魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

34 無駄な心配

 それからロイドはぎゃーぎゃーと文句を言っていたが、それに痺れを切らしたエミリーの言葉――肉体言語含めーーで大人しくなったロイド。
 そしてそのまま解散という流れになった翌日。

「あーもー、めんどくせー」
「ははっ、まぁいいじゃねぇか。俺も良いと思うぜ?」
「なんでだよー、後々が色々めんどーやん」

 ロイドは朝食をグランと食べながらもぼやく。
 勇者と戦うというデメリットーー異世界の事は伏せて、魔術についてのみだが、昨日屋上でエミリーに文句を言っている時に述べていたのだ。

 だが、それを聞いたその時のエミリーも、今話しているグランも気にした様子もない。

「いやいや、もういいっての。そんな言い訳に騙されねぇって」
「はぁー?言い訳ぇー?」

 眉をひそめるロイドに、グランは笑うのを止める。

「……え?まさかホントに言ってた?」
「そーに決まってんだろ。あんだけ騒いで嘘な訳あるかい」
「いやぁ……ロイドってめんどくさがりなとこあるし、それが出たのかと思ったぜ」

 ジトーっと見てくるロイドにグランは手を額に当てて溜息をこぼす。

「…あのな、そんな心配意味ねぇだろ」
「は?いやいやするだろ?」
「お前、頭の回転早いのにたまにバカだよな……いいか、よぉく聞けよ?」

 首を傾げるロイドに、グランは指を3本立てて口を開く。

「まず、国に利用されるだこーだのやつ。ディンバー帝国でも有名なウィンディア家の実力者を、権利で拘束してどうこう出来るなんて国王くらいと見てるが、どうだ?」
「……まぁ、かもな」
「で、その時期国王はカインだ。カインがそんな事すると思うか?」
「………しない」

 指を一本折り曲げるグランに、ロイドは目を丸くして頷く。
 その様子にうんうんと頷くグランは言葉を続ける。

「次に、悪人に利用?昔のお前ならともかく、今のロイドを?出来るやついるの?」
「いや俺より強いやつなんかいくらでも」
「いたとして、そんなレベルのヤツらがわざわざロイドを利用する意味は?そもそも、そうなったとしてもレオンさんが出れば話は済む」
「……たしかに…」

 レオンと修行する前ならともかく、今のロイドは強くなった。そのロイドを利用出来る悪人がそうゴロゴロ居たらその方が問題である。
 さらにはレオンという最強超生物の存在。これはある意味誰よりも信頼していると言えるロイドは頷くしかない。

「んで、国崩しの名前な。もうさ、バレてよくね?」
「はぁ?でもぎゃーぎゃー寄られでもしたら遺跡探しの邪魔になるだろ?」
「もし騒がれたら、それを利用したらいい」
「…利用?………あ…」
「そう。逆に国崩しのネームバリューで手伝わせりゃいい」

 思わぬ案にロイドは目を丸くする。
 もしただその名前とコネが欲しいだけなら手伝わせ、もしその名前を倒す事で名を上げようという輩がいれば黙らせて罰として手伝わせればいい。
 言われればやり方や言いようなどポンポン思いつくのに、何故思いつかなかったとロイドは己の頭を抱える。

「…ま、人の頼り方が下手なんだよ、お前は」
「……なるほどなー…」

 グランが笑って優しく言う言葉に、ロイドは合点がいったように机に突っ伏す。
 勿論、そう上手くいかない部分も出てくるだろうが、大枠は解決出来そうに思えてきた。
 
 前世では短いながらも店長として働いていたので、仕事上での頼り頼られというコミュニケーションは意識して行っていた。
 
 が、この世界では家族と数人を除いて自分を蔑む人ばかりと思って生きてきた。
 そして、それを押し除ける為、克服する為に訓練ばかりして、そして今は力を手に入れた。

(……『自分1人でやれる』なんて、思っちまってんかね……)

 そんな訳がないのに。
 
 まだルーガスやシルビア、レオンはもちろん、まだまだ勝てない相手は沢山いる。だったら、自分より強い相手が敵になる事もあるだろう。
 そう分かっているはずなのに、何故そんな事を考えてしまったのか。ロイドは自分の傲りを恥じた。

「……グラン、ありがとな」
「おうよ」

 情けなさと気恥ずかしさで顔を突っ伏したまま礼を言うロイドに、グランは笑顔を浮かべて頷いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 それからあっという間に放課後。
 校庭にはたくさんの生徒が集まっていた。

「……なんだこれ?」
「なんか、スメラギくんが言いまわってたよ?」

 それをロイドは教室から見下ろして呟くと、同じ講義だったラピスが横に並んで言う。
 
 ロイドは溜息をついた。
 内容は聞かずとも予想がつく。ロイドが嘘をついた、それを証明する。なんだって、あの恥さらしが?応援してくれないか。と、そんな流れだろう。

 もしくは単純にロイドーー恥さらしが叩きのめされるのが見たいという生徒もいるかも知れない。

「……ロイドくん、大丈夫?」
「ん?おー大丈夫だいじょーぶ」

 昨日の嫌がり方からかラピスは心配そうにロイドを見やるが、ロイドは昨日の事が嘘のようにへらっと笑って頷く。
 それに目を丸くするラピスに、ロイドは言葉を足す。

「いや、グランと話してたら、いらん心配してたなーって。だから普通に返り討ちにしてくるわ」
「そうなの?なら良かったぁ」

 ロイド同様、ラピスもその心配事が不必要な事だと気付かなかった為、ロイドの言葉に安心したように胸を撫で下ろした。
 その様子にロイドは少し嬉しそうに笑う。

「心配してくれてありがとな」
「ううん、全然だよっ」

 その笑顔にラピスは満面の笑顔で前に出した手をふるふると振って首を横に振る。
 その仕草にロイドはもう一度笑いかけ、そして席を立って教室を出る。ラピスも後を追い、どこか心地良い沈黙の中、2人は校庭へと向かった。




「待ちわびたよ」
「すまんすまん、遅くなった」

 校庭に着いたロイドは、カバンをラピスに預けてコウの近くまで足を進める。
 両手を合わせながら笑うロイドに、コウは鼻を鳴らした。

「まぁいいさ。そこまで時間はかからないだろうからね」
「そうだなー」

 ロイドは適当に相槌をうちながら周囲を見渡す。
 カインは校庭の端、人の群れから離れた所でこちらを見ていた。グラン、エミリー、クレアはいつの間にかラピスと合流している。
 
 そこでロイドと目が合ったグラン達は、笑顔を浮かべて手を振っている。運動会の保護者かよ、とロイドは笑いながら内心呟いた。
 
 その他は、教室からのぞいた時より明らかに多くなっている生徒達。
 特に女性が多く、黄色い声援がコウへと飛んでいた。

「……余裕だね、それがいつまでもつかな?」
「ん?あぁ、すまん。んじゃやるか?」

 ロイドはコウの言葉を聞いて向き直り、へらりと笑って問う。

「覚悟は出来てるみたいだね。ではやろうか」
「おー。ルールとかどーすんの?」
「そうだね。参ったと言わせるか、気絶でいいんじゃないかな」
「あいよー」

 余裕のある笑みを浮かべるコウと、飄々としたロイドは、示し合わせたように同時にすっと距離をとる。
 
 周囲の声が一段と大きくなる中、2人は同時に武器を抜いた。

コメント

  • 330284 ( ^∀^)

    イキらせてやれよ、サトゥー キモイのは仕方ないし

    1
  • サトゥー

    勇者キモいね笑笑

    2
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