魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

49 トーナメント

 『突然だけど、明日の講義は全てお休みしますね。代わりに、僕と戦うチャンスを全生徒にプレゼントするよ。……そうだね、僕に勝てば学園の卒業資格が手に入るなんてどうだろう?それに、『神童』を倒したなんて名誉もついてくるよ?場所は校庭。皆の参加を待って『おいこら待てぇ!』

 こんな放送が流れた昼休みの学園。
 慌てて飛び込んだカインの声を掻き消すような歓声に、さすがにカインも教師も中断する事は難しかった。
 貴族も多い学園の生徒達がこうも一丸となって騒ぎ立てれば、教師陣といえど消化は骨が折れるのだ。

 そもそも言い出したフィンクが一切退こうとしないのだから、認めなくても無断で挑む生徒が現れるという事態もこの盛り上がりの異常さを見れば想像に難くない。

 結果、どうせなら許可して管理した方が問題は少ないだろうと判断。
 参加せずとも観戦も勉強だと言い張る生徒達の声も多く、結局それも認められた。

 だが、全ての生徒をフィンクと対決させていては1日どころではすまない可能性がある。
 という意見で反論をしたカインやティアにより、トーナメントの優勝者のみがフィンクと戦う事となった。
 実際はフィンクの振るう猛威を最小限に抑えるという目的なのは言うまでもないが。
 
 それだとチャンスが限られるとブーイングがあった生徒達に向けて、優勝してフィンクに勝てなくとも、順位や戦いぶりなどを評価して等級を上げるという内容を公表する事でどうにか落ち着いた。

 また、不満げなフィンクも、手慣れた姉弟の「一番強いやつと消耗なしで思い切りやれるよ?」という説得で納得した。

 こうしてフィンクの軽はずみな放送により、突発的な全等級向けの昇格試験を兼ねたトーナメントとなったのである。
 
 その結果、数が集まりすぎた為、ふるいにかける目的で観戦に回る生徒には次回の昇格試験にて得点の付与を約束した。
 これにより、現時点で自信のない生徒達は辞退した。次の試験までに力をつけ、そこで有利になるように配慮したのだ。

 かなり無理矢理であり、無茶苦茶な方法だが、学園長が許可を出した為すんなり許可されたのである。
 フィンクの勝手に怒り狂っていた教師達だったが、普段はほとんど口出ししない学園長が直々に許可したとなれば渋っていた教師達も決行する他なかった。

 そんなこんなで慌ただしく決まっていったトーナメント。それは熱も冷めない翌日の朝にスタートされたのだった。
 
「俺はめんどいから不参加で良かったのに」
「私もよ」

 ニコニコと笑うフィンクの横で一際げんなりしたロイドとエミリー。
 
 この2人は優勝の賞品も名誉もどちらも興味がない。さらに言えば、フィンクと戦うのはいつでも出来るし、むしろもうお腹いっぱいな程だ。
 他のメンバーは祭りのようなテンションにあてられてか、それともフィンクという同世代最強と噂されるフィンクと戦える事に心のどこか高揚しているのか、姉弟ほどの落ち込みはなかったが。

「何を言ってるんだい?これは君達の為に開いた部分も大きいんだよ?」
「なんでだよ、ふざけんじゃねーよ」

 意味が分からん、とそっぽを向くロイドに、フィンクはどこか儚げに笑う。

「色々遠慮したり気にしたりしすぎるロイドと、素直になれないエミリーにちょっと変化を与えたいと思ったのさ。まぁ兄の気遣いだよ」
「「嘘つけっ!」」

 どこか胡散臭い兄の儚い雰囲気に姉弟が揃ってツッコんでいると、案内を終わらせたティアが近付いてきた。

「あ、もう終わったんだ。さすがティアだね」

 周りを見ると、適当に校庭に散らばっていた生徒達は今や観客と出場組に分かれて、さらには各々整列までしていた。
 事前準備もなく短時間でそれをこなしたティアは、さすが生徒会長といったところか。

「ふざけるなフィンク。良い機会だ、この際私が痛い目に合わせて反省させてやろう」
「ふふっ、その意気だよ」

 完全に怒っていらっしゃるティアの、普段からは想像もつかないドスの効いた声にもフィンクは楽しそうに応援なんかしちゃう。
 ティアもこれくらいで黙るフィンクではないと分かっているからか、それ以上は何も言わずに鼻を鳴らして立ち去っていった。

「兄さん、ティアさんになんか恨みでも買ったん?」
「ん?恨みだなんて、僕に限ってそんなまさか。ただ入学が同じ年でね。少し話す機会があったくらいだよ」
「はいはい、聞いた俺がバカだったわ」

 どうせ当時から色々やらかして目をつけられたんだろうと予想したロイド。
 ちなみにこの予想は正解であり、突出した優秀さで有名だった2人はなにかとセットとして扱われていた。
 その為か気付けばフィンクの面倒をティアに見させようとした教師により、ティアが振り回されたという訳である。

「さてさて、楽しみだね」
「あーもう楽しそーだなちくしょーが」

 言っている間に開始されたトーナメント。
 参加人数の多さにより、実践訓練が行われる中庭も会場として利用されており、同時に15箇所での戦いを行なっている。
 ちなみに、結果300人ほどが参加し、一回戦を最大30分に限定することで長くても12時間程で終わる見込みらしい。

「夜までやんのかよこれ」
「アホらしいわね。最初の方は入試みたいに団体でやれば良かったのに」

 いまだに愚痴る姉弟。いっそのことさっさと負けてのんびりしようかと考え始めた2人だったが、それを見越したようにフィンクが口を開く。

「さて、始まる前に伝言だよ2人とも」
「ん?伝言?」
「何かしら?」

 目を丸くして振り返る姉弟。それをにっこりと笑うフィンクが見つめる。

「ロイドはレオンさんから。『優勝以外はフェブル山脈マラソン。むしろくたばれクソガキ』だってさ」
「……あぁ?」
「エミリーは母さんとベルさんから。『もし負けちゃったら、あの事をロイドや皆に言うわね』だって」
「……なんてことなの」

 青筋を浮かべて眉根を寄せるロイドに、顔を赤くしつつ青くさせるという妙技で膝を折るエミリー。
 その数瞬後、エミリーは立ち上がり、ロイドは舌打ちしながら言う。

「「優勝してやる」」
「ふふっ、頑張って。僕もどちらかと戦えるのを楽しみにしてるよ」

 にこやかに笑うフィンクも目に入っていないかのように、2人はそれぞれ自分の戦うスペースに踵を返して向かったのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 これは偶然かそれとも作為的にか、ロイド、エミリー、グラン、クレア、ラピス、カイン、ティアは勝ち登らなければそれぞれが当たらないように配置してされていた。
 まぁぶっちゃけ後者である。

 エミリー、クレア、ラピス、グランは順調に勝ち進んでいった。
 それも当然だろう。いくら学園においての評価が4等級とはいえ、それは新入生だからこその等級。

 学園に来て初めて実践訓練やギルドを通じて実戦を行うのがほとんどという生徒達が多数なのに対して、彼らは幾度も実戦に身を投じてきたのだ。

 もとよりずば抜けた才能や実力を秘めた彼らが、発展途上とは言え他の生徒とは比べ物にならない程の戦いの数と密度により研ぎ澄まされてきたのである。
 
 また、カイン、ティアも同様に勝ち進む。
 2人は単純に実力があった。生徒会長であるティアは言わずもがな、カインも英才教育とそれを無駄なく糧とする才能を有している。
 
 そしてロイドも勝利を重ねていく。
 勝利の理由は言うまでもないだろう。だが、周囲の反応はそうではなかった。

 勇者コウとの戦いでの勝利にロイドが意外と強いという認識が広まりつつはあったものの、やはり一度強く付いた印象はそうは変わらないものだ。
 ましてや弱いとされる者を虐げて悦に浸るようなーー『恥さらし』とバカにしていたような連中は特に。
 
 そんなロイドが勝利を重ねていく。最初の戦いではブーイングや非難の声ばかりだったが、それは戦いを進めていくにつれて小さくなっていく。

 そうしてあっという間に夕方となり、勝ち残ったのは8人。
 ロイド、エミリー、グラン、クレア、ラピス、カイン、ティア、そして2等級の生徒であるギルベルトという生徒だった。

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