魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
65 兄弟
「だぁっはっはっは!」
「こらロイド、笑いすぎだよ」
校庭を後にして視線が切れるまで歩いた兄弟は、そこから震える肩をそのままに早足でロイドの部屋へと歩いた。
そして部屋に入るやいなや、堰を切ったように笑い出したのである。
「いや、兄さんも、だろ!ぶふっ、いつの間に、あんな小技をっ、覚えて…」
「ふふふっ、小技なんて失礼な。貴族として有用な演説力だよ?」
確かに上に立って率いる上で、情報を言葉として部下達や市民達に伝える技術は有用なのであろう。決して生徒達の感情操作や扇動の為ではないと思うが。
「いやぁ、いい練習の機会だったから頑張ってみたけど、思ったより上手くいったね。僕才能あるかも」
「才能あるわっ!笑いの!」
なおも笑うロイドに、フィンクも可笑しそうに一緒に笑っていた。
そこに、ノックもなく扉を開けてカインやエミリー、グラン、クレア、ラピスが入ってくる。
そして扉を閉めるや否や、グランが吹いた。
「ぶふぉっ、ロイドお前、泣いてた?!泣いてたの?!」
「おー泣いて肩震わせてた!」
グランとロイドが笑い合い、腹を抱えて転がる。
それにつられるように口元を押さえて笑いを堪えるように震えるエミリーに、フィンクが声を掛ける。
「エミリー、僕は貴族として殻を破ったかも知れない」
「ぶふっ、に、兄さん、破ったの貴族としての殻じゃないわ。詐欺師の方の殻よ」
フィンクの言葉についに吹き出したエミリーのツッコミに、フィンクは満足げに笑う。
その満足げな笑顔にカインが笑いを堪えるように頬を痙攣らせながら口を開く。
「全く、何をするかと思えば……先日演説を学ぶ為の本のお勧めを聞いてきたのはこういう事だったのか?」
「そうじゃないけど、まぁ良い練習かなって。ほら、一番の練習は本番って書いてたし」
悪びれない様子のフィンクに、カインは笑いの余韻をやっと噛み殺して、ふぅと溜息をこぼした。
「まぁ、言ってる内容は嘘ではないしな」
「ふふ、でしょ?」
そう、あまりに似合わない大仰な身振り手振りや演技臭い演説に、フィンクを良く知るロイドやエミリーや、ロイドの振る舞いにグランは思わず笑ってしまったがーー何一つ嘘はついてないのだ。
そして、こうしてあえて笑うように誘導したのも、フィンクを良く知り、かつ彼の悪戯に最も振り回されたであろうカインは気付いていた。
「あれは、お前の本心なのだろう?」
「……ふふっ」
カインの言葉に、フィンクは微笑みを浮かべるだけだ。
その会話に気付かずに笑い転げるロイドとグランとエミリーを他所に、カインは肩をすくめる。
「お前も案外照れ屋だな?」
「……何のことですかカイン皇太子?」
オフの場では使わない敬語を使うフィンクに、カインは小さく笑う。
その様子を見ていたクレアとラピスもほっこりと笑う。
「やっぱりだねぇ。フィンクさん、実はすごい優しいもんね」
「そうですね。やはり血を感じさせる無茶な方法はとりますけど、良いお兄さんだなって思いますよね」
ねー!と笑い合うクレアとラピスに、ついにフィンクが俯いた。
そんなフィンクの横に、転がり疲れたように笑いの余韻を残すロイドがどさっと座る。
「兄さん、ありがとな。心配かけたけど、おかげでどーにかなりそーだわ」
「……ふふっ、それは良かったよ」
笑うロイドに、フィンクが微笑み返す。
『神童』や『国崩し』などと騒がれる2人であり、血は繋がらない『ウィンディア』だが、こうして見ると2人はただの仲の良い兄弟にしか見えなかった。
「さてと、明日からの反応が楽しみだね」
「兄さんは帰るんだっけ?」
「うん、明日の昼にでも出るよ」
あれから空腹に気付いた面々だったが、今皆で食堂などに行くと騒がしくなると言い出したフィンクが、全員分の食事を確保してくると1人で部屋を後にした。
勿論それをクレアやラピス、グランなどは目上相手に給仕はさせれないから代わると言った。
が、妙なまでに頑なに譲らず、結局フィンク1人で向かい、そしてカートに食事を乗せて帰ってきたフィンクとともに皆で食事をとった。
ちなみに食事をとりに部屋を出る際、ニヤリとフィンクが笑ったのに気付いたのはロイドとエミリーだけだったりする。
それから食事を終えて解散となったのだが、フィンクはそのままロイドの部屋に泊まる事となったのだ。
「そっか。まぁそれなら明日の反応を楽しんでから帰れるなー」
「そうだね。楽しみだよ」
「……で、飯とってきてくれた時、何したんだよ?」
「あ、バレてた?」
核心を突こうとするロイドに、フィンクは隠そうとすらせずに笑う。
「多分姉さんも気付いてんぞ」
「ふふっ、兄弟ってのは怖いねぇ」
「いや俺は兄さんが怖ぇわ」
そう言いつつもロイドも楽しそうに笑っていた。
なんだかんだで騒ぎを起こしがちなウィンディア一家、その兄弟の長男として例に漏れない彼だが、決して人を陥れるような男ではないと知っているからだ。
「大した事じゃないよ。ま、明日のお楽しみにしておこうな」
「ケチだなオイ。まぁいっか、楽しみにしとくわ」
「それが良いよ」
そうして、話している内に2人は眠るのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日、講義の前に校庭に集まるようにと、学園内にある連絡用魔法具により全校生徒に招集がかかった。
その際に簡単に説明があった内容として、昨日のトーナメントによって変則的な講義の変更があった為、今後の講義の時間等についての連絡だと触れていた。
そして、時間となり集まった校庭にて、教壇のような台の上に上がるのは生徒会長であるティア・アイフリードだ。
『生徒の皆、朝からすまない。先にも伝えたように、昨日行われるはずだった講義などについての説明がある』
拡声魔法具を使って話すティアに、全員が静かに話を聞いた。
そして講義の振り替えなどについて一通り話し終えると、ティアに代わって1人の年配の男性が壇上へと上がる。
『さて、ここからは別の連絡事項だ』
「ん?誰あれ?」
「うそ、何で知らないのよあんた?!」
当然のように話し始めるおじいさんにロイドが首を傾げると、横に居たエミリーが目を丸くする。
「先輩、入学式でも話してたじゃないですか……」
「へぇ、そーなんか」
寝てたんだよな、と内心で続けるロイドに、しかしそれを正しく読み取ったクレアが言葉を続ける。
「学園長ですよ。リンドブルム学園長」
「へぇ、あのじーちゃんがねぇ…」
まじまじと見るロイド。その視線の先でリンドブルムは話し始める。
『と言うのも、一時休学とする者についてだね。今から呼ばれた者はしばらく休学とし、学園の指示があるまでは……謹慎とする』
「……んん?」
その内容に、眉をひそめるロイド。
それに構うはずもなく、リンドブルムは淡々と名前を読み上げていくのであった。
「こらロイド、笑いすぎだよ」
校庭を後にして視線が切れるまで歩いた兄弟は、そこから震える肩をそのままに早足でロイドの部屋へと歩いた。
そして部屋に入るやいなや、堰を切ったように笑い出したのである。
「いや、兄さんも、だろ!ぶふっ、いつの間に、あんな小技をっ、覚えて…」
「ふふふっ、小技なんて失礼な。貴族として有用な演説力だよ?」
確かに上に立って率いる上で、情報を言葉として部下達や市民達に伝える技術は有用なのであろう。決して生徒達の感情操作や扇動の為ではないと思うが。
「いやぁ、いい練習の機会だったから頑張ってみたけど、思ったより上手くいったね。僕才能あるかも」
「才能あるわっ!笑いの!」
なおも笑うロイドに、フィンクも可笑しそうに一緒に笑っていた。
そこに、ノックもなく扉を開けてカインやエミリー、グラン、クレア、ラピスが入ってくる。
そして扉を閉めるや否や、グランが吹いた。
「ぶふぉっ、ロイドお前、泣いてた?!泣いてたの?!」
「おー泣いて肩震わせてた!」
グランとロイドが笑い合い、腹を抱えて転がる。
それにつられるように口元を押さえて笑いを堪えるように震えるエミリーに、フィンクが声を掛ける。
「エミリー、僕は貴族として殻を破ったかも知れない」
「ぶふっ、に、兄さん、破ったの貴族としての殻じゃないわ。詐欺師の方の殻よ」
フィンクの言葉についに吹き出したエミリーのツッコミに、フィンクは満足げに笑う。
その満足げな笑顔にカインが笑いを堪えるように頬を痙攣らせながら口を開く。
「全く、何をするかと思えば……先日演説を学ぶ為の本のお勧めを聞いてきたのはこういう事だったのか?」
「そうじゃないけど、まぁ良い練習かなって。ほら、一番の練習は本番って書いてたし」
悪びれない様子のフィンクに、カインは笑いの余韻をやっと噛み殺して、ふぅと溜息をこぼした。
「まぁ、言ってる内容は嘘ではないしな」
「ふふ、でしょ?」
そう、あまりに似合わない大仰な身振り手振りや演技臭い演説に、フィンクを良く知るロイドやエミリーや、ロイドの振る舞いにグランは思わず笑ってしまったがーー何一つ嘘はついてないのだ。
そして、こうしてあえて笑うように誘導したのも、フィンクを良く知り、かつ彼の悪戯に最も振り回されたであろうカインは気付いていた。
「あれは、お前の本心なのだろう?」
「……ふふっ」
カインの言葉に、フィンクは微笑みを浮かべるだけだ。
その会話に気付かずに笑い転げるロイドとグランとエミリーを他所に、カインは肩をすくめる。
「お前も案外照れ屋だな?」
「……何のことですかカイン皇太子?」
オフの場では使わない敬語を使うフィンクに、カインは小さく笑う。
その様子を見ていたクレアとラピスもほっこりと笑う。
「やっぱりだねぇ。フィンクさん、実はすごい優しいもんね」
「そうですね。やはり血を感じさせる無茶な方法はとりますけど、良いお兄さんだなって思いますよね」
ねー!と笑い合うクレアとラピスに、ついにフィンクが俯いた。
そんなフィンクの横に、転がり疲れたように笑いの余韻を残すロイドがどさっと座る。
「兄さん、ありがとな。心配かけたけど、おかげでどーにかなりそーだわ」
「……ふふっ、それは良かったよ」
笑うロイドに、フィンクが微笑み返す。
『神童』や『国崩し』などと騒がれる2人であり、血は繋がらない『ウィンディア』だが、こうして見ると2人はただの仲の良い兄弟にしか見えなかった。
「さてと、明日からの反応が楽しみだね」
「兄さんは帰るんだっけ?」
「うん、明日の昼にでも出るよ」
あれから空腹に気付いた面々だったが、今皆で食堂などに行くと騒がしくなると言い出したフィンクが、全員分の食事を確保してくると1人で部屋を後にした。
勿論それをクレアやラピス、グランなどは目上相手に給仕はさせれないから代わると言った。
が、妙なまでに頑なに譲らず、結局フィンク1人で向かい、そしてカートに食事を乗せて帰ってきたフィンクとともに皆で食事をとった。
ちなみに食事をとりに部屋を出る際、ニヤリとフィンクが笑ったのに気付いたのはロイドとエミリーだけだったりする。
それから食事を終えて解散となったのだが、フィンクはそのままロイドの部屋に泊まる事となったのだ。
「そっか。まぁそれなら明日の反応を楽しんでから帰れるなー」
「そうだね。楽しみだよ」
「……で、飯とってきてくれた時、何したんだよ?」
「あ、バレてた?」
核心を突こうとするロイドに、フィンクは隠そうとすらせずに笑う。
「多分姉さんも気付いてんぞ」
「ふふっ、兄弟ってのは怖いねぇ」
「いや俺は兄さんが怖ぇわ」
そう言いつつもロイドも楽しそうに笑っていた。
なんだかんだで騒ぎを起こしがちなウィンディア一家、その兄弟の長男として例に漏れない彼だが、決して人を陥れるような男ではないと知っているからだ。
「大した事じゃないよ。ま、明日のお楽しみにしておこうな」
「ケチだなオイ。まぁいっか、楽しみにしとくわ」
「それが良いよ」
そうして、話している内に2人は眠るのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日、講義の前に校庭に集まるようにと、学園内にある連絡用魔法具により全校生徒に招集がかかった。
その際に簡単に説明があった内容として、昨日のトーナメントによって変則的な講義の変更があった為、今後の講義の時間等についての連絡だと触れていた。
そして、時間となり集まった校庭にて、教壇のような台の上に上がるのは生徒会長であるティア・アイフリードだ。
『生徒の皆、朝からすまない。先にも伝えたように、昨日行われるはずだった講義などについての説明がある』
拡声魔法具を使って話すティアに、全員が静かに話を聞いた。
そして講義の振り替えなどについて一通り話し終えると、ティアに代わって1人の年配の男性が壇上へと上がる。
『さて、ここからは別の連絡事項だ』
「ん?誰あれ?」
「うそ、何で知らないのよあんた?!」
当然のように話し始めるおじいさんにロイドが首を傾げると、横に居たエミリーが目を丸くする。
「先輩、入学式でも話してたじゃないですか……」
「へぇ、そーなんか」
寝てたんだよな、と内心で続けるロイドに、しかしそれを正しく読み取ったクレアが言葉を続ける。
「学園長ですよ。リンドブルム学園長」
「へぇ、あのじーちゃんがねぇ…」
まじまじと見るロイド。その視線の先でリンドブルムは話し始める。
『と言うのも、一時休学とする者についてだね。今から呼ばれた者はしばらく休学とし、学園の指示があるまでは……謹慎とする』
「……んん?」
その内容に、眉をひそめるロイド。
それに構うはずもなく、リンドブルムは淡々と名前を読み上げていくのであった。
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