魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

32 好意と鈍感と観察

 そしてレオンとの手合わせの翌日。
 講義が終わったロイド達は、再び屋上へと集まっていた。
 クレアが屋上にはまったらしく、屋上に集合したいと言ったからである。

「いやー、久々にレオンさんの魔力に触れたけど、相変わらずバケモンだなありゃあ」
「だなー。いつになったら勝てるやら」
「いやありゃ勝てんだろ」

 先に集まっていたロイドとグランはレオンの話で盛り上がっていた。
 それを聞いていた女性陣もグランの言葉に賛同するようにうんうんと頷く。

「勝とうと思う方が間違ってるわよ、あんなの」
「あはは…ちょっと人の域を出すぎてるよねぇ」
「良い人なんですけどね」

 最後のクレアの発言に首を傾げるロイド。
 え、あれが?暴君じゃん。と顔に書いてあるロイドに、クレアは言葉を重ねる。

「今回もそうですよ、先輩。先輩が鈍ってないかもそうでしょうけど、きっとガス抜きに付き合ってくれたんじゃないですか?」
「あぁ?いや単にイジメに来たんだろーよあれは」
「素直じゃないですねぇ」

 クレアは仕方ない子供を見るような視線をロイドに送る。 ロイドは拒否しているが、この学園に来てほとんど全力はおろか体を動かさないロイドは気怠げな表情がより濃いものになっていた。

 が、今日はそれに比べて明らかにさっぱりした表情をしているロイド。
 そんな表情を見れば誰であろうとクレアに賛同するであろう。

「まぁそんな事はいーんだよ。それよか遺跡の手掛かりが見つからん方が問題だわ」
「誤魔化したわね……まぁでもそうよね、一通り学園の施設は見て回ったはずなのに」

 そう、カインとティアから手に入れた権利によりロイド達は手分けして学園の施設を見て回っていた。
 が、ただただ普通の学園としての施設しかなく、遺跡に繋がる手掛かりは未だ見つかっていない。

「あれだろ?そもそも学園付近も可能性はあんだろ?学園にゃないんじゃねぇか?」
「うーん、そうかも。でも、それこそ難しい気もするよ…」

 グランの言葉にラピスは頭を抱える。
 学園の周りが草原や森などであれば可能性もあるし探索のしようもあるが、実際にあるのは民家や商業施設など、普通の街である。
 まさか民家に一軒一軒訪問して家を探索する訳にもいかず、もしその場合であればかなり厳しい事になる。

「ですが、その線は薄いとは思うんですよね……魔力が薄いですし」

 しかし、それをクレアがやんわり否定する。
 
 クレアはエルフという魔法に適正の高い種族。
 その彼女の魔力感知は人族と比べて範囲も精度も高いと言える。
 
 彼女によると、学園内は魔力が潤沢なのに対して、その周囲は普通の土地と変わらない程度の魔力しか感じられないという。

「もちろん魔法学園という事もあるんでしょうけど、それでも魔力が濃い気がするんですよね」
「そっか。ならまぁ学園のどっかにあるか、もしくは入口があるんだろーな」

 クレアの言葉にロイドが頷く。
 とは言え一通り見て回って手掛かりがないとなると、正直行き詰まった状況ではある。

「うーん…じゃあ、もう一度見て回らない?結構急ぎめに見て回ったと思うし、今度はじっくりと何人かで。どうかな?」
「……そうね、それしかないわね」
「あとさ、先輩や先生達にもいろいろ聞いてみよ?手分けしてまた情報をここで共有すればいいと思うな」
「…だな。焦りすぎたか」

 案もなく言葉が出ない沈黙の中、ラピスがこてんと首を倒しながら言う。
 それにエミリーとロイドが頷く。
 
 学園はかなりの広さを誇る。
 それをこの期間で見て回るのに、ロイド達は全員が別々に、そして何の事前情報もなくただ見て回っていた。
 
 しかし、情報を集めつつ複数人でちゃんと見て回ろうとラピスは提案したのである。

「よっしゃ!そうと決まれば明日から早速やってみるか!」
「おう。まぁそうなると、班分けをどーするかだなー」

 意気込むグランに頷きつつ、ロイドは思案するような顎に手を当てながら呟く。
 その呟きに2人がピクリと反応した。

「まぁその都度決め…」
「そうね。得手不得手もあるから、班分けは重要だわ」
「そうですね。でしたら魔力感知の優れたエミリーさんと、コミュニケーション能力の高いラピスが組んだらどうでしょうか」

 ロイドの言葉を遮るように話し出すエミリーとクレア。
 その勢いにロイドは言いかけた言葉をもう一度口に出せずに呆然と口を開いたままになってしまう。

「あの…」
「それを言うならクレアじゃないかしら?私はロイドが心配だからロイドと組もうかしらね。姉として」
「エミリーさんは先輩と分かれてリーダーとして立ってもらいたいところですけど」

 ロイドの言葉を聞く気もない3人。
 ロイドは行き場のなくなった言葉をぶつける相手を探すようにグランへと目を向ける。

「……大変だな、お前」
「……何の心配かは知らんけど、無視されたのが辛いわ」

 肩をすくめるグランに肩を落とすロイド。
 そんなロイドを見てからグランは女性陣に目を向ける。

(んー、クレアは帝国に居た頃からロイドの事が好きって感じだったもんな。エミリーは自覚なしって感じか?……ラピスは好意云々より単に仲良しというか、なんというか…)

 グランは女性陣のロイドに対する感情を予想する。

 普段は勢い任せな発言や態度で思考が足りないという印象を持たれがちなグランだが、実はこのメンバーにおいて唯一現場で責任者としての活動経験がある。
 革命軍時代は幹部として部下を預かり、そして今は帝国の上官の1人だ。

 さらにはシエルやギラン、キースといった優秀な者と一緒に動いていた事で背中を見たり、指導をもらったりしている。
 それを現場で行い、再び指導をもらったり、自分なりに試行錯誤していったりしてグランは指揮官、責任者として成長していた。

 その中には相手の性格や考えてる事などを読む力も含まれる。
 同じ内容でも人に合わせた言葉を選んで伝える事で、聞き手の受け取り方やモチベーションの上がり方は変わるからだ。
 
 ちなみにロイドは言わずもがな戦ってばかりいた。
 ラピスは時折冒険者として『お嬢』と呼ばれて戦う事はあれど、あくまで指揮官であり、指導を含めた責任者としての経験ではない。
 エミリーは教育は受けてもそれを実践する機会は未だなく、クレアは姫という立場はあれどあくまで象徴のようなものであった。

「まぁ、ロイドがそんな気が今んとこないしな…」
「ん?何か言った?」
「いやなんでも」

 ポツリと呟くグランにロイドが反応するがさらりと流す。
 
 ロイドはそういった意味での好意に鈍いと思っていた。
 が、グランは鈍いのではなく頭にその考え自体が無いのではないかと思い始めていた。

 『恥さらし』と呼ばれ続けた彼は、それを克服し、世話になったウィンディアに恩を返す為に強くなる事。
 それしか今は頭にないだけなのではないか。
 
 前提となる思考がなければその考えに至るはずもない。
 だから結果として鈍く見えていただけではないか。

(ま、それにしても鈍い方だとは思うけどな)

 とは言え限度がある。
 とグランは内心で苦笑いしながら再びロイドに目線を向ける。
 
 落ち込んだのか投げやりになったのか、座り込んで呆けているロイド。

「……ま、なんかありゃあ俺に相談しろよ。役に立てるかは知らんけどな」
「ん?おぉ、いつも頼りにしてるけどな」

 よく分からないといった風に返すロイドにグランはふっと笑う。
 頼りにしてる、か。そう誰にも聞こえない声で呟いて。
 
 そこに、屋上の扉が勢い良く開いた。

「ロイド・ウィンディア!話がある」
「……早速頼っていいか、グラン?」
「……言ったろ、役に立てるかは知らんって」

 そこに現れたのは、勇者――コウ・スメラギであった。

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