魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

53 クレア対ティア 2

『さぁ!高度な魔法合戦となったこの勝負ですが、やはりと言うべきか、我ら生徒会長が徐々に押しております!』
『だな。『水閃』なんて高速かつ防御も難しい魔法をポンポンと撃たれちゃあ普通は手も足も出んぞ』

 クレアは左腕を貫かれ、右脇には切り傷を負うも、ティアは未だ無傷である。
 さらにはいまだに『水閃』という切り札を対応出来ていないクレアはかなり不利だと言えるだろう。

 そんな中、反撃に出ると宣言したクレアは、魔力を一気な高める。
 水浸しとなった校庭の水が揺らぐ程の圧力をもって高まる魔力に、観客となった生徒が思わず目を瞑った瞬間だった。

「『涼風』!」

 クレアがその場から消えた。

「……!」

 目を瞠るティアだが、直感に従って弾かれたように顔を左側な向けると、そこには手を真っ直ぐにティアへと向けているクレアが。

「『風刃』!」
「っく!」

 手の平から放たれた風の刃をティアは慌てて回避。
 しかし完全には回避出来ずに肩を浅く斬り裂かれた。

 初めてティアに一撃を入れる事に成功したクレア。だが、そんな感傷に浸る事なく追撃をかけていく。

「『風槌』『風弾』!」
「がっ!」

 体勢が崩れたティアにダメ押しとばかりに上空からの風のハンマーと正面からの風の弾丸を撃ち放つ。
 魔法での防御も回避も間に合わず、ティアへと攻撃が決まった。
 ティアは吹き飛ばされるも、その勢いを使って素早く立ち上がる。

「っはぁ、はぁっ……み、見たこともない魔法だね」

 追撃に備えるように立ち上がりながらクレアを鋭く睨むティアだが、予想に反してクレアはその場から動いてはいなかった。
 その代わりか、魔力をまた練り上げていく。

「でしょう?これ、頑張って作ったんです」
「……それは恐ろしい話だね…」
『な、な、何だ今のはっ?!今クレアさんが消えたかのように見えましたが…』
『しかも、作ったって言ったよねぇ…そんな事出来るもんなの?』

 どよめく生徒達と、驚きを露わにする解説の2人。
 ティアも冷や汗を流して、苦笑いのように力なく口の端を上げた。

『………オリジナル魔法、か?ここんとこじゃ、フィンクの氷魔法以来だな…』
『ま、マジすか……』

 驚いたように目を丸くするガイアスの解説に、語彙の低下が著しいノエルが呟く。
 
 『神童』フィンクのオリジナル魔法である『氷魔法』。
 属性魔法自体を作り出すというそれに対し、クレアのオリジナル魔法は風魔法の中で新たな魔法を作るというもの。
 
 どちらが困難かは見方にもよるが、すでに長年の中で研究や開発が進む既存魔法を、独力で進化させる事は容易なものではない。

「……だが、追撃が無い様子から見て、連続使用は出来ないようだね」
「えへへ、バレましたか。生徒会長の『水閃』と一緒ですね」
「ふふ、気付かれていたか」

 驚愕や喧騒に包まれる中、静かにお互いを見据えていた2人は、お互いの切り札の欠点を笑顔で認め合っていた。

 そう、ティアの『水閃』も、連発されていればクレアとて為す術もなく倒されていただろう。

 対してクレアの『涼風』も同じだ。連続使用には凄まじい負荷がかかる。
 それは肉体的なものや魔力負担だけではなく、操作にあたる脳の負荷も含まれる。

 『涼風』。
 風を体に纏い、推進力として使うオリジナル魔法。
 言うまでもないかも知れないが、ロイドの得意魔術である風による加速を模倣した魔法である。

 だがそれは魔術という汎用性あってのもの。それを魔法で再現するのは相当の難易度を誇る。

 ちなみに名前もロイドの前世である黒川涼から取ってきており、その魔法名を聞いたロイドは勘弁してくれと天に向かって叫んだりしていたが。

 また、これはティアの指摘にはなかったものの、『涼風』を発動している間は体に纏った風を使った風魔法しか使えないのも欠点である。が、これは今後改善するとクレアは張り切っていたが。

 ともあれ、お互いの切り札は基本単発使用しか出来ない。
 そうなれば、技の性能が勝負を分ける。

「――『水閃』!」
「――『涼風』!」

 そう判断した2人は、ほぼ同時に魔法を発動した。

 最短距離、真っ直ぐに超高速で駆ける水の閃光。 それを、爆発的な風の奔流を纏うクレアの頬を裂くーーが、素早く回避。
 
 そのまま『水閃』を辿るようにすぐ脇を一直線にティアへと迫り、その勢いのまま、

「『風砲』!」

 拳に乗せた『風砲』を拳と一緒に叩き込む。
 高速移動の勢いと拳、風の砲弾を全て乗せた一撃がティアの腹部へと突き刺さった。

「かはぁっ!」

 肺の空気を全て吐き出しながら吹き飛ぶティア。
 腹部を貫いた衝撃に呼吸が出来ない程のダメージに、意識は手放さなかったものの立ち上がる事すら出来ない。

 まるで痺れたかのように固まるティアに、いつの間にかティアの側まで移動していたクレアがすっと手を翳していた。

「王手、ですね」
「……は、あ…はぁっ……降参、だよ」

 やっと呼吸を取り戻したティアが、力無く笑いながら告げる。
 その光景に痛い程の沈黙が校庭を支配するも、数秒後、その反動のように声が沸いた。

『く、クレアさんの勝利ぃい!!』
『う、うっそぉ!?』
「マジかよ、生徒会長が負けた?!」
「しかも新入生に?!」

 学園最強が就任するとされる生徒会長が敗北した事に困惑と動揺の声を抑え切れない生徒達。
 そんな中、クレアは御辞儀をするとまっすぐに舞台を降りていく。

「えへへ、どうにか勝てました……」
「お疲れ。つかお前、その名前マジで変えろよ……」
「えー、嫌ですよう。気に入ってるんですから!」

 その先に居るのはロイドだった。
 ハイタッチをする2人。その横をするりと通り抜けるカインと、遅れてそれを負うように歩くエミリー。

「やったわね、クレア」
「はい!エミリーさんも頑張ってくださいね!」

 通りしなに話すクレアとエミリー。
 クレアの激励を受けてエミリーは苦笑いを浮かべる。

「どうかしらね……カイン皇太子って、フィンク兄さんに次ぐなんて言われる実力者なのよね」
「大丈夫だろ、姉さんなら」

 その会話に混じるロイドに、エミリーは呆れたように肩をすくめる。

「簡単に言うわね。ただでさえこのトーナメント自体に気乗りしてないのに」
「まぁそれは同感だけどなー。でも俺、カインに一回勝ったけど」
「……そうだったわね」

 ロイドの悪戯小僧のような笑顔に、しかしエミリーは怒るでも呆れるでもなく、静かに頷いて顔を舞台へと向けた。

 顔を向けずにあっさりと背中を向けるエミリー。
 その何気に珍しい光景にクレアが心配そうにロイドに小声で話し掛ける。

「あ、あの先輩……もしかしてエミリーさん怒っちゃってません?」
「ん?あーいや、怒ってないて」

 へらへらと笑うロイドに、余計に心配になったクレアはエミリーの背中に視線を向ける。
 そんなクレアに、ロイドは可笑しそうに笑いながら言葉を続けた。

「あれはな、スイッチ入ったんだよ」
「……ホントですかぁ?」
「おまっ、少しは元先輩を信用しろよ」

 疑わしげな視線をよこすクレアに、ロイドが苦笑いを浮かべる。

 『では、試合開始ぃー!』
 そんな会話を断ち切るように、ノエルから大きな声が発せられた。



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