魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
38 野朗三人恋話
「っはぁ〜、肩凝るわー」
「ふふっ、ごめんね」
「いやたまには肩凝らせるくらいがいいんだよこいつは」
それからロイド達が向かった先はグランの部屋だった。
グランの部屋は留学生という事もあり寮の中でも広い部屋を用意されていた。
ロイドはそれを聞いてはいたが、なんだかんだ来た事がなかったので興味深そうに部屋の中を見ている。
「おいおい、部屋広すぎねーか?いいなー」
「まぁな。でも俺的には広すぎて不便だけどよ」
「はっ、贅沢言いやがって」
「そうだね。あとで校長と話して小部屋に替えてもらうよう言っておくよ」
「うわ、そりゃ勘弁だぜ!」
「いいな、そーしよーや」
リビングのソファに腰掛けて談笑するロイド、グラン、ブロズの3人。
食事の場所という名目で3人でゆっくり話が出来る場所に案内する、という事をブロズとグランは事前に手紙でやりとりしていたのだ。
夕日の差し込む窓がいつしか暗くなるまで、止まる事なく話が盛り上がった彼ら。
だが、グランの腹の虫が鳴いた事で会話が一瞬途切れる。
「あー、結局何も食ってないしなー。飯用意しねーとな……てかさ、こーてーサマの飯って何出せばいいん?」
「ロイド……新種のペットのエサやりみたいに言わないで欲しいな」
「あれじゃねぇか?高そうな皿に盛れば許されるんじゃねぇか?」
「適当だなグランも……」
「なるほどなー。乗せるのはあれだろ、ササミと春雨とか」
「僕は体重を気にした女子か?」
大体ブロズがツッコミに回るこの3人の会話。
ふざけながらもグランは冷蔵庫――冷却魔法具を開けて中身を確認する。
それをソファから体を乗り出すようにして覗き見たロイドは笑いながら言う。
「ぶはっ、スッカスカやん。こーてーサマ、今日は飯抜きだわこりゃ」
「……僕もお腹空いてきたんだが…」
「うわやっべ、買うの忘れてたわ。最近食堂ばっかだったしなぁ」
ズーンと沈んだように顔を伏せるブロズと、言葉に反して反省したようには見えない笑顔で笑うグラン。
とは言え3人とも空腹なのは事実。仕方ないとロイドは立ち上がる。
「しゃーない、なんか狩ってくるか」
「ん?買って…?ニュアンスがおかしかなかったか?」
「いや、新鮮な肉の方が喜ぶかなーと」
「今度は野生生物扱いか……っていや待て、今から調達する気かい?!」
「神力と空間魔術を使えばそんなにかからないと思う」
「そんな事にそんな危険な技を使うな!」
ロイドとブロズが騒いでいる間に、グランは財布を鞄から取り出して上着を羽織る。
「適当に食材買って作るぜ。何かリクエストあるか?」
「んー、牛すじ煮込み」
「いや今からだと時間かかるだろそれ!」
「んじゃ、ソパ・デ・アッホで」
「んん?!何て?!」
結局オムライスという事になり、食材を買いに部屋を出るグランと、ご飯を炊いておくロイドという分担となった。
ブロズも手伝うと言ったのだが、ロイドとグランが恐れ多いとーーからかうようにーー言ったのでソファで待機する事に。
その表情は皇帝とは思えないほど膨れていたが。
「よし、出来た!」
「おぉ?!美味そう!意外!」
「失礼だぞロイドこら!一応サンディオ亭の店主の息子だぜ俺は!」
「グラン、ちゃんと手伝ったりしてたんだ…」
「ブロズまで?!」
それから程なくして完成したオムライスをつつきながら、再び談笑を始める3人。
ブロズはオムライスを見て思い出したように言う。
「そう言えばクレアは料理が上手だったね。グランとどっちが上手かな?」
「あー、うちのメニューにあるやつならともかく、基本的にクレアだろうぜ」
「それも正直意外だったわ。あいつ料理出来るんだよな」
以前帝国でロイド達が過ごしていた際、時折クレアが料理を作っていたのだ。
主におやつとしてのお菓子などを作っていたが、たまに小腹を満たす為の料理も作っていた。
「ロイド、クレアとはどうなんだい?」
「どうって、普通に変わらんけど」
「はぁ……全く、君は悪い男だね」
「はぁ?」
いきなりの罵倒と捉えたロイドは眉をひそめるが、それに構わず笑うブロズにグランが加わる。
「そうだぜ、実際どうなんだよロイド」
「どうって何がよ?」
「だからぁ!あの3人で誰か好きなヤツとかいねぇのかって事だよ」
「好き?……って恋愛の方か?」
「他にないだろ」
怪訝そうなロイドにグランは笑って返す。
その質問にロイドは腕を組んでんーと唸って黙り込んだ。
「ふふ、ロイドは相変わらずみたいだね。ちなみにグラン、3人とは誰なんだい?」
「ん?あ、そっか。えっとな、まずはクレアだろ?んで、一応姉のエミリーと、ラピスって子だよ」
「エミリー……エミリー・ウィンディアか。ウィンディア家の長女だね。……ラピス、とはもしかしてギルド長ディアモンド・ジュエラの一人娘のラピス・ジュエラかい?」
「お、さすが。それだよ」
悩むロイドを放って話すグランとブロズ。
まるで近況報告を聞くようなテンションだったブロズだが、出てきた人物に驚いたのか目を丸くしている。
「すごいメンツだね。それよりエミリー嬢は血縁……ではなかったんだね。忘れていたよ」
「おいおい、忘れんなよなー」
悩むのに飽きたのか会話に混じるロイド。
ロイドはウィンディア家にて育てられたが、血は繋がってはいないことをブロズも聞いてはいた。
「だとしても随分と豪華な顔ぶれに囲まれているじゃないか」
「それは否定せんけど、恋愛どうこうは別だろーよ」
「ふふ。で、どうなんだい?グラン」
相変わらずなロイドの対応に、ブロズはグランに話を振る。
それがロイドが、ではなくロイドを、という内容だと察したグランは唸りながら頭を掻く。
「んあー……本人達の気持ちもあるだろうからなぁ。……まぁ俺の推測って形なら良いのか?」
「まぁそうだね。あまり本人に言う事ではないな」
悩むグランに、確かにデリケートな部分だなと思ったブロズも質問を取り下げる。
その代わり、と言わんばかりにロイドに目線を向けながら。
「じゃあ話を戻して、ロイドとしてはどうなんだい?」
「結局聞くんかよ。……まぁ正直、そんな風に考えたこともなかったわ」
「だろうな。最初は鈍感かと思ったけど、単純にそもそも意識してなかっただけかなとは思ってたぜ」
「あー、そうかも知れん」
濁すロイドにグランは予想を述べると、ロイドは曖昧ながらも頷いた。
そんなロイドにブロズは溜息をついてから口を開く。
「ロイド、ちゃんと考えてやりなよ?それに成人までに相手は見つけた方が良い」
「え、なんでよ?別に成人してからで良くね?」
「どうかな?もちろん一般的にはそれで問題はないんだけどね。多分ロイドは苦労する事になるよ?」
「え、何それ怖い」
ふふっと笑うブロズにロイドは引きつった表情を浮かべる。
そして、少し暗い表情になったブロズはゆっくりと口を開いた。
「……僕もそろそろ成人なんだけど、お見合いを申し込む家が絶えなくてね…今ではそれに目を通すだけで1時間は使う程さ」
「あー……」
「軟禁時代には止められていたのか知らないけど、全く来てなかったアプローチが今更これさ。理由はどうであれ、そんな気になかなかなれないと思わないかい?」
「そ、そーだな…」
珍しく凄みのあるブロズに、ロイドは引きつった頬を必死に吊り上げて笑顔を作るが、ブロズの暗いオーラは増すばかり。
「……手のひら返しが、めんどくせぇ…」
「何て?」
「ブロズ、落ち着けよ…」
ボソリと呟かれたブロズの言葉にロイドは耳を疑い、グランは優しく肩をポンと叩いた。
だいぶ溜まってるのか、明らかに口調が違うブロズに、
そんなやさぐれロイドの笑顔が更に引きつった。
そんな中、ブロズはゆっくりとロイドに顔を向ける。
「という訳で、殺到する前に相手が居た方がいい。次男とは言えウィンディアの、そして『国崩し』のロイドは特にね」
「あ、はーい」
ブロズの光のない目に、ロイドは反論もせずに素直に頷いた。
ロイドの返事を聞いたブロズは、暗い目をころっと変えて笑う。
「うん、それじゃあ頑張ってくれ。応援してるよ」
「……ブロズ、やり手になったな…」
もはや演技としか思えない切り替えに、グランはボソリと戦慄を言葉にして呟いた。
もっとも、ブロズが辟易としてるのは事実だろうが。
(はぁ……俺が恋愛ねぇ。昔じゃ考えられんわな。今なら、出来るもんなんかな……)
そしてロイドとしても内容自体は間違っているとは思えず、頭の片隅に置いておこうと頷いたのであった。
「ふふっ、ごめんね」
「いやたまには肩凝らせるくらいがいいんだよこいつは」
それからロイド達が向かった先はグランの部屋だった。
グランの部屋は留学生という事もあり寮の中でも広い部屋を用意されていた。
ロイドはそれを聞いてはいたが、なんだかんだ来た事がなかったので興味深そうに部屋の中を見ている。
「おいおい、部屋広すぎねーか?いいなー」
「まぁな。でも俺的には広すぎて不便だけどよ」
「はっ、贅沢言いやがって」
「そうだね。あとで校長と話して小部屋に替えてもらうよう言っておくよ」
「うわ、そりゃ勘弁だぜ!」
「いいな、そーしよーや」
リビングのソファに腰掛けて談笑するロイド、グラン、ブロズの3人。
食事の場所という名目で3人でゆっくり話が出来る場所に案内する、という事をブロズとグランは事前に手紙でやりとりしていたのだ。
夕日の差し込む窓がいつしか暗くなるまで、止まる事なく話が盛り上がった彼ら。
だが、グランの腹の虫が鳴いた事で会話が一瞬途切れる。
「あー、結局何も食ってないしなー。飯用意しねーとな……てかさ、こーてーサマの飯って何出せばいいん?」
「ロイド……新種のペットのエサやりみたいに言わないで欲しいな」
「あれじゃねぇか?高そうな皿に盛れば許されるんじゃねぇか?」
「適当だなグランも……」
「なるほどなー。乗せるのはあれだろ、ササミと春雨とか」
「僕は体重を気にした女子か?」
大体ブロズがツッコミに回るこの3人の会話。
ふざけながらもグランは冷蔵庫――冷却魔法具を開けて中身を確認する。
それをソファから体を乗り出すようにして覗き見たロイドは笑いながら言う。
「ぶはっ、スッカスカやん。こーてーサマ、今日は飯抜きだわこりゃ」
「……僕もお腹空いてきたんだが…」
「うわやっべ、買うの忘れてたわ。最近食堂ばっかだったしなぁ」
ズーンと沈んだように顔を伏せるブロズと、言葉に反して反省したようには見えない笑顔で笑うグラン。
とは言え3人とも空腹なのは事実。仕方ないとロイドは立ち上がる。
「しゃーない、なんか狩ってくるか」
「ん?買って…?ニュアンスがおかしかなかったか?」
「いや、新鮮な肉の方が喜ぶかなーと」
「今度は野生生物扱いか……っていや待て、今から調達する気かい?!」
「神力と空間魔術を使えばそんなにかからないと思う」
「そんな事にそんな危険な技を使うな!」
ロイドとブロズが騒いでいる間に、グランは財布を鞄から取り出して上着を羽織る。
「適当に食材買って作るぜ。何かリクエストあるか?」
「んー、牛すじ煮込み」
「いや今からだと時間かかるだろそれ!」
「んじゃ、ソパ・デ・アッホで」
「んん?!何て?!」
結局オムライスという事になり、食材を買いに部屋を出るグランと、ご飯を炊いておくロイドという分担となった。
ブロズも手伝うと言ったのだが、ロイドとグランが恐れ多いとーーからかうようにーー言ったのでソファで待機する事に。
その表情は皇帝とは思えないほど膨れていたが。
「よし、出来た!」
「おぉ?!美味そう!意外!」
「失礼だぞロイドこら!一応サンディオ亭の店主の息子だぜ俺は!」
「グラン、ちゃんと手伝ったりしてたんだ…」
「ブロズまで?!」
それから程なくして完成したオムライスをつつきながら、再び談笑を始める3人。
ブロズはオムライスを見て思い出したように言う。
「そう言えばクレアは料理が上手だったね。グランとどっちが上手かな?」
「あー、うちのメニューにあるやつならともかく、基本的にクレアだろうぜ」
「それも正直意外だったわ。あいつ料理出来るんだよな」
以前帝国でロイド達が過ごしていた際、時折クレアが料理を作っていたのだ。
主におやつとしてのお菓子などを作っていたが、たまに小腹を満たす為の料理も作っていた。
「ロイド、クレアとはどうなんだい?」
「どうって、普通に変わらんけど」
「はぁ……全く、君は悪い男だね」
「はぁ?」
いきなりの罵倒と捉えたロイドは眉をひそめるが、それに構わず笑うブロズにグランが加わる。
「そうだぜ、実際どうなんだよロイド」
「どうって何がよ?」
「だからぁ!あの3人で誰か好きなヤツとかいねぇのかって事だよ」
「好き?……って恋愛の方か?」
「他にないだろ」
怪訝そうなロイドにグランは笑って返す。
その質問にロイドは腕を組んでんーと唸って黙り込んだ。
「ふふ、ロイドは相変わらずみたいだね。ちなみにグラン、3人とは誰なんだい?」
「ん?あ、そっか。えっとな、まずはクレアだろ?んで、一応姉のエミリーと、ラピスって子だよ」
「エミリー……エミリー・ウィンディアか。ウィンディア家の長女だね。……ラピス、とはもしかしてギルド長ディアモンド・ジュエラの一人娘のラピス・ジュエラかい?」
「お、さすが。それだよ」
悩むロイドを放って話すグランとブロズ。
まるで近況報告を聞くようなテンションだったブロズだが、出てきた人物に驚いたのか目を丸くしている。
「すごいメンツだね。それよりエミリー嬢は血縁……ではなかったんだね。忘れていたよ」
「おいおい、忘れんなよなー」
悩むのに飽きたのか会話に混じるロイド。
ロイドはウィンディア家にて育てられたが、血は繋がってはいないことをブロズも聞いてはいた。
「だとしても随分と豪華な顔ぶれに囲まれているじゃないか」
「それは否定せんけど、恋愛どうこうは別だろーよ」
「ふふ。で、どうなんだい?グラン」
相変わらずなロイドの対応に、ブロズはグランに話を振る。
それがロイドが、ではなくロイドを、という内容だと察したグランは唸りながら頭を掻く。
「んあー……本人達の気持ちもあるだろうからなぁ。……まぁ俺の推測って形なら良いのか?」
「まぁそうだね。あまり本人に言う事ではないな」
悩むグランに、確かにデリケートな部分だなと思ったブロズも質問を取り下げる。
その代わり、と言わんばかりにロイドに目線を向けながら。
「じゃあ話を戻して、ロイドとしてはどうなんだい?」
「結局聞くんかよ。……まぁ正直、そんな風に考えたこともなかったわ」
「だろうな。最初は鈍感かと思ったけど、単純にそもそも意識してなかっただけかなとは思ってたぜ」
「あー、そうかも知れん」
濁すロイドにグランは予想を述べると、ロイドは曖昧ながらも頷いた。
そんなロイドにブロズは溜息をついてから口を開く。
「ロイド、ちゃんと考えてやりなよ?それに成人までに相手は見つけた方が良い」
「え、なんでよ?別に成人してからで良くね?」
「どうかな?もちろん一般的にはそれで問題はないんだけどね。多分ロイドは苦労する事になるよ?」
「え、何それ怖い」
ふふっと笑うブロズにロイドは引きつった表情を浮かべる。
そして、少し暗い表情になったブロズはゆっくりと口を開いた。
「……僕もそろそろ成人なんだけど、お見合いを申し込む家が絶えなくてね…今ではそれに目を通すだけで1時間は使う程さ」
「あー……」
「軟禁時代には止められていたのか知らないけど、全く来てなかったアプローチが今更これさ。理由はどうであれ、そんな気になかなかなれないと思わないかい?」
「そ、そーだな…」
珍しく凄みのあるブロズに、ロイドは引きつった頬を必死に吊り上げて笑顔を作るが、ブロズの暗いオーラは増すばかり。
「……手のひら返しが、めんどくせぇ…」
「何て?」
「ブロズ、落ち着けよ…」
ボソリと呟かれたブロズの言葉にロイドは耳を疑い、グランは優しく肩をポンと叩いた。
だいぶ溜まってるのか、明らかに口調が違うブロズに、
そんなやさぐれロイドの笑顔が更に引きつった。
そんな中、ブロズはゆっくりとロイドに顔を向ける。
「という訳で、殺到する前に相手が居た方がいい。次男とは言えウィンディアの、そして『国崩し』のロイドは特にね」
「あ、はーい」
ブロズの光のない目に、ロイドは反論もせずに素直に頷いた。
ロイドの返事を聞いたブロズは、暗い目をころっと変えて笑う。
「うん、それじゃあ頑張ってくれ。応援してるよ」
「……ブロズ、やり手になったな…」
もはや演技としか思えない切り替えに、グランはボソリと戦慄を言葉にして呟いた。
もっとも、ブロズが辟易としてるのは事実だろうが。
(はぁ……俺が恋愛ねぇ。昔じゃ考えられんわな。今なら、出来るもんなんかな……)
そしてロイドとしても内容自体は間違っているとは思えず、頭の片隅に置いておこうと頷いたのであった。
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