魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
25 コウ・スメラギ
ティアと生徒会室で話した数日後。
ロイド達はティアとかぶる講義である実践戦闘の講義へと訪れていた。
もっとも、すでに許可証を手に入れたロイド達からすれば、ティアとの接触を図ろうと選んだこの講義の第一目的は達成されているのだが。
それでも全ての講義の中で最も実践に近い講義であり、魔法や武器を交えた戦闘訓練はこの講義だけである。
その為、どちらにせよ受けていた可能性は高い。
そして、そう考えているのはロイド達だけではないようで、最も受講人数の多い講義でもあった。
「うわ、人多いなー」
「ホントだねぇ。一斉に戦うのかなぁ?」
「いやそれ時刻絵図みたくなるわ」
ロイド達の周りにも人は多く居た。
講義開始の鐘が鳴るまでざわざわと騒いでいたのだが、その鐘の音と同時に教師の声が響き渡る。
「よーし始めるぞ!今日は新入生にとって初めての実践戦闘になると思うから、まずは簡単な説明からだ!」
前に立って話すのはロイドとエミリーが入学試験で相手をした教師だ。
「まず、ここは適当にコンビなりチームなりを組んで一対一、複数対複数の戦闘をする時間だ。とは言え治癒魔法の使い手が常に複数控えているから多少の怪我は大丈夫だが、基本的にはフォーメーションや体の動きを確認するといった感覚にしておけ」
そう話す教師の横には数人の教師が控えていた。
恐らく彼らが治癒魔法の使い手だろうと予想するロイド。
「そして、本格的な戦いのイメージを掴む相手は基本的に俺相手にしておけ。生徒同士で大怪我をすればこの講義には参加させれないからな。そこは注意しておけ」
思ったより暴れられないんだな、と思うロイド。
どうやら似たことを思っている生徒も多いようで、どこか不満そうな表情な生徒も居た。
その気持ちを気付いてか予想してか、教師は言葉を続ける。
「だが、この講義ではギルドと提携している。だから俺に申請して許可がおりれば、校外で討伐といった形で戦闘は可能だ。もちろん付き添いはつくけどな」
なるほど、とエミリーが頷く。
ここの講義の時間は言ってしまえば実践戦闘の練習、そして作戦会議やフォーメーションの練習、確認などの時間なのだろう。
言ってしまえばギルドなどにある訓練場、そこに指導者が居る。という形なのだと同じくロイドも判断した。
「で、だ。この実践戦闘の講義スペース……まぁ通称訓練所な。ここには魔法具が使われてて、地面に線みたいなのがあるだろ?」
そう言われて足元を見る生徒達。
ロイドも先日ちらっとは見たが、やはりなんとなく見てしまう。
「その線の中で訓練するんだが、魔法具を起動させればその線を境に『風壁』が発動される。よほどの攻撃でなけりゃ突き抜ける事はないから、安心して魔法を使っていいぞ」
「うちの領と同じみたいね」
「だなー」
エミリーとロイドが小声で頷き合う。
確かに訓練をしていて、隣のスペースからの流れ弾を気にしていては訓練になったものではない。
それを避けつつ、外から様子を伺うのに視界的に制限がない風魔法を使ったのだろう。
「つーワケで、とりあえずは見本がてらやってみるか。とりあえず俺と、あとは誰かだなー…」
そう言ってあたりを見回す教師。ぼけーとそれを眺めていたロイドだが、その教師と目が合う。
そして、その教師がロイドを見てニヤリと笑う。
ロイドが嫌な予感を覚えたその時。
「では僕がやりましょう!」
挙手しながら前へと進む男子生徒が開きかけた教師の口を遮る。
教師とロイドは反対の表情を浮かべながらそちらに目を向けた。ちなみに、もちろんロイドは嬉しそうな表情である。
「あー、お前は?」
「はい、コウ・スメラギです」
そう言って教師の所まで足を進めた男子生徒――コウ。
整った容姿に自信や誠実さといった雰囲気もある。
だが、それよりもロイドの目を惹いたのは昔見慣れた黒髪黒眼という点だった。
「お、おいクレア…!」
「はい…あれ、日本人ですよね…?!」
小声でクレアと話し合うロイド。
見た目だけではなく名前からしても、どう考えても日本人にしか見えない。
そんな2人にエミリーとラピスは首を傾げているが、それさえ気付かないほど驚愕していた。
が、すぐにロイドはある事を思い出す。
「あっ、ゆ、勇者……?!」
「え、先輩?今なんて…?」
「まぁいい、んじゃスメラギ。手伝ってくれ」
ロイドの呟きに聞き返すクレアだが、それより先に実際に訓練が始まっていた。
教師とコウは線をひかれたスペースに入ると、教師が四隅にある魔法陣に魔力を流している。
そして魔法陣が起動すると、そのスペースの周りの景色が微かにブレたように見えた。
「へぇ、領では壁も置いてるから分からなかったけど、あんまり見えないのね」
「だ、だな」
ロイドはエミリーの感想に相槌を打つも、勇者の存在が気になって仕方ない。
まさか講義がかぶるとは、とロイドは内心頭を抱える。
そしてティアからのアドバイスをクレア達に共有し忘れていた事もついでに頭を抱える。
「あら、あのコウってやつ、結構やるじゃない」
「んー?」
エミリーの呟きにロイドはコウにしっかりと目線を向ける。
確かに動きは良かった。
剣を主体に体術も使い、魔法も時折混ぜている。
どうやら火が得意のようで、火魔法ばかり使っているが、それも十分な威力を持っていそうだ。
だが、
「とは言え、なんか小綺麗な戦い方ね」
「そーだな」
そう。間合いの取り方、攻め方などが一定過ぎるのだ。
まるで参考書を読んでそのまま動いてみたかのような動きにさえ見える。
勿論人それぞれ癖などがあり、どうしても一定的な動きにはなるが、それにしてもコウの動きは素直すぎた。
「……まるで、剣道みたいですね」
「………」
クレアの呟きにロイドは口には出さず頷く事で返事をしていた。
そして、もうこれ完全に勇者確定だわと盛大に溜息をつく。
「あー……」
「ん?」
「……いや、後で言うわ」
今からでもティアからの忠告を伝えるべきか、と一瞬迷ったものの、一般生徒達の耳に入っても良いのか判断出来なかった為辞めておいた。
変なロイド、とエミリーは深く追求して来なかったのはありがたかった。
そんな事を考えている内に教師がコウにストップをかけ、魔法陣から魔力を抜いていく。
すると風で若干程度にブレていた景色が戻り、そこから2人が出てきた。
「まぁこんな感じだ。今日はとりあえず適当な奴と組んで訓練スペースを使ってみろ。あんまり怪我しない程度にやってみな。……もしスペースが足りなければ俺のとこに来るように。んじゃ始め!」
教師の掛け声に一斉に動き出す生徒達。
ロイド達は思い切り出遅れ、あっという間にスペースは埋まってしまった。
「あーあ、あんたがのんびりしてるからよ」
「え、俺のせいかこれ?」
「当然じゃない。ぼーっとして」
「うーん、ロイドくん大丈夫?もしかして体調悪い?」
「あ、いや、大丈夫大丈夫」
頬を膨らませるエミリーと心配そうに見てくるラピスに笑って誤魔化しつつ、ロイドは口を開く。
「んで、どーすんのこれ?」
「えっと、先生のとこに行けばいいみたいだよ?」
「んじゃそーしよかね」
ラピスの言葉にロイドは頷いて教師の方へと歩いていく。
それに気付いた教師がロイドへと話しかけててきた。
「お、ロイド。お前とやろうと思ったのにな」
「勘弁してくださいよ先生。文字通り恥さらすとこでしたよ」
「自虐慣れしてるな…てかよく言うよ。……あ、そーいやさっき俺自己紹介してなくないか?」
「……ですね」
教師は顔を片手で覆って天を仰ぐ。
手の隙間からやらかした…と小声で聞こえるのが地味に笑いを誘った。
「まぁいいか。講義の終わりの号令でしよ。あ、俺ガイアスな、よろしく」
「あー、よろしくお願いします」
自由な先生だな、とロイドは内心呆れ半分くらいに頭を下げていると、横の方からガチャンと音がした。
その音に思わず振り向くと、そこには剣を落とした黒髪の男が立っていた。
「……うげ」
小声で呻くロイドの視線の先には、こちらを見て何故か固まるコウの姿があった。
ロイド達はティアとかぶる講義である実践戦闘の講義へと訪れていた。
もっとも、すでに許可証を手に入れたロイド達からすれば、ティアとの接触を図ろうと選んだこの講義の第一目的は達成されているのだが。
それでも全ての講義の中で最も実践に近い講義であり、魔法や武器を交えた戦闘訓練はこの講義だけである。
その為、どちらにせよ受けていた可能性は高い。
そして、そう考えているのはロイド達だけではないようで、最も受講人数の多い講義でもあった。
「うわ、人多いなー」
「ホントだねぇ。一斉に戦うのかなぁ?」
「いやそれ時刻絵図みたくなるわ」
ロイド達の周りにも人は多く居た。
講義開始の鐘が鳴るまでざわざわと騒いでいたのだが、その鐘の音と同時に教師の声が響き渡る。
「よーし始めるぞ!今日は新入生にとって初めての実践戦闘になると思うから、まずは簡単な説明からだ!」
前に立って話すのはロイドとエミリーが入学試験で相手をした教師だ。
「まず、ここは適当にコンビなりチームなりを組んで一対一、複数対複数の戦闘をする時間だ。とは言え治癒魔法の使い手が常に複数控えているから多少の怪我は大丈夫だが、基本的にはフォーメーションや体の動きを確認するといった感覚にしておけ」
そう話す教師の横には数人の教師が控えていた。
恐らく彼らが治癒魔法の使い手だろうと予想するロイド。
「そして、本格的な戦いのイメージを掴む相手は基本的に俺相手にしておけ。生徒同士で大怪我をすればこの講義には参加させれないからな。そこは注意しておけ」
思ったより暴れられないんだな、と思うロイド。
どうやら似たことを思っている生徒も多いようで、どこか不満そうな表情な生徒も居た。
その気持ちを気付いてか予想してか、教師は言葉を続ける。
「だが、この講義ではギルドと提携している。だから俺に申請して許可がおりれば、校外で討伐といった形で戦闘は可能だ。もちろん付き添いはつくけどな」
なるほど、とエミリーが頷く。
ここの講義の時間は言ってしまえば実践戦闘の練習、そして作戦会議やフォーメーションの練習、確認などの時間なのだろう。
言ってしまえばギルドなどにある訓練場、そこに指導者が居る。という形なのだと同じくロイドも判断した。
「で、だ。この実践戦闘の講義スペース……まぁ通称訓練所な。ここには魔法具が使われてて、地面に線みたいなのがあるだろ?」
そう言われて足元を見る生徒達。
ロイドも先日ちらっとは見たが、やはりなんとなく見てしまう。
「その線の中で訓練するんだが、魔法具を起動させればその線を境に『風壁』が発動される。よほどの攻撃でなけりゃ突き抜ける事はないから、安心して魔法を使っていいぞ」
「うちの領と同じみたいね」
「だなー」
エミリーとロイドが小声で頷き合う。
確かに訓練をしていて、隣のスペースからの流れ弾を気にしていては訓練になったものではない。
それを避けつつ、外から様子を伺うのに視界的に制限がない風魔法を使ったのだろう。
「つーワケで、とりあえずは見本がてらやってみるか。とりあえず俺と、あとは誰かだなー…」
そう言ってあたりを見回す教師。ぼけーとそれを眺めていたロイドだが、その教師と目が合う。
そして、その教師がロイドを見てニヤリと笑う。
ロイドが嫌な予感を覚えたその時。
「では僕がやりましょう!」
挙手しながら前へと進む男子生徒が開きかけた教師の口を遮る。
教師とロイドは反対の表情を浮かべながらそちらに目を向けた。ちなみに、もちろんロイドは嬉しそうな表情である。
「あー、お前は?」
「はい、コウ・スメラギです」
そう言って教師の所まで足を進めた男子生徒――コウ。
整った容姿に自信や誠実さといった雰囲気もある。
だが、それよりもロイドの目を惹いたのは昔見慣れた黒髪黒眼という点だった。
「お、おいクレア…!」
「はい…あれ、日本人ですよね…?!」
小声でクレアと話し合うロイド。
見た目だけではなく名前からしても、どう考えても日本人にしか見えない。
そんな2人にエミリーとラピスは首を傾げているが、それさえ気付かないほど驚愕していた。
が、すぐにロイドはある事を思い出す。
「あっ、ゆ、勇者……?!」
「え、先輩?今なんて…?」
「まぁいい、んじゃスメラギ。手伝ってくれ」
ロイドの呟きに聞き返すクレアだが、それより先に実際に訓練が始まっていた。
教師とコウは線をひかれたスペースに入ると、教師が四隅にある魔法陣に魔力を流している。
そして魔法陣が起動すると、そのスペースの周りの景色が微かにブレたように見えた。
「へぇ、領では壁も置いてるから分からなかったけど、あんまり見えないのね」
「だ、だな」
ロイドはエミリーの感想に相槌を打つも、勇者の存在が気になって仕方ない。
まさか講義がかぶるとは、とロイドは内心頭を抱える。
そしてティアからのアドバイスをクレア達に共有し忘れていた事もついでに頭を抱える。
「あら、あのコウってやつ、結構やるじゃない」
「んー?」
エミリーの呟きにロイドはコウにしっかりと目線を向ける。
確かに動きは良かった。
剣を主体に体術も使い、魔法も時折混ぜている。
どうやら火が得意のようで、火魔法ばかり使っているが、それも十分な威力を持っていそうだ。
だが、
「とは言え、なんか小綺麗な戦い方ね」
「そーだな」
そう。間合いの取り方、攻め方などが一定過ぎるのだ。
まるで参考書を読んでそのまま動いてみたかのような動きにさえ見える。
勿論人それぞれ癖などがあり、どうしても一定的な動きにはなるが、それにしてもコウの動きは素直すぎた。
「……まるで、剣道みたいですね」
「………」
クレアの呟きにロイドは口には出さず頷く事で返事をしていた。
そして、もうこれ完全に勇者確定だわと盛大に溜息をつく。
「あー……」
「ん?」
「……いや、後で言うわ」
今からでもティアからの忠告を伝えるべきか、と一瞬迷ったものの、一般生徒達の耳に入っても良いのか判断出来なかった為辞めておいた。
変なロイド、とエミリーは深く追求して来なかったのはありがたかった。
そんな事を考えている内に教師がコウにストップをかけ、魔法陣から魔力を抜いていく。
すると風で若干程度にブレていた景色が戻り、そこから2人が出てきた。
「まぁこんな感じだ。今日はとりあえず適当な奴と組んで訓練スペースを使ってみろ。あんまり怪我しない程度にやってみな。……もしスペースが足りなければ俺のとこに来るように。んじゃ始め!」
教師の掛け声に一斉に動き出す生徒達。
ロイド達は思い切り出遅れ、あっという間にスペースは埋まってしまった。
「あーあ、あんたがのんびりしてるからよ」
「え、俺のせいかこれ?」
「当然じゃない。ぼーっとして」
「うーん、ロイドくん大丈夫?もしかして体調悪い?」
「あ、いや、大丈夫大丈夫」
頬を膨らませるエミリーと心配そうに見てくるラピスに笑って誤魔化しつつ、ロイドは口を開く。
「んで、どーすんのこれ?」
「えっと、先生のとこに行けばいいみたいだよ?」
「んじゃそーしよかね」
ラピスの言葉にロイドは頷いて教師の方へと歩いていく。
それに気付いた教師がロイドへと話しかけててきた。
「お、ロイド。お前とやろうと思ったのにな」
「勘弁してくださいよ先生。文字通り恥さらすとこでしたよ」
「自虐慣れしてるな…てかよく言うよ。……あ、そーいやさっき俺自己紹介してなくないか?」
「……ですね」
教師は顔を片手で覆って天を仰ぐ。
手の隙間からやらかした…と小声で聞こえるのが地味に笑いを誘った。
「まぁいいか。講義の終わりの号令でしよ。あ、俺ガイアスな、よろしく」
「あー、よろしくお願いします」
自由な先生だな、とロイドは内心呆れ半分くらいに頭を下げていると、横の方からガチャンと音がした。
その音に思わず振り向くと、そこには剣を落とした黒髪の男が立っていた。
「……うげ」
小声で呻くロイドの視線の先には、こちらを見て何故か固まるコウの姿があった。
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