魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
59 クレア対エミリー 2
ロイドの「早く終わる」という言葉は、クレアの圧倒的勝利を意味しているとラピスは思い至る。
「……あー……なるほど、確かに短期決戦になるか」
「多分なー。どっちが勝つかは分からんけどな」
だが、グランは違う答えに行き着いた。
そしてその答えはロイドと同じものだったようで、ロイドも同調するように言葉を繋ぐ。
「え?あれ?クレアが勝つってことじゃないの?」
「ん?いや、どうなるにせよ、短期決戦になるだろーなって話だけど」
混乱するラピスにロイドはまたも意地悪そうな笑みをもって返す。
からかわれてる、と気付いたラピスは頬を膨らませるが、食い下がったところでもっとニヤニヤする事が分かっているラピスはグランに標的を移した。
ぐりんっ、と首を動かしてグランに視線を向けるラピス。
その視線を受けてグランは苦笑いを浮かべて口を開いた。
「ラピス、さっきの『2人の一番の違い』ってのは、魔法の使い方じゃねぇ」
「……?」
自分で考えた方が身になる、という指導に慣れ、すっかり上司肌が馴染んでしまったグランは、いきなり答えを言わずにヒントを出す。
だが、ラピスはそれでも分からないといった様子で首を傾げた。
そして、もっとヒントかなんなら答えをくれと言おうとした矢先、ラピスの耳に拡声魔法具で大きくなった声が届く。
『さぁ両者が揃いました!このウィーン学園に入学して間もないにも関わらず、その見た目や実力からあっという間に有名になった2人が相見えます!』
『『風の妖精』とエルフの姫様だもんね〜』
『そうです!そしてあの美しさ!学園の男の視線をかっさらう2人!』
『おい、時間ねぇぞ』
『え?あ、そうでした!で、では試合開始ぃー!!』
何やら熱が入った様子の実況ノエルをガイアスが制し、試合が開始された。
やっとか、と言った様子のエミリーとクレアは、それぞれ行動を示した。 クレアはバックステップをしながら魔力を高め、エミリーは一歩も動かず深く集中する。
「ふぅ…!」
「『土壁』!『風壁』!」
先に魔法を発動したのはクレア。
防御魔法を複数展開する。土の壁が無数に生まれ、その周囲を取り巻く風の防壁達は、まさに要塞といった様子を見せる。
対してエミリーはそれに一切構う事なく集中して魔力を練り上げていく。 例えクレアが発動した魔法が攻撃魔法だったとしても、構わず集中していただろう。そう思わせる程に微動だにせず集中していた。
「『雷槍』!『豪炎』!『堕天』!」
そして一拍置いて放たれる攻撃魔法。
真っ直ぐにエミリーへと迫る雷の槍。地面を駆け抜ける巨大な炎。上空から落とされる巨大な岩。
後ろにしか逃げ場のない迫りくる魔法の包囲網を前に、エミリーがスッと目を開いた。
「――『蒼炎』」
そして静かに呟かれた魔法の名。
それに応えるようにエミリーの周囲から音もなく現れる澄んだ蒼い炎。
その美しい見た目に反する凶悪なまでの熱量と威圧感に頬を引きつらせながら、クレアは素早く詠唱を始める。
「くっ、土よーー」
「はぁああっ!」
その詠唱を押し潰すかのように裂帛の気合いを込めた雄叫び。そして弾かれるように駆け出すエミリー。
蒼い炎を纏うように従えた彼女は、迫りくる魔法に自ら吸い込まれるかのように突き進む。
『で、出ました!先程の戦いでも見せたオリジナル魔法!』
『でもでも、なんか魔法に突っ込んでくよ?!』
興奮するノエルの横で、困惑したようなクルネの声。
仕方のない事だろう。回避すらする気配すらなく真っ直ぐに複数の強力な魔法に突っ込む姿は、側から見れば自殺志願者のようにすら見える。
だが、それにガイアスが首を振った。
『ま、これしかないんだろ』
そのガイアスの言葉に問い詰めるように視線を向けるクルネを尻目に、エミリーはとうとう魔法と衝突した。
『エミリーさん、先程の美しい舞いを思わせる戦いとは一変して苛烈な方法に出ましたぁ!真っ直ぐに魔法を突き破っていきます!』
ノエルや生徒達の視線の先で、歯を食いしばってエミリーは蒼い炎と剣を振るう。
落ちる岩を焼き払い、雷の槍を炎を纏った剣で斬り捨て、地を這う炎を逆に焼き尽くす。
そしてその勢いそのままに、土と風の壁を焼き切らんと蒼い炎と剣を真っ直ぐに突き出した。
「ーー『鋼壁塊』!」
その瞬間に、クレアはバックステップしながら詠唱を完了させて魔法を発動させた。
上級土魔法であり、防御性能で言えば魔法でもトップクラスを誇る『鋼壁塊』だ。
それを見つつ、グランとロイドが口を開く。
「ラピス、魔法の汎用性や総合力ならクレアが上だ。けど」
「突破力なら姉さんも負けねー。何より……」
グランの言葉を引き継ぐロイドの言葉が一瞬途切れる。
その僅かな時間に滑り込むように、エミリーの雄叫びと耳を劈く衝撃音が校庭に響き渡った。
「はぁああっ!」
「っくぅ…!」
風と土の壁を焼き切り、鋼鉄のコーティングがされた巨大な壁と衝突する『蒼炎』。
その蒼い炎はエミリーの叫びに応えるように更に激しく燃え上がり、美しい輝きをより鮮明なものにしていく。
そして数秒の拮抗の後、
「……チェックメイトね」
「……参りました」
巨大な鉄の表面ごと岩に穴を空け、その先に立つエミリーが剣をクレアへと添えていた。
蒼い炎と赤熱した岩の穴の表面によって照らされたエミリーには汗が滲んでおり、短い時間ながらかなりの負担があった事が窺える。
対してクレアはエミリー程疲労した様子は見せないまでも、しかし抵抗しようとせず観念したように降参した。
その様子を目を丸くして見ていたラピスに、ロイドの言葉の続きが届く。
「……クレアは、近接戦闘がド下手だ」
言い方よ。
そう思いつつも、実況のノエルによるエミリーの勝利宣言を聞きつつ、『2人の一番の違い』に思い至るのであった。
「……あー……なるほど、確かに短期決戦になるか」
「多分なー。どっちが勝つかは分からんけどな」
だが、グランは違う答えに行き着いた。
そしてその答えはロイドと同じものだったようで、ロイドも同調するように言葉を繋ぐ。
「え?あれ?クレアが勝つってことじゃないの?」
「ん?いや、どうなるにせよ、短期決戦になるだろーなって話だけど」
混乱するラピスにロイドはまたも意地悪そうな笑みをもって返す。
からかわれてる、と気付いたラピスは頬を膨らませるが、食い下がったところでもっとニヤニヤする事が分かっているラピスはグランに標的を移した。
ぐりんっ、と首を動かしてグランに視線を向けるラピス。
その視線を受けてグランは苦笑いを浮かべて口を開いた。
「ラピス、さっきの『2人の一番の違い』ってのは、魔法の使い方じゃねぇ」
「……?」
自分で考えた方が身になる、という指導に慣れ、すっかり上司肌が馴染んでしまったグランは、いきなり答えを言わずにヒントを出す。
だが、ラピスはそれでも分からないといった様子で首を傾げた。
そして、もっとヒントかなんなら答えをくれと言おうとした矢先、ラピスの耳に拡声魔法具で大きくなった声が届く。
『さぁ両者が揃いました!このウィーン学園に入学して間もないにも関わらず、その見た目や実力からあっという間に有名になった2人が相見えます!』
『『風の妖精』とエルフの姫様だもんね〜』
『そうです!そしてあの美しさ!学園の男の視線をかっさらう2人!』
『おい、時間ねぇぞ』
『え?あ、そうでした!で、では試合開始ぃー!!』
何やら熱が入った様子の実況ノエルをガイアスが制し、試合が開始された。
やっとか、と言った様子のエミリーとクレアは、それぞれ行動を示した。 クレアはバックステップをしながら魔力を高め、エミリーは一歩も動かず深く集中する。
「ふぅ…!」
「『土壁』!『風壁』!」
先に魔法を発動したのはクレア。
防御魔法を複数展開する。土の壁が無数に生まれ、その周囲を取り巻く風の防壁達は、まさに要塞といった様子を見せる。
対してエミリーはそれに一切構う事なく集中して魔力を練り上げていく。 例えクレアが発動した魔法が攻撃魔法だったとしても、構わず集中していただろう。そう思わせる程に微動だにせず集中していた。
「『雷槍』!『豪炎』!『堕天』!」
そして一拍置いて放たれる攻撃魔法。
真っ直ぐにエミリーへと迫る雷の槍。地面を駆け抜ける巨大な炎。上空から落とされる巨大な岩。
後ろにしか逃げ場のない迫りくる魔法の包囲網を前に、エミリーがスッと目を開いた。
「――『蒼炎』」
そして静かに呟かれた魔法の名。
それに応えるようにエミリーの周囲から音もなく現れる澄んだ蒼い炎。
その美しい見た目に反する凶悪なまでの熱量と威圧感に頬を引きつらせながら、クレアは素早く詠唱を始める。
「くっ、土よーー」
「はぁああっ!」
その詠唱を押し潰すかのように裂帛の気合いを込めた雄叫び。そして弾かれるように駆け出すエミリー。
蒼い炎を纏うように従えた彼女は、迫りくる魔法に自ら吸い込まれるかのように突き進む。
『で、出ました!先程の戦いでも見せたオリジナル魔法!』
『でもでも、なんか魔法に突っ込んでくよ?!』
興奮するノエルの横で、困惑したようなクルネの声。
仕方のない事だろう。回避すらする気配すらなく真っ直ぐに複数の強力な魔法に突っ込む姿は、側から見れば自殺志願者のようにすら見える。
だが、それにガイアスが首を振った。
『ま、これしかないんだろ』
そのガイアスの言葉に問い詰めるように視線を向けるクルネを尻目に、エミリーはとうとう魔法と衝突した。
『エミリーさん、先程の美しい舞いを思わせる戦いとは一変して苛烈な方法に出ましたぁ!真っ直ぐに魔法を突き破っていきます!』
ノエルや生徒達の視線の先で、歯を食いしばってエミリーは蒼い炎と剣を振るう。
落ちる岩を焼き払い、雷の槍を炎を纏った剣で斬り捨て、地を這う炎を逆に焼き尽くす。
そしてその勢いそのままに、土と風の壁を焼き切らんと蒼い炎と剣を真っ直ぐに突き出した。
「ーー『鋼壁塊』!」
その瞬間に、クレアはバックステップしながら詠唱を完了させて魔法を発動させた。
上級土魔法であり、防御性能で言えば魔法でもトップクラスを誇る『鋼壁塊』だ。
それを見つつ、グランとロイドが口を開く。
「ラピス、魔法の汎用性や総合力ならクレアが上だ。けど」
「突破力なら姉さんも負けねー。何より……」
グランの言葉を引き継ぐロイドの言葉が一瞬途切れる。
その僅かな時間に滑り込むように、エミリーの雄叫びと耳を劈く衝撃音が校庭に響き渡った。
「はぁああっ!」
「っくぅ…!」
風と土の壁を焼き切り、鋼鉄のコーティングがされた巨大な壁と衝突する『蒼炎』。
その蒼い炎はエミリーの叫びに応えるように更に激しく燃え上がり、美しい輝きをより鮮明なものにしていく。
そして数秒の拮抗の後、
「……チェックメイトね」
「……参りました」
巨大な鉄の表面ごと岩に穴を空け、その先に立つエミリーが剣をクレアへと添えていた。
蒼い炎と赤熱した岩の穴の表面によって照らされたエミリーには汗が滲んでおり、短い時間ながらかなりの負担があった事が窺える。
対してクレアはエミリー程疲労した様子は見せないまでも、しかし抵抗しようとせず観念したように降参した。
その様子を目を丸くして見ていたラピスに、ロイドの言葉の続きが届く。
「……クレアは、近接戦闘がド下手だ」
言い方よ。
そう思いつつも、実況のノエルによるエミリーの勝利宣言を聞きつつ、『2人の一番の違い』に思い至るのであった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
1512
-
-
2813
-
-
549
-
-
24251
-
-
1978
-
-
111
-
-
157
-
-
755
-
-
124
コメント