魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
84 魔境ウィンディア
「もう、あなたったら!」
「す、すまない」
現代の最高峰を見たロイド。その数分後には、妻から叱られる夫というありふれたワンシーンを見ていた。
それが先程の惨劇を演じた男だと知ると、なんとも言えない気分にはなるが。
「えっと、母さん?」
「あ、ロイド!聞いてよ、この人ったら私にも回すからって私を下げたのに、全部片付けちゃったのよ?ひどいと思わない?」
「…………」
何からツッコむべきかと押し黙るロイド。
防衛に人員を割くのは当然だろう。だが、だからといって攻勢に出るのが1人である事を当然のように言う母もやはり規格外か。
それに今回はフェブル山脈から野良の魔物が出てきた程度の脅威ではない。
むしろ、ディンバー帝国の総攻撃にも考えようによっては勝る猛威だ。
それをオモチャをとられたかのように言われても、息子としては自重してくれとしか思えない。
「自重してくれ」
「あぁっ、ロイドまでひどい!」
思わずそのまま漏れた本音にシルビアが頬を膨らませる。
良い歳のはずだが、あまりに若々しい見た目のせいでそんな仕草にも違和感を感じない。いっそ怖い程に似合う母に、ロイドは別の意味で戦慄した。
「すまないな、勢い余ってしまった」
「もう、次は私が前なんだから」
ルーガスの謝罪に、ロイドは勢い余ってどうにかなるもんじゃねぇよと内心呟く。
そして、果たしてこのような惨劇の後に『次』はあるのだろうか。もしあれば魔族って結構おバカなのかと思わざるを得ない。
「まぁ……それは置いといて、ロイドは収穫はあったのか?」
ルーガスの話題を変えようとする意思が透けて見える発言に、ロイドはこんなデカイ話題を置いけるスペースねぇよ!と思いつつも頷く。
「多分。遺跡の変な違和感は感じたし、魔力の濃さは学園に近いもんがあったし。学園に戻ってあの違和感を探す感じでいけば見つかる気はするかな」
「そうか」
厳つめの顔を微かに柔らかくするルーガス。
『最強』であり尻に敷かれる夫でもあるルーガスは、どうやら子煩悩の一面もありそうだ。
「当然だ。じゃあさっさと見つけて来い」
「うっせぇなじじい。まだ謹慎解けてねーだろ」
「関係ない。緊急事態だろう」
「そうねぇ。きっと王都にも攻めてくるはずよ?早く習得しておかないとそれどころじゃなくなるかも知れないわ」
レオンの呆れたような言葉に、シルビアが賛同した。
むしろ遺跡こそそれどころじゃない話なのだが、どうやらこの2人からすれば魔族の襲撃よりもロイドの魔術習得の方が重要らしい。
「そうだな。まだ学園生達が騒いでいるようなら王に一喝してもらうか。平静さをいつまでも崩すようならそれまでだしな」
「……王様はあかん」
ごもっともながら重たい発言のルーガス。やはりルーガスも規模感がおかしい側か、と内心諦めつつも、さすがに王が出れば騒ぎが悪化するのは目に見えているので止めておくロイド。
「何なに?もう戻るの?」
「あ、姉さん。そーだな、戻ろっかなって話になってる」
「ふーん。ま、そうしましょっか。さっさとやる事終わらせて戻ってきましょ。学園はもういいわ」
どうやらウィンディアに戻り、居心地の良さを改めて感じたらしいエミリー。
学園というほとんどの若者からすれば割と重要な通過点を面倒と切って捨てるくらいにはつまらないようだ。
「じゃあ今日はゆっくりして、明日戻りなさい?誰かさんが1人も残さず片付けちゃったから、第二陣もいつ来るかさえ分からないしね」
「…………」
1人くらいは情報を聞き出すのに捕まえとけよコラ、というシルビアの視線に、ルーガスは目を逸らした。
そんな光景を苦笑いを浮かべつつ、早めの昼食にしようとフィンクが用意した昼食を楽しんだ。
次期当主は先程の脅威をそうとも思わず料理をしていたらしい。
そうしてその後ものんびりと過ごし、そして翌日の朝から学園へと向かうのであった。
「……随分と久しぶりだなロイド」
「え?そう?そんな経ってなくね?」
「その通りだバカ!嫌味に決まってるだろう!まだ戻るように言ってはおらんぞ!」
それから学園に戻ってすぐ。
生徒会室にて皇太子であるカインが青筋を浮かべてロイドに怒鳴っていた。後ろに机に座るティアも、口にはせずとも言いたい事は同じようで、頭を抱えて机に突っ伏している。
「すまんすまん」
「やかましい!」
「でもよー、魔族来るしさ」
「………は?」
「そうだぜ。だから急いでんだ」
「ま、待て、今何と言った?」
吊り上げていた目を丸くするカインと、似たような表情で机から顔を上げてこちらを見ているティアに、今度はロイドが目を丸くした。
「あれ?まだ情報来てない?ウィンディアに魔族がたくさん来てさー。せっかくだし呼べば良かったか?」
「いやそんなお友達とパーティしたみたいなノリで!」
余程驚いたのかティアからツッコミが飛ぶ。カインも珍しそうにそんなティアを見るが、それどころではなかったみたいな顔をしてロイドに視線を向けた。
「いつだ?!」
「昨日の昼前」
「……なるほど、そろそろ王城に情報はいく頃か。くそ、勇者も行方不明だというのに……」
「えっ、そーなん?」
頭痛を堪えるようにこめかみをおさえるカインの呟きに、ロイドが驚く。
そして思わずエミリーに視線を向けると、同じくロイドに視線を向けていたエミリーが居た。
2人はしばし見つめ合い、どちらともなく頷く。
「殿下。謹慎期間に勇者がウィンディアに来ておりましたが……」
「あぁ、それは聞いている。ルーガス殿に師事を願いに行ったと……だが、それ以降の行方が分からないのだ」
「俺に決闘挑んで負けた後か?」
「何?それは聞いてないぞ……だが、恐らくそうだろうな。そこからの情報が無いのだからな」
片眉を跳ねさせて反応するカインが納得するように頷く。だが、それが探索に繋がるものではないと判断してしばし押し黙り、
「というかロイド。お前は報告という概念はないのか?」
「え?いやー、なんかほっといてもバレるイメージだったからさ。つい」
「そんな訳があるか。ただでさえウィンディアは魔鏡だと言うのに」
「ん?魔鏡はウィンディアじゃなくてフェブル山脈だろ?」
「そうなんだが、そうじゃない」
カインが言うには、フェブル山脈は勿論のこと、ウィンディア領も似たような扱いらしい。
いわく、『魔鏡』『人外の住む地』『多分魔王も侵攻しないだろあそこ』とエイルリア王国民は呼んでいるとか。
そしてそんな土地だからこそ、情報を王都へと届ける諜報も行きたがらない場所ナンバーワンらしい。
「だからウィンディアからの情報は距離以上にラグが出やすいんだ。今後はちゃんと報告してくれ」
「まぁ今後があればなー」
「……お前、仮にも俺が皇太子だと忘れてないか?」
そう言いながら溜息をつくカイン。半分諦めているらしい。
確かにロイド達が長く学園に留まるとは思えないし、そうすべきではないとも思っている。
すでに十分と言える彼らの実力を伸ばすのなら、学園よりもウィンディアという魔鏡が適しているからだ。
「まぁいい。それより魔族だ。侵攻のタイミングなどは聞き出せたのか?」
「あーいや……」
「……?なんだ?そこまで口が固い種族だったのか?」
「いや、尋問とかがじゃなくて……」
頭を切り替えて質問するカインに、ロイドは苦笑いで会話を濁す。
それに訝しげな表情を浮かべてカインは問い詰めようとするも、はたと視界に映ったエミリーも似たような表情なのを見て目を丸くする。
「ま、まさか逃げられたのか?ならばもしや、噂に聞く上位魔族が混じっていたのか?」
魔族の階級に沿った強さは王国に言い伝えられてある。
それをもとに考えると、自分やロイド達の実力ならば下位はもちろん、中位魔族にも遅れはそうはとらないはずだ。
だが、上位となると難しい。上位魔族ともなると厄災と呼ばれる魔物にも迫る力を持つ者さえ居るというのだから。
もしそんな脅威が混じっているならば取り逃すのも仕方ないと思う反面、そんな化物が出てくる程に本格的な侵攻なのかと顔を引きつらせるカイン。
「いや、混じるってゆーか来たの全員上位の魔族らしいわ」
「な……?!」
だが、その顔をさらに引きつらせるロイドの発言に言葉を失う。
そうなるともはや天災にも等しい被害が考えられる。そして、そんな事態が起こるというのなら侵攻は小競り合いのレベルではなく、魔王候補クラスの率いる軍団だと否応なしに理解させられた。
それと同時に、ハッと気付いてカインはロイドに視線をやる。
「……どしたよ?」
「怪我は大丈夫なのか?というより学園に来ている場合なのか?……そうか、ウィンディアの被害復興の支援依頼か?」
そんな大厄災にも等しい事態の翌日だ。当然と言えば当然の心配をするカインにロイドはへらりと笑う。
「いや被害はねーよ」
「何?!」
「てかすんません、父さんが勢い余って捕虜とかなく倒しちゃった……」
えへ、なんて語尾が聞こえてきそうな表情で告げるロイドに、カインとティアは完全に言葉を失ったようだ。
口をあんぐりと開けて固まる王族と生徒会長の2人は、学園の生徒が見ればちょっとした騒ぎになる程珍しい光景だろう。
「で、父さん1人で片付けたから被害はなし。魔族騒動で騒がしくなる前にさっさと探し物の遺跡探索を済ませて来いってさ」
そのまま報告を済ませたロイドに、カインは無反応。
聞いてる?といった感じに首を傾げるロイドに、まぁそんな反応も仕方ないわなといったグランとエミリー。
しばしの沈黙の後、カインは溜息混じりに小さく呟いた。
「さすがウィンディア、か……魔鏡すぎるだろ」
「す、すまない」
現代の最高峰を見たロイド。その数分後には、妻から叱られる夫というありふれたワンシーンを見ていた。
それが先程の惨劇を演じた男だと知ると、なんとも言えない気分にはなるが。
「えっと、母さん?」
「あ、ロイド!聞いてよ、この人ったら私にも回すからって私を下げたのに、全部片付けちゃったのよ?ひどいと思わない?」
「…………」
何からツッコむべきかと押し黙るロイド。
防衛に人員を割くのは当然だろう。だが、だからといって攻勢に出るのが1人である事を当然のように言う母もやはり規格外か。
それに今回はフェブル山脈から野良の魔物が出てきた程度の脅威ではない。
むしろ、ディンバー帝国の総攻撃にも考えようによっては勝る猛威だ。
それをオモチャをとられたかのように言われても、息子としては自重してくれとしか思えない。
「自重してくれ」
「あぁっ、ロイドまでひどい!」
思わずそのまま漏れた本音にシルビアが頬を膨らませる。
良い歳のはずだが、あまりに若々しい見た目のせいでそんな仕草にも違和感を感じない。いっそ怖い程に似合う母に、ロイドは別の意味で戦慄した。
「すまないな、勢い余ってしまった」
「もう、次は私が前なんだから」
ルーガスの謝罪に、ロイドは勢い余ってどうにかなるもんじゃねぇよと内心呟く。
そして、果たしてこのような惨劇の後に『次』はあるのだろうか。もしあれば魔族って結構おバカなのかと思わざるを得ない。
「まぁ……それは置いといて、ロイドは収穫はあったのか?」
ルーガスの話題を変えようとする意思が透けて見える発言に、ロイドはこんなデカイ話題を置いけるスペースねぇよ!と思いつつも頷く。
「多分。遺跡の変な違和感は感じたし、魔力の濃さは学園に近いもんがあったし。学園に戻ってあの違和感を探す感じでいけば見つかる気はするかな」
「そうか」
厳つめの顔を微かに柔らかくするルーガス。
『最強』であり尻に敷かれる夫でもあるルーガスは、どうやら子煩悩の一面もありそうだ。
「当然だ。じゃあさっさと見つけて来い」
「うっせぇなじじい。まだ謹慎解けてねーだろ」
「関係ない。緊急事態だろう」
「そうねぇ。きっと王都にも攻めてくるはずよ?早く習得しておかないとそれどころじゃなくなるかも知れないわ」
レオンの呆れたような言葉に、シルビアが賛同した。
むしろ遺跡こそそれどころじゃない話なのだが、どうやらこの2人からすれば魔族の襲撃よりもロイドの魔術習得の方が重要らしい。
「そうだな。まだ学園生達が騒いでいるようなら王に一喝してもらうか。平静さをいつまでも崩すようならそれまでだしな」
「……王様はあかん」
ごもっともながら重たい発言のルーガス。やはりルーガスも規模感がおかしい側か、と内心諦めつつも、さすがに王が出れば騒ぎが悪化するのは目に見えているので止めておくロイド。
「何なに?もう戻るの?」
「あ、姉さん。そーだな、戻ろっかなって話になってる」
「ふーん。ま、そうしましょっか。さっさとやる事終わらせて戻ってきましょ。学園はもういいわ」
どうやらウィンディアに戻り、居心地の良さを改めて感じたらしいエミリー。
学園というほとんどの若者からすれば割と重要な通過点を面倒と切って捨てるくらいにはつまらないようだ。
「じゃあ今日はゆっくりして、明日戻りなさい?誰かさんが1人も残さず片付けちゃったから、第二陣もいつ来るかさえ分からないしね」
「…………」
1人くらいは情報を聞き出すのに捕まえとけよコラ、というシルビアの視線に、ルーガスは目を逸らした。
そんな光景を苦笑いを浮かべつつ、早めの昼食にしようとフィンクが用意した昼食を楽しんだ。
次期当主は先程の脅威をそうとも思わず料理をしていたらしい。
そうしてその後ものんびりと過ごし、そして翌日の朝から学園へと向かうのであった。
「……随分と久しぶりだなロイド」
「え?そう?そんな経ってなくね?」
「その通りだバカ!嫌味に決まってるだろう!まだ戻るように言ってはおらんぞ!」
それから学園に戻ってすぐ。
生徒会室にて皇太子であるカインが青筋を浮かべてロイドに怒鳴っていた。後ろに机に座るティアも、口にはせずとも言いたい事は同じようで、頭を抱えて机に突っ伏している。
「すまんすまん」
「やかましい!」
「でもよー、魔族来るしさ」
「………は?」
「そうだぜ。だから急いでんだ」
「ま、待て、今何と言った?」
吊り上げていた目を丸くするカインと、似たような表情で机から顔を上げてこちらを見ているティアに、今度はロイドが目を丸くした。
「あれ?まだ情報来てない?ウィンディアに魔族がたくさん来てさー。せっかくだし呼べば良かったか?」
「いやそんなお友達とパーティしたみたいなノリで!」
余程驚いたのかティアからツッコミが飛ぶ。カインも珍しそうにそんなティアを見るが、それどころではなかったみたいな顔をしてロイドに視線を向けた。
「いつだ?!」
「昨日の昼前」
「……なるほど、そろそろ王城に情報はいく頃か。くそ、勇者も行方不明だというのに……」
「えっ、そーなん?」
頭痛を堪えるようにこめかみをおさえるカインの呟きに、ロイドが驚く。
そして思わずエミリーに視線を向けると、同じくロイドに視線を向けていたエミリーが居た。
2人はしばし見つめ合い、どちらともなく頷く。
「殿下。謹慎期間に勇者がウィンディアに来ておりましたが……」
「あぁ、それは聞いている。ルーガス殿に師事を願いに行ったと……だが、それ以降の行方が分からないのだ」
「俺に決闘挑んで負けた後か?」
「何?それは聞いてないぞ……だが、恐らくそうだろうな。そこからの情報が無いのだからな」
片眉を跳ねさせて反応するカインが納得するように頷く。だが、それが探索に繋がるものではないと判断してしばし押し黙り、
「というかロイド。お前は報告という概念はないのか?」
「え?いやー、なんかほっといてもバレるイメージだったからさ。つい」
「そんな訳があるか。ただでさえウィンディアは魔鏡だと言うのに」
「ん?魔鏡はウィンディアじゃなくてフェブル山脈だろ?」
「そうなんだが、そうじゃない」
カインが言うには、フェブル山脈は勿論のこと、ウィンディア領も似たような扱いらしい。
いわく、『魔鏡』『人外の住む地』『多分魔王も侵攻しないだろあそこ』とエイルリア王国民は呼んでいるとか。
そしてそんな土地だからこそ、情報を王都へと届ける諜報も行きたがらない場所ナンバーワンらしい。
「だからウィンディアからの情報は距離以上にラグが出やすいんだ。今後はちゃんと報告してくれ」
「まぁ今後があればなー」
「……お前、仮にも俺が皇太子だと忘れてないか?」
そう言いながら溜息をつくカイン。半分諦めているらしい。
確かにロイド達が長く学園に留まるとは思えないし、そうすべきではないとも思っている。
すでに十分と言える彼らの実力を伸ばすのなら、学園よりもウィンディアという魔鏡が適しているからだ。
「まぁいい。それより魔族だ。侵攻のタイミングなどは聞き出せたのか?」
「あーいや……」
「……?なんだ?そこまで口が固い種族だったのか?」
「いや、尋問とかがじゃなくて……」
頭を切り替えて質問するカインに、ロイドは苦笑いで会話を濁す。
それに訝しげな表情を浮かべてカインは問い詰めようとするも、はたと視界に映ったエミリーも似たような表情なのを見て目を丸くする。
「ま、まさか逃げられたのか?ならばもしや、噂に聞く上位魔族が混じっていたのか?」
魔族の階級に沿った強さは王国に言い伝えられてある。
それをもとに考えると、自分やロイド達の実力ならば下位はもちろん、中位魔族にも遅れはそうはとらないはずだ。
だが、上位となると難しい。上位魔族ともなると厄災と呼ばれる魔物にも迫る力を持つ者さえ居るというのだから。
もしそんな脅威が混じっているならば取り逃すのも仕方ないと思う反面、そんな化物が出てくる程に本格的な侵攻なのかと顔を引きつらせるカイン。
「いや、混じるってゆーか来たの全員上位の魔族らしいわ」
「な……?!」
だが、その顔をさらに引きつらせるロイドの発言に言葉を失う。
そうなるともはや天災にも等しい被害が考えられる。そして、そんな事態が起こるというのなら侵攻は小競り合いのレベルではなく、魔王候補クラスの率いる軍団だと否応なしに理解させられた。
それと同時に、ハッと気付いてカインはロイドに視線をやる。
「……どしたよ?」
「怪我は大丈夫なのか?というより学園に来ている場合なのか?……そうか、ウィンディアの被害復興の支援依頼か?」
そんな大厄災にも等しい事態の翌日だ。当然と言えば当然の心配をするカインにロイドはへらりと笑う。
「いや被害はねーよ」
「何?!」
「てかすんません、父さんが勢い余って捕虜とかなく倒しちゃった……」
えへ、なんて語尾が聞こえてきそうな表情で告げるロイドに、カインとティアは完全に言葉を失ったようだ。
口をあんぐりと開けて固まる王族と生徒会長の2人は、学園の生徒が見ればちょっとした騒ぎになる程珍しい光景だろう。
「で、父さん1人で片付けたから被害はなし。魔族騒動で騒がしくなる前にさっさと探し物の遺跡探索を済ませて来いってさ」
そのまま報告を済ませたロイドに、カインは無反応。
聞いてる?といった感じに首を傾げるロイドに、まぁそんな反応も仕方ないわなといったグランとエミリー。
しばしの沈黙の後、カインは溜息混じりに小さく呟いた。
「さすがウィンディア、か……魔鏡すぎるだろ」
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