魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

51 ロイド対ギルベルト

「魔術師……?!」
「ウソだろ……」

 グランの見せた魔術に騒めきが止まらない中、何事もなかったかのように歩く2人。
 次の試合のメンバーであるロイドと、2等級の生徒であるギルベルトだ。

「いやぁ、なんかやりにくい感じになっちゃったっすね」
「構わん。俺は相手が魔術だろうと恥さらしだろうと勝ち、フィンクに挑むだけだ」

 気の抜けたように話すロイドに、ギルベルトは無表情でそれに答える。

『さ、先程のグランさんの魔術には驚きましたが、その混乱を気にすることなく堂々と舞台に現れたギルベルトさんとロイドさんです!』
『わぁ!ギルベルトさんだ!』
『ギルベルトか……身体強化の鬼みたいなヤツだな。ティアに次ぐ学園の実力者、ってこいつは解説しなくても知ってるか』
『そうです!言わずと知れた学園屈指の実力者ですね!その大きな体と並外れた身体能力に、高い身体魔法の適正という鬼に金棒のギルベルトさんは、独自の体術で多くの敵を倒してきました!』
『聞いた話だと、武器を使わないのはすぐ壊れちゃうかららしいよぉ?』
「そーなんすね。良い武器屋さん紹介しましょーか?」
「いらん。もはや素手に慣れた」

 どこかむっつりとした表情を崩さないギルベルトだが、ロイドを見下すような雰囲気は感じられない。
 受け答えも無愛想のようだがしっかりと答えている。

『対してロイドさん。こちらもある意味説明は不要でしょう!『恥さらし』と呼ばれるかのウィンディアの子息です!』
『でもぉ、勇者を倒したりここまで勝ち進んだり、ホントに言うほど弱いのぉ?』
『弱いワケあるか。まぁ見てりゃ分かるだろ』
『それもそうです!では時間も限られているので早速始めてもらいましょう!では、試合開始!』
「いけぇギルベルトさん!」
「恥さらしを蹴散らしてくれぇ!」

 始まるや否や沸き立つロイドへのブーイング。ここに勝ち進むにつれて減ってはいるものの、未だに無くなりはしない声。
 それを置き去りにするように、試合開始直後に弾かれたように飛び出すギルベルトと、そしてロイド。

「うぉっ?!」
「きゃっ!」

 身体強化を施した2人の衝突によって生まれた爆風に前列で観ていた生徒が驚きの声を上げた。
 それを掻き消すかのように、ギルベルトとロイドは激しい音を伴いながら拳や蹴りを交えていく。

『こ、これは驚きました!なんと恥さらしと呼ばれたロイドさんが、あのギルベルトさんと真っ向から打ち合っています!』
『んー、本来ロイドは母親と同じ短剣二刀流の使い手なんだがな……』
『んじゃあれですか?本気じゃないんですかぁ?』
『……いや、多分だがあのギルベルトの速さに対抗するのに例え短剣の軽さでもマイナスだと判断したんだろ』
(先生、正解)

 ロイドは内心頷く。
 ロイドは事前にギルベルトの試合は見ていた。その速さを確認し、短剣を持つ事の攻撃力より、持たない事での速度を取ったのである。
 防ぐだけなら短剣でも捌けるだろうが、攻撃した時に反撃されれば対応が間に合わないと判断したのだ。

 もとより速度重視の戦い方をするロイドが、速度で負けると戦術が崩れる。
 それ故の苦肉の策とも言える。

「やるな」
「どーもです」
「仕方ない。ギアを上げるとするか」
「……え?マジすか?」

 かなり本気で身体強化をしているロイドは思わず苦笑する。
 とは言えロイドから見てもギルベルトの身体強化が手を抜いているようには思えない、と思った瞬間。

「っが!」

 ガードするよりも速く突き刺さるギルベルトの拳が、ロイドの腹部を捉える。
 その衝撃に呼吸が止まるロイドに、ギルベルトが追撃で蹴りを放った。

「っ!っぐあ!」

 慌てて腕を挟みこんでガードするロイドだが、予想を遥かに上回る威力に一瞬の停滞も許されず吹き飛ばされた。
 ロイドはゴロゴロと転ばされるが、あえて自分から転ぶ事で距離をとり、素早く立ち上がって体勢を整える。

『出ました!ギルベルトさんの馬鹿力!』
『もぉ〜そんな事後で言って怒られても知らないよぉ?』
『ご、ごめんなさい!ですが魔法学園らしからぬ殴り合い、目にも留まらぬ速さからさらに上回る速さを見せてくれましたね!』
『あぁ、ありゃただの身体強化じゃないからな。あれは』
「いてて………それ、部分強化っすね」
「よく気付いたな」
『おーっとロイドさん!ガイアス先生の仕事を奪ったぁー!』

 ロイドの予想に反してギルベルトの追撃は無かった。
 余裕の現れか、蹴り飛ばした位置から動かずにいるギルベルトに、ロイドはガイアスのセリフを奪って言う。

 身体強化は全身に多少の歪みはあれど均一に強化を施す魔法に対して、部分強化は体の一部に強化を集中させる魔法だ。
 ギルベルトはそれを通常では有り得ない程速く部分強化の箇所を移す事で、一撃一撃を身体強化よりも速く繰り出していたのだ。

「見た目と違って器用な事しますねー」
「一言余計だ」

 部分強化であろうと魔法である。
 魔法である以上は一度ずつ発動しなければならない為、本来このような使い方はしない。というより、実践で行うのは不可能に近い。
 
 無詠唱だとしても、グランを上回る発動速度が必要とされる。
 それを近接戦闘をしながら適切な箇所に施すという芸当はそれこそ神業と言えよう。

「……スキル?」
「よく気付いたな」

 そんなルーガスに迫る神業の使い手がそう居るはずがない、と考えたロイドは一つの可能性を口にすると、ギルベルトは微かに目を瞠りながら頷いた。

 ギルベルトはそこまでは説明しなかったが、彼が持つスキルは『連射』。 元ディンバー帝国魔法師団長ルビィも持っていたスキルであり、同一の魔法なら連続で発動出来るというスキルである。

「なるほど……んじゃ操作ミス狙いで撹乱するのは辞めときますわ」
「そうしろ。さて、どうしようも無い事は分かったろう。観念するんだな」
「いやいや、これでもスピード自慢なんすよー、俺」

 構えるギルベルトに、ロイドは軽口のような言葉を口にする。それと同時に、風がロイドの周囲に舞った。

「………魔法適正は無いと聞いたが」
「はい、無いっすよ?」

 徐々に強くなる風に思わず珍しく驚いたように間を置いてギルベルトが口を開くと、その返事とともにロイドが駆け出した。

「!」
『は、速い!なんだこれはー?!』
『すごぉい、どうなってるの?』

 ギルベルトや実況、観客が驚く中、ロイドは一瞬でギルベルトへと距離を詰める。
 その速度そのままに放たれた拳をかろうじて受けるギルベルトだったが、その鋭い拳に押されるようにその大きな体躯をのけぞらせた。

「ちっ!」

 ここに来て初めてその表情を歪ませたギルベルト。即座に反撃の拳を振るうが、ロイドは余裕を感じさせる速度でそれを回避。
 さらにはカウンターで膝蹴りをギルベルトの横腹に突き刺す。

 声には出さなかったものの、内臓まで響くような一撃にギルベルトが顔を歪めながらも払いのけるように腕を振るが、やはりと言うべきか既にそこにロイドは居らず。

「っがぁ!」

 後ろに回っていたロイドが追撃で拳を叩き込む。
 これにはさすがのギルベルトも耐えられなかったか、唾と一緒に苦しげな声を吐き出しす。
 
『これはどういう事でしょう?!ロイドさん、ギルベルトさんの速度を完全に上回っております!』
『ありゃあ、風で動きを補助してるな』
『風?!で、ですが彼は魔法適正は無いはずですが……』
「どういう事だよ……?!」
「あ、あれが『恥さらし』……!」

 混乱する実況や観客を置いてけぼりにするようにロイドは次々とギルベルトへ攻撃を叩き込んでいく。
 ギルベルトも必死にロイドを追って攻撃や防御をしているが、追いつくどころか更に加速していくロイドに一方的に攻撃されるばかりだった。

『……終わりだな。止めろ、ノエル』
『えっ、あ、は、はい!そ、そこまでっ!ロイドさんの勝ちですっ!』
「あ、終わりか」

 そこでガイアスからドクターストップが出た。
 予想を大きく裏切られて混乱するノエルが慌てつつも試合終了を告げると、ピタリと攻撃を止めたロイド。

「が、はぁ……はぁ」

 校庭には、静まり返った観客の中、息を切らせてぐったりとしているギルベルト。

「強いな……参った」
「先輩こそ。次は身体強化だけで勝ちたいもんです」
「存外生意気だな……ふっ、俺こそ次は勝つ」

 ニヤリと笑うギルベルトに、ロイドもつられるように笑った。
 普段なかなか見せないと噂のギルベルトの笑顔。それを見て驚く生徒達を他所に、2人は舞台をあとにした。

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