魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
42 お説教
「……姉さん、クレア。いてーんだけど」
「自業自得よ。おバカ」
「そうです!加減くらい覚えてください!」
顔を起こすロイドの言葉をクレアとエミリーは容赦なく切り捨てる。
その言葉にぷいっとそっぽ向くロイドに、再び溜息をつく2人。
「まぁ……先輩の事だから二度としないように釘を刺すつもりでやったんでしょうけど」
「あとはどうせ間に合わなかった八つ当たりと、ブチギレて手加減が面倒になったんでしょ」
2人の言葉に心なしか小さくなるロイド。
聞いていたカインはその言葉に息を飲む。
(嘘だろ……釘を刺すで済むレベルかこれ?ましてや八つ当たりや手加減の横着とかいう言葉で済ませれる惨状か?)
当然のように指摘している女性陣含め、ウィンディア組怖えよ、と震えるカイン。
その視線の先で、ロイドがすっと立ち上がってルースドへと近寄る。
「ひぃっ!」
「………」
「ロイド」
「……姉さん」
怯えるルースドを無言で見下ろすロイドは、しかし追撃もせずただ立ち尽くす。
その瞳は、先程のような暗く苛烈な色はない。
そんなロイドに声を掛けたエミリーに、ロイドはどこか困ったような視線を向けた。
その視線でロイドの心境が分かったのか、エミリーは呆れたように肩をすくめてロイドの肩を掴んで優しく引く。
「下手ね。代わりなさい」
「…………」
そして入れ替わるようにルースドの前に立つエミリー。
そんなエミリーに、ルースドは何を思ったか頬を緩めて、希望を見出したような表情を浮かべーー
「冒険者ギルドウィンディア領一人娘の誘拐、暴行。ふふっ、伯爵程度の地位で揉み消せるかしらね?」
――ピシッと硬直した。
「ふふ、いいかしら?二度と私達にちょっかいを出さない事、今このことを他言しない事。これが出来なかったら……うちの領の皆んなと家族であなたの家に遊びに行っちゃうかも?」
ふふっと可愛らしく、美しく笑うエミリー。
が、ルースドは今にも倒れそうな程顔色を蒼白にしていく。
「……あとはあなた次第よ?じゃあね」
そう言い残してロイドの手を引いて立ち去るクレア。
短くも、釘を刺すべき所は刺し、反論する時間すら与えなかった。
それを見るロイド、カインの眼には戦慄が映る。
ーーこっわ。
内心呟かれた言葉は、見事に揃っていたとか。
「ほんっと、バカなんだから!」
「そうですよ!全くもうっ!」
エミリーの麗しい微笑みを間近で見たルースドは、顔面蒼白のまま気を失った。
それをどこか血の気の引いた顔色で見ていたロイドとカイン。
が、ロイドがのんびり眺めていられたのはそう長くなかった。
すぐにカツカツと詰め寄るエミリーとクレアにロイドは正座させられたのだ。
「あんたねぇ!レオンのせいで脳筋になってない?!殴れば黙るなんて下手の証じゃないの!」
「そうですよ!先輩が仲間内に手を出されたら手がつけれないのは知ってましたが、最近やりすぎな気がしますよ!」
美少女2人が凄い剣幕で捲し立てる姿はなんとも迫力があった。
そしてさりげなくレオンに被弾している。
反論出来る余地すらなく言葉が降り注がれるロイドは小さくなり、カインは無意識の内に距離をとっていた。
そんな中、ポカンとしていたラピスがハッとしたように立ち上がって駆け寄る。
「あ、あの、私のせいでごめんなさい…」
が、今の2人に割り込みのはやはり怖いのか、恐る恐る声を掛けるラピスに、エミリーとクレアはくるりと振り返る。
ビクッとするラピス。
さらに振り返った2人がそのまま飛びかかってくるものだから、身を硬くして声にならない叫びを上げるラピス。
「無事で良かったわ…」
「怪我はないですか?!」
しかし、予想――思えば失礼なーーに反して2人は優しくラピスを抱擁し、優しい目でラピスを見つめる。
一瞬言葉を失ったラピスは、しかし微笑みを浮かべる。
「……はい、お陰様で」
「良かった…って待たせちゃってごめんなさいね。お腹とかは大丈夫?蹴られてるようだけど」
「えぇっ?!は、早く治療を…!」
エミリーはラピスの腹部に視線を向けて言うと、クレアが慌てたように魔力を練り上げる。
大丈夫だよぉ、というラピスの言葉を無視してクレアは魔法を発動する。
「――『清光』」
クレアの手がラピスの腹部に添えられ、その手から白い光が優しく漏れる。
治癒魔法『清光』。
ウィンディア領剣術道場のラルフ、その妻ルナに指導してもらって身につけた魔法である。
エルフの適正魔法は人族のそれより多い。
そしてクレアも高いとまではいかないが適正を持っていた為、ルナの手ほどきとこの学園で身につけていた。
「……ありがとう、クレア」
「いえ、こちらこそ気付かずにすみません」
気にするほどではないまでも、鈍い痛みを放っていた腹部が楽になっていく感覚に、ラピスは頬を緩める。
そして、改めて頭を下げた。
「ごめんなさい、油断しちゃって迷惑かけました!」
「いえ、私も近くに居たのにすみません……」
「色々思う事はあるわよね。……けど、今はとにかく無事ならいいのよ。でも、今後は気をつけないとね」
ラピスはクレアと共にお菓子を作ろうとクレアの部屋に向かう途中、ラピスの自室にある食材も使おうと言って別れた。
その道中でルースドに声をかけられ、話している内に後ろから何者かに襲われ、気付いたらここに居たという事だった。
「まさか学園内にそんな行為に出る輩がいるとはな…」
「そうですね。注意を促しておいた方がよろしいかと」
「そうだな」
カインとエミリーが険しい目つきで話す。
今回は狙われた対象がロイドであり、その囮としてラピスが被害にあった。
ロイドの暴走はあったが結果として人質の救出と撃退をあっという間に完遂したから失念しそうになるが、普通はそうはいかない。
かなり重大な事件だ。
「冒険者まで雇って……ここまでやるのは近年無かったんだがな」
「……とりあえず、後であの者から話を聞きましょう」
そう言ってエミリーはルースドへと目を向ける。
そうだな、とカインは頷き、ルースドの方へと近寄って脚を掴み、引きずりながら歩き出した。
「殿下、私が持ちます!」
「構わん。そろそろ人が来るはずだから、そいつに引き渡すまでの事だ」
「いやちょっ、殿下!」
王族の手を煩わせるなんてこっちが怒られるわ!と慌てるエミリーに、しかしカインはその様子に気付かず歩く。
(……いくら油断があったとは言え、こいつらレベルの実力者に気付かれず誘拐?一体誰が……)
カインは思考に没しており、どこか上の空で考え込んでいるようだった。
「……分かりましたか!?先輩!」
「ういーす」
「ちょっとちゃんと聞いてました?!」
一方、クレアはロイドの説教を再開。
いつの間にかいつもの調子を取り戻したロイドに、頬を膨らませるクレア。
それを黙って見ているラピス。
「……敵わないな…」
「もう先輩?!……って何か言いましたか、ラピス?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
「……?」
首を傾げるクレアに、ロイドは今だ!と立ち上がる。
「いやいや、怪我は治っても精神的な疲れは別だろ?早く学園に戻って休んだ方がいい。よし、行くぞラピス!」
「えっ?いや大丈――ってきゃあ!」
「あっ、ちょっ!逃げましたね先輩!しかも正論だからちょっと止めにくい!」
ロイドは早口に言い切ると、ラピスを抱えて走り出した。
それを叫びつつも慌てて追うクレア。
そうしてロイド達が去っていった建物には血塗れになって倒れる冒険者達。
他に誰も居ないはずのその建物の端――影になっている場所で1人の男が立っていた。
「あんな小物じゃダメだったか…」
男はそう呟くと、再びすっと影の中に消えていった。
「自業自得よ。おバカ」
「そうです!加減くらい覚えてください!」
顔を起こすロイドの言葉をクレアとエミリーは容赦なく切り捨てる。
その言葉にぷいっとそっぽ向くロイドに、再び溜息をつく2人。
「まぁ……先輩の事だから二度としないように釘を刺すつもりでやったんでしょうけど」
「あとはどうせ間に合わなかった八つ当たりと、ブチギレて手加減が面倒になったんでしょ」
2人の言葉に心なしか小さくなるロイド。
聞いていたカインはその言葉に息を飲む。
(嘘だろ……釘を刺すで済むレベルかこれ?ましてや八つ当たりや手加減の横着とかいう言葉で済ませれる惨状か?)
当然のように指摘している女性陣含め、ウィンディア組怖えよ、と震えるカイン。
その視線の先で、ロイドがすっと立ち上がってルースドへと近寄る。
「ひぃっ!」
「………」
「ロイド」
「……姉さん」
怯えるルースドを無言で見下ろすロイドは、しかし追撃もせずただ立ち尽くす。
その瞳は、先程のような暗く苛烈な色はない。
そんなロイドに声を掛けたエミリーに、ロイドはどこか困ったような視線を向けた。
その視線でロイドの心境が分かったのか、エミリーは呆れたように肩をすくめてロイドの肩を掴んで優しく引く。
「下手ね。代わりなさい」
「…………」
そして入れ替わるようにルースドの前に立つエミリー。
そんなエミリーに、ルースドは何を思ったか頬を緩めて、希望を見出したような表情を浮かべーー
「冒険者ギルドウィンディア領一人娘の誘拐、暴行。ふふっ、伯爵程度の地位で揉み消せるかしらね?」
――ピシッと硬直した。
「ふふ、いいかしら?二度と私達にちょっかいを出さない事、今このことを他言しない事。これが出来なかったら……うちの領の皆んなと家族であなたの家に遊びに行っちゃうかも?」
ふふっと可愛らしく、美しく笑うエミリー。
が、ルースドは今にも倒れそうな程顔色を蒼白にしていく。
「……あとはあなた次第よ?じゃあね」
そう言い残してロイドの手を引いて立ち去るクレア。
短くも、釘を刺すべき所は刺し、反論する時間すら与えなかった。
それを見るロイド、カインの眼には戦慄が映る。
ーーこっわ。
内心呟かれた言葉は、見事に揃っていたとか。
「ほんっと、バカなんだから!」
「そうですよ!全くもうっ!」
エミリーの麗しい微笑みを間近で見たルースドは、顔面蒼白のまま気を失った。
それをどこか血の気の引いた顔色で見ていたロイドとカイン。
が、ロイドがのんびり眺めていられたのはそう長くなかった。
すぐにカツカツと詰め寄るエミリーとクレアにロイドは正座させられたのだ。
「あんたねぇ!レオンのせいで脳筋になってない?!殴れば黙るなんて下手の証じゃないの!」
「そうですよ!先輩が仲間内に手を出されたら手がつけれないのは知ってましたが、最近やりすぎな気がしますよ!」
美少女2人が凄い剣幕で捲し立てる姿はなんとも迫力があった。
そしてさりげなくレオンに被弾している。
反論出来る余地すらなく言葉が降り注がれるロイドは小さくなり、カインは無意識の内に距離をとっていた。
そんな中、ポカンとしていたラピスがハッとしたように立ち上がって駆け寄る。
「あ、あの、私のせいでごめんなさい…」
が、今の2人に割り込みのはやはり怖いのか、恐る恐る声を掛けるラピスに、エミリーとクレアはくるりと振り返る。
ビクッとするラピス。
さらに振り返った2人がそのまま飛びかかってくるものだから、身を硬くして声にならない叫びを上げるラピス。
「無事で良かったわ…」
「怪我はないですか?!」
しかし、予想――思えば失礼なーーに反して2人は優しくラピスを抱擁し、優しい目でラピスを見つめる。
一瞬言葉を失ったラピスは、しかし微笑みを浮かべる。
「……はい、お陰様で」
「良かった…って待たせちゃってごめんなさいね。お腹とかは大丈夫?蹴られてるようだけど」
「えぇっ?!は、早く治療を…!」
エミリーはラピスの腹部に視線を向けて言うと、クレアが慌てたように魔力を練り上げる。
大丈夫だよぉ、というラピスの言葉を無視してクレアは魔法を発動する。
「――『清光』」
クレアの手がラピスの腹部に添えられ、その手から白い光が優しく漏れる。
治癒魔法『清光』。
ウィンディア領剣術道場のラルフ、その妻ルナに指導してもらって身につけた魔法である。
エルフの適正魔法は人族のそれより多い。
そしてクレアも高いとまではいかないが適正を持っていた為、ルナの手ほどきとこの学園で身につけていた。
「……ありがとう、クレア」
「いえ、こちらこそ気付かずにすみません」
気にするほどではないまでも、鈍い痛みを放っていた腹部が楽になっていく感覚に、ラピスは頬を緩める。
そして、改めて頭を下げた。
「ごめんなさい、油断しちゃって迷惑かけました!」
「いえ、私も近くに居たのにすみません……」
「色々思う事はあるわよね。……けど、今はとにかく無事ならいいのよ。でも、今後は気をつけないとね」
ラピスはクレアと共にお菓子を作ろうとクレアの部屋に向かう途中、ラピスの自室にある食材も使おうと言って別れた。
その道中でルースドに声をかけられ、話している内に後ろから何者かに襲われ、気付いたらここに居たという事だった。
「まさか学園内にそんな行為に出る輩がいるとはな…」
「そうですね。注意を促しておいた方がよろしいかと」
「そうだな」
カインとエミリーが険しい目つきで話す。
今回は狙われた対象がロイドであり、その囮としてラピスが被害にあった。
ロイドの暴走はあったが結果として人質の救出と撃退をあっという間に完遂したから失念しそうになるが、普通はそうはいかない。
かなり重大な事件だ。
「冒険者まで雇って……ここまでやるのは近年無かったんだがな」
「……とりあえず、後であの者から話を聞きましょう」
そう言ってエミリーはルースドへと目を向ける。
そうだな、とカインは頷き、ルースドの方へと近寄って脚を掴み、引きずりながら歩き出した。
「殿下、私が持ちます!」
「構わん。そろそろ人が来るはずだから、そいつに引き渡すまでの事だ」
「いやちょっ、殿下!」
王族の手を煩わせるなんてこっちが怒られるわ!と慌てるエミリーに、しかしカインはその様子に気付かず歩く。
(……いくら油断があったとは言え、こいつらレベルの実力者に気付かれず誘拐?一体誰が……)
カインは思考に没しており、どこか上の空で考え込んでいるようだった。
「……分かりましたか!?先輩!」
「ういーす」
「ちょっとちゃんと聞いてました?!」
一方、クレアはロイドの説教を再開。
いつの間にかいつもの調子を取り戻したロイドに、頬を膨らませるクレア。
それを黙って見ているラピス。
「……敵わないな…」
「もう先輩?!……って何か言いましたか、ラピス?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
「……?」
首を傾げるクレアに、ロイドは今だ!と立ち上がる。
「いやいや、怪我は治っても精神的な疲れは別だろ?早く学園に戻って休んだ方がいい。よし、行くぞラピス!」
「えっ?いや大丈――ってきゃあ!」
「あっ、ちょっ!逃げましたね先輩!しかも正論だからちょっと止めにくい!」
ロイドは早口に言い切ると、ラピスを抱えて走り出した。
それを叫びつつも慌てて追うクレア。
そうしてロイド達が去っていった建物には血塗れになって倒れる冒険者達。
他に誰も居ないはずのその建物の端――影になっている場所で1人の男が立っていた。
「あんな小物じゃダメだったか…」
男はそう呟くと、再びすっと影の中に消えていった。
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