魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
44 フィンク到来
「あっはっはっ、相変わらず容赦がないね、ティアは」
「お前は相変わらず腹が立つな!」
校庭に向かったロイド達の目に飛び込んできたのは、笑うフィンクと怒るティア。そしてその2人の間で激しくぶつかり合う魔法の応酬であった。
時に鋭く、時に軽やかに舞う水を従えるティアの変幻自在な水魔法を、フィンクはいつもな微笑みを浮かべて同じく水魔法で防いでいる。
その攻防は凄まじく、野次馬に集まった生徒達も遠巻きに見る事しか出来ずにいた。
「そんなに怒らないでもいいだろう?一応頼まれて来たんだからさ」
「だからと言って見かけた生徒にケンカを売るなんてどういうつもりだ?!」
「やだな、ケンカじゃないよ。今の学園のレベルが見たかっただけだよ」
水が鞭のように水の壁を叩き、瀑布の如き水をが水の渦が受け流す。
名門校に相応しい整備された校庭は、もはや荒れ果てた戦場と化していた。
「それが迷惑だと言っているんだ、この戦闘狂が!」
「そんな事言って、ティアだって暴れまくってるじゃないか。似たようなもんだよ」
「一緒にするな!あーもう、弟はしっかりしてるのに兄のお前はなんでこう…!」
「ふふ、ロイドは良い子だけど、たまに僕より容赦ないよ?」
「「嘘をつけ!」」
フィンクの言葉にティアが叩きつけるように否定する。その言葉に被るように、もう一つの声が響いた。
その声の方に目をやるフィンクとティアに、青筋を浮かべたロイドが映る。
「兄さんにだけは言われたかねーよ!」
「ロイド……全く、自分を客観的に見るのも大事な力だよ?」
激昂するロイドに、フィンクは困ったような笑顔で返す。
実は正論ではあるものの、ロイドからすれば的外れな言葉に苛立ちを覚える。
「っんの…!なぁクレア、何か言ってやってくれや」
「あー……はい、先輩はそのぉ…」
ならば客観的な意見を!とクレアに話を振ると、それはもう気まずそうな表情で言葉を濁される。
ん?と首を傾げるロイドは、仕方ないとエミリーに視線を向ける。
「姉さん!」
「んー……悪いわね、今回はフォロー出来ないわ…」
「あれぇ?!」
予想と違うリアクションに、ロイドは真剣に頭を抱える。
そのやりとりを見ていたティア。
ロイドがふと視線を感じてティアを見ると、明らかに疑念を抱いたような視線を向けられていた。
「…………」
「ちょ、ティアさん?違う、そんなはずは…」
「いやぁ、フィンクさんの言う通りだろ。お前そーゆーとこあるって」
「おま、グラン……え、マジ?」
その視線に慌てるロイドに、ポンと肩に手を置いてフォローするグラン。
勿論と言うべきかフォローではなく、むしろトドメなのだが。
「まぁそんな事はいいんだ。僕としてはここの警備として、フェレスとかいう男を消すのが仕事なんだからね」
「警備ってより殺し屋のセリフだぞそれ」
「似たような仕事さ」
いや違ぇよ、と内心呟くロイドに、フィンクは言葉を続ける。
「それに、ロイドの腕か鈍ってないかレオンさんに見てくるよう言われてるしね。毎日手合わせ出来るよ?」
「勘弁してくれぇ!」
「ははっ、素直じゃないなぁ」
嘆くロイドにフィンクは笑う。対して本気で嫌そうなロイドは叫ぶ。
「素直な意見だよ!死ぬわ!つか他にもいるだろーが!」
「ちょっ、ロイド!」
「んー、そうだね。せっかくだしエミリーの相手もしようかな。それに、カインやティアといるしね」
「そーだろ!?他にもいっぱいいるぞ!?」
「ロイドあんた!せっかくスルーされると思ったのに!」
「おい?!俺まで巻き込むな!」
「待ちなさい、私生徒会長だからそんな時間ないわよ!?」
名前の挙がったメンツが嘆く。
そしてロイドに恨みがましい目線を向けるも、ロイドはしてやったりと笑うばかりだ。
その顔に苛立ちを募らせる面々。それらに紛れるようにほっと息をつくグラン。
「ん?あぁ、もしかして君がグラン君かい?」
「えっ?!あ、はい」
「ふふ、ロイドから話は聞いているよ。かなり強いんだってね。楽しみだよ」
「え?楽しみって…」
「ふふふ」
不意に名指しされて頬を引きつらせるグランに、フィンクは楽しそうに笑うばかり。 その美形の笑顔に遠巻きに見ていた生徒達――女子達は目を惹きつけられるが、対面しているグランは恐ろしい何かに見えて仕方なかった。
「それに、確かにロイドの言う通り……昔見た顔もいるみたいだし、昔出来なかった先生との手合わせもしてみたいな」
周りを見渡しながら言うフィンクに、上級生達は一斉に顔を背けた。
さらにはこの騒ぎに来ていた教師達はすでに姿を消している。さすが教師、素晴らしい撤退の潔さだった。
「ふふ、少しの間だけど、退屈しなくて済みそうだね」
「仕事しろや」
楽しそうに笑うフィンクに、ロイドはせめてもの悪態をつく。
ごもっともな指摘だが、しかし諦めたであろう面々は大きな溜息をつくのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからしばらくして、フィンクはロイドに聞いてある部屋へと向かっていた。
その向かう先は保健室であり、ラピスが休んでいる部屋である。
「失礼するよ」
「あ、あれ?フィンクさん?」
それからノックをして部屋へと入るフィンクに、ラピスは目を丸くする。
来るとは聞いていたものの、まさかこんなに早く来るとは思っていなかったラピスに、フィンクは優しく微笑む。
「うん、さっき来たんだよ。ところで体調はどうだい?」
「あ、はい。もう全然大丈夫ですよぉ。一応安静にしてなさいって言われて休んでただけですし」
「なら良かったよ」
フィンクは笑顔を浮かべながらベッドの横にある椅子に座った。
そしてラピスを数秒見つめてから口を開く。
「……で、元気がないのは別の理由なのかな?」
「っ………」
ラピスはバッとカインに顔を向けるも、すぐに視線を落として俯く。
言葉なく手元を見つめるラピスに、フィンクは少し困ったような微笑みを浮かべて口を開く。
「……僕も君達とはよく話していたし、役立たずとは思うけどきっと聞く事くらいは出来ると思うんだ」
「いやっ、いつも頼りにしてますよ!」
「ふぅん、なら僕で良かったら聞くよ」
ラピスが慌てたように言うと、するっといつもの微笑みに戻るフィンク。
あ、やられた、と内心で叫ぶラピスだが、どこか有無を言わさぬフィンクの微笑みに反論も否定も出来ず。
「……私が拐われちゃった時に、ロイドくんが一番に駆けつけてくれたんです」
「うん」
「それで、ロイドくんが怒っちゃって、すごく暴れて…」
「うん」
変わらぬ態度でただ聞くフィンク。
淡々と受け止めるフィンクに話しやすさを無意識に覚えたラピスは、ゆっくりながらも言葉を繋いでいく。
「……でも、私が止めようとした言葉は届かなかった」
「…うん」
ラピスは手元に視線を落とし、その手は布団を握りしめて。絞り出すように言葉を続ける。
「……それなのに、エミリーさんとクレアの言葉は届いてて…」
「………」
フィンクは相槌を打たず、しかしラピスにしっかりと目線を向けて話を聞く。
ちなみにエミリーとクレアは言葉だけでなく拳をもって黙らせたのだが、それをフィンクは知らない。
「………やっぱり、敵わないなって思って……」
ラピスは握りしめた拳を少し緩めながら、小さく呟く。
そして、少しだけ魔力を練り上げ、小さな黒い球――破壊魔法『無帰』を浮かべ、それを見つめる。
その黒の先に、何かを見るかのようにラピスはそれに視線を向けてていた。
「お前は相変わらず腹が立つな!」
校庭に向かったロイド達の目に飛び込んできたのは、笑うフィンクと怒るティア。そしてその2人の間で激しくぶつかり合う魔法の応酬であった。
時に鋭く、時に軽やかに舞う水を従えるティアの変幻自在な水魔法を、フィンクはいつもな微笑みを浮かべて同じく水魔法で防いでいる。
その攻防は凄まじく、野次馬に集まった生徒達も遠巻きに見る事しか出来ずにいた。
「そんなに怒らないでもいいだろう?一応頼まれて来たんだからさ」
「だからと言って見かけた生徒にケンカを売るなんてどういうつもりだ?!」
「やだな、ケンカじゃないよ。今の学園のレベルが見たかっただけだよ」
水が鞭のように水の壁を叩き、瀑布の如き水をが水の渦が受け流す。
名門校に相応しい整備された校庭は、もはや荒れ果てた戦場と化していた。
「それが迷惑だと言っているんだ、この戦闘狂が!」
「そんな事言って、ティアだって暴れまくってるじゃないか。似たようなもんだよ」
「一緒にするな!あーもう、弟はしっかりしてるのに兄のお前はなんでこう…!」
「ふふ、ロイドは良い子だけど、たまに僕より容赦ないよ?」
「「嘘をつけ!」」
フィンクの言葉にティアが叩きつけるように否定する。その言葉に被るように、もう一つの声が響いた。
その声の方に目をやるフィンクとティアに、青筋を浮かべたロイドが映る。
「兄さんにだけは言われたかねーよ!」
「ロイド……全く、自分を客観的に見るのも大事な力だよ?」
激昂するロイドに、フィンクは困ったような笑顔で返す。
実は正論ではあるものの、ロイドからすれば的外れな言葉に苛立ちを覚える。
「っんの…!なぁクレア、何か言ってやってくれや」
「あー……はい、先輩はそのぉ…」
ならば客観的な意見を!とクレアに話を振ると、それはもう気まずそうな表情で言葉を濁される。
ん?と首を傾げるロイドは、仕方ないとエミリーに視線を向ける。
「姉さん!」
「んー……悪いわね、今回はフォロー出来ないわ…」
「あれぇ?!」
予想と違うリアクションに、ロイドは真剣に頭を抱える。
そのやりとりを見ていたティア。
ロイドがふと視線を感じてティアを見ると、明らかに疑念を抱いたような視線を向けられていた。
「…………」
「ちょ、ティアさん?違う、そんなはずは…」
「いやぁ、フィンクさんの言う通りだろ。お前そーゆーとこあるって」
「おま、グラン……え、マジ?」
その視線に慌てるロイドに、ポンと肩に手を置いてフォローするグラン。
勿論と言うべきかフォローではなく、むしろトドメなのだが。
「まぁそんな事はいいんだ。僕としてはここの警備として、フェレスとかいう男を消すのが仕事なんだからね」
「警備ってより殺し屋のセリフだぞそれ」
「似たような仕事さ」
いや違ぇよ、と内心呟くロイドに、フィンクは言葉を続ける。
「それに、ロイドの腕か鈍ってないかレオンさんに見てくるよう言われてるしね。毎日手合わせ出来るよ?」
「勘弁してくれぇ!」
「ははっ、素直じゃないなぁ」
嘆くロイドにフィンクは笑う。対して本気で嫌そうなロイドは叫ぶ。
「素直な意見だよ!死ぬわ!つか他にもいるだろーが!」
「ちょっ、ロイド!」
「んー、そうだね。せっかくだしエミリーの相手もしようかな。それに、カインやティアといるしね」
「そーだろ!?他にもいっぱいいるぞ!?」
「ロイドあんた!せっかくスルーされると思ったのに!」
「おい?!俺まで巻き込むな!」
「待ちなさい、私生徒会長だからそんな時間ないわよ!?」
名前の挙がったメンツが嘆く。
そしてロイドに恨みがましい目線を向けるも、ロイドはしてやったりと笑うばかりだ。
その顔に苛立ちを募らせる面々。それらに紛れるようにほっと息をつくグラン。
「ん?あぁ、もしかして君がグラン君かい?」
「えっ?!あ、はい」
「ふふ、ロイドから話は聞いているよ。かなり強いんだってね。楽しみだよ」
「え?楽しみって…」
「ふふふ」
不意に名指しされて頬を引きつらせるグランに、フィンクは楽しそうに笑うばかり。 その美形の笑顔に遠巻きに見ていた生徒達――女子達は目を惹きつけられるが、対面しているグランは恐ろしい何かに見えて仕方なかった。
「それに、確かにロイドの言う通り……昔見た顔もいるみたいだし、昔出来なかった先生との手合わせもしてみたいな」
周りを見渡しながら言うフィンクに、上級生達は一斉に顔を背けた。
さらにはこの騒ぎに来ていた教師達はすでに姿を消している。さすが教師、素晴らしい撤退の潔さだった。
「ふふ、少しの間だけど、退屈しなくて済みそうだね」
「仕事しろや」
楽しそうに笑うフィンクに、ロイドはせめてもの悪態をつく。
ごもっともな指摘だが、しかし諦めたであろう面々は大きな溜息をつくのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからしばらくして、フィンクはロイドに聞いてある部屋へと向かっていた。
その向かう先は保健室であり、ラピスが休んでいる部屋である。
「失礼するよ」
「あ、あれ?フィンクさん?」
それからノックをして部屋へと入るフィンクに、ラピスは目を丸くする。
来るとは聞いていたものの、まさかこんなに早く来るとは思っていなかったラピスに、フィンクは優しく微笑む。
「うん、さっき来たんだよ。ところで体調はどうだい?」
「あ、はい。もう全然大丈夫ですよぉ。一応安静にしてなさいって言われて休んでただけですし」
「なら良かったよ」
フィンクは笑顔を浮かべながらベッドの横にある椅子に座った。
そしてラピスを数秒見つめてから口を開く。
「……で、元気がないのは別の理由なのかな?」
「っ………」
ラピスはバッとカインに顔を向けるも、すぐに視線を落として俯く。
言葉なく手元を見つめるラピスに、フィンクは少し困ったような微笑みを浮かべて口を開く。
「……僕も君達とはよく話していたし、役立たずとは思うけどきっと聞く事くらいは出来ると思うんだ」
「いやっ、いつも頼りにしてますよ!」
「ふぅん、なら僕で良かったら聞くよ」
ラピスが慌てたように言うと、するっといつもの微笑みに戻るフィンク。
あ、やられた、と内心で叫ぶラピスだが、どこか有無を言わさぬフィンクの微笑みに反論も否定も出来ず。
「……私が拐われちゃった時に、ロイドくんが一番に駆けつけてくれたんです」
「うん」
「それで、ロイドくんが怒っちゃって、すごく暴れて…」
「うん」
変わらぬ態度でただ聞くフィンク。
淡々と受け止めるフィンクに話しやすさを無意識に覚えたラピスは、ゆっくりながらも言葉を繋いでいく。
「……でも、私が止めようとした言葉は届かなかった」
「…うん」
ラピスは手元に視線を落とし、その手は布団を握りしめて。絞り出すように言葉を続ける。
「……それなのに、エミリーさんとクレアの言葉は届いてて…」
「………」
フィンクは相槌を打たず、しかしラピスにしっかりと目線を向けて話を聞く。
ちなみにエミリーとクレアは言葉だけでなく拳をもって黙らせたのだが、それをフィンクは知らない。
「………やっぱり、敵わないなって思って……」
ラピスは握りしめた拳を少し緩めながら、小さく呟く。
そして、少しだけ魔力を練り上げ、小さな黒い球――破壊魔法『無帰』を浮かべ、それを見つめる。
その黒の先に、何かを見るかのようにラピスはそれに視線を向けてていた。
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