魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

33 嘘の証明とフリーダム姉さん

 勢い良く屋上に現れたコウ。
 ちなみに彼の後ろには女子生徒が数人着いてきているが、彼女達はロイド達に用事がある様子はなく、コウばかり見ている。

「……俺?」
「そうだ!」

 その当人であるコウは女子生徒に構わずロイドにだけ視線をよこしていた。
 首を傾げるロイドは、溜息をつきながら立ち上がる。

「何の用?」
「君は何者なんだい?」
「……は?」

 あまりに素っ頓狂な、意図の見えない質問にロイドは眉を寄せる。
 そんなロイドに構わず、コウは口を開く。

「昨日の実践戦闘。ガイアス先生に聞いたが、凄まじい魔力の反応があったじゃないか」
「ん?あー、あぁ、あったな」

 話が変わったようにも思ったが、とりあえず聞く事にしたロイドは頷く。

「その魔力の量は下手すればドラゴンよりも強い程だったそうだ。そんなのと戦っていた人がいる」
「へー、そうなんだ」

 ギロリとロイドを睨みながら話すコウに、ロイドは適当に相槌を打つ。
 その様子が気に食わなかったのか、さらに睨む力を増しながらコウは続ける。

「その魔力が、ロイド君。君のものに似ていると言うんだ」

 魔力感知は精度が高ければそれが誰なのか判別する事も可能である。
 ガイアスーーウィーン学園教師ともなればそれも不可能ではない。
 
 そして、それをコウが聞き出したのである。

「それ、わざわざガイアス先生に聞いたんか?」
「そうだ。勇者としてそんな魔力の持ち主や、それに対抗出来る人物は確認しておきたたかったからね」

 つまり勇者の権力を使って聞き出したのだろう。
 その時のガイアスの面倒そうな表情が目に浮かぶようだ。
 
 そしてこの勇者、魔力感知は出来ないらしい。
 もっともロイドはその未熟を言うつもりはないが。変に怒られても面倒だし。

「なんかの間違いだろー?俺は恥さらしだし」
「僕もそう思ったさ。だけど何回確認してもそう言うのさ」

 何回も確認されたらしい。ガイアス先生ドンマイ、とロイドは内心で彼の苦労を慮る。

「で、どうなんだい?」
「いや、だから何かの間違いだって」
「そうやってシラを切る気かい?」

 ガイアスを疑って何回も確認した癖に、本人が違うと言っても信じないのか、とロイドは内心溜息をつく。
 別にバラしても良いが、出来れば勇者とは関わりたくない。スルーしてお帰り頂きたい。

「君はガイアス先生にそう言うように言ったんじゃないかい?君に力があると思わせる為に」
「……ん?」

 思わぬ方向の予想に、ロイドは言葉に詰まった。
 そんなロイドの反応にどう思ったのかコウは勢いづいたように話し出す。

「ウィンディア、だったか?その権力を使ったんだろう?恥さらしと呼ばれない為に、嘘をついて力を誇示しようとしたんじゃないかい?」
「…………あー」

 そう言う事か、とロイドは納得する。

「でないとおかしいじゃないか。勇者より強い同世代がいる訳がない」

 結構居ると思うよ、とロイドは内心で呟くが、コウの話は終わらない。

「ましてやそれが、『恥さらし』などと呼ばれている、おまけに権力者の息子となればより疑わしい。……ロイド君、嘘は良くない。今実力が足りなければ嘘じゃなくて実際に強くなればいいじゃないか」
「そうだな」

 前半はともかく後半は同感だったのでロイドは頷く。それに、綺麗事ながら正論でもある。
 さらに言えば前半もそう思っても仕方ないとも思ったロイドは、特に反論もしない。

「君は貴族としての力を間違えている!ウィンディアは素晴らしい一族と聞いたよ。その名前は嘘をつく為のものではないんだ」
「……」

 この言葉はスルーする訳にはいかない。
 話の方向性自体は間違えてはいないが、内容としてウィンディアという貴族が嘘をついたと言われるのは納得いかない。
 
 そう思ったロイドは途中から面倒になり気怠げになっていた眼を鋭く光らせる。

「ちょっと、ふざけないで。何を根拠に言っているのかしら」

 だが、先に口を開いたのはエミリーだった。
 ロイドは開きかけた口を閉じることも出来ずにエミリーに視線だけ向ける。

 そこには目を吊り上げて腕を組むエミリーが。苛立っているのか、組んだ腕を指がとんとんと叩いている。

「ウィンディアはそんな下らない事はしないわ。侮辱する気なら覚悟しなさい?」
「ち、違う。僕はウィンディアの事を言っているんじゃなくて、そこのロイド君の事を言ってるんだ」
「そこのロイドもウィンディアよ」

 慌てて弁明しようとするコウをエミリーはばっさりと切る。
 ぐっ、と詰まったように言葉を失うコウ。

「はぁ〜……まぁ、俺の事はどうとってもいーから、家の事は訂正してくんね?」
「………」

 ロイドは毒気を抜かれたか、苛立ちを溜息に乗せて吐き出してからコウを見据える。
 コウは口を固く閉じて黙り、ロイドの視線を押し返すかのように睨んでいた。

「分かった……それは謝る。だが、君の悪事は見過ごせない!」
「あぁ、うん、すまんすまん」
「……バカにしてるのかい…?」

 怒りを堪えるようなコウに、訂正して欲しい部分の謝罪を受けて多少溜飲を下げたロイド。
 コウのせめてもの口撃に適当に謝る。が、それが余計に煽った形になっていた。

 今にも殴りかかりそうなコウに、ロイドは困ったように頬をかく。

「あぁもう、面倒だわ。用が済んだのならお取引してくれないかしら?」
「ま、まだ話は済んでいない!」

 気のあるエミリーに去るように言われ、コウは食い下がるように叫ぶ。
 こんなはずじゃなかった、という感情が透けて見えるようなコウに、エミリーも呆れたように肩をすくめる。

「……っ!ロイド君、勝負だ!」

 そのエミリーの様子に焦ったのか、それともロイドへの怒りが限界を迎えたのか。コウはロイドをキッと睨みつけて叫ぶ。

「はぁ?何でそーなんの?」
「僕が君の嘘を証明する!僕が勝てば君は嘘をついていたと言う事になるだろう!」

 コウが勝てない相手と戦えるロイドが、コウより弱いのであればおかしい。
 そう叫ぶコウにロイドは心底嫌そうな表情を浮かべる。
 
 ただでさえ勇者とは関わりたくない。
 ティアに忠告されたという事もあるし、異世界から来た日本人であれば、もし会話等からボロが出てロイドも元日本人だとバレる可能性もゼロではない。
 
 そうなればロイドも晴れて勇者扱いとなる可能性は高い。勘弁して欲しい。

 さらには魔術の事も伏せておきたい。
 現代では失われた古代技術、魔術。それを専門に調べている研究者も多く、もしそれをロイドが使えると知られれ最悪拘束される可能性すらある。
 また、悪人に利用しようとして目をつけられる可能性も高い。面倒が多すぎるのだ。

 おまけに『国崩し』に繋がれば余計な騒ぎを生む。
 今は遺跡を探索するのが優先なのに、騒がれて支障が出るのは困る。

 そんな中で勇者と戦う。魔術も使う事になるだろう。
 回避しないとまずい、とロイドは上手く避ける方法を考えようと頭を回転させる。

「いいわよ」
「ええぇぇぇえええ?!」

 が、エミリーがさらっと頷く。ロイドはがばっと振り向いて叫ぶが、エミリーは気にした様子もない。

「は?え、ちょっ、まっ!」
「よし。明日放課後、場所は校庭だ!」
「はいはい、分かったわ」
「逃げるなよ!」

 止めようとするロイドを置き去りに、話はすんなり進む。
 そしてそのままロイドが割り込む前にコウは捨て台詞を残して屋上を去っていった。

「…………」
「何よ、変な顔して」
「いや誰のせいだ?!」

 覗き込むように見てくるエミリーに、ロイドは渾身の声量で叫ぶのであった。

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