。それどころか、一度崩れればあっという間に地獄と化すだろう。
誰もが限界だと察していた。
「……『火ーー』」
「遅れてすんませんっしたぁー!」
桜、と続く言葉を遮り、カインの目の前に少年が空から現れーー着地と同時に土下座した。
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