魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
24 雅な生徒会長
ロイド達は受ける講義の提出も済ませて、いよいよ今日から講義を受ける事になった。
「ロイド君、でいいかな?」
「えぇ、お好きなように。アイフリード生徒会長」
にも関わらず、ロイドは生徒会室でティアと2人で向かい合っていた。
「ティアで構わない。アイフリードだと妹と被るからね」
「承知しました。妹さんいらっしゃったんですね」
「あぁ。私に似ず可愛い子だよ」
ティアはソファに腰掛けて紅茶を一口。ただそれだけの動きにも気品を感じさせる彼女に、ロイドは感嘆の気持ちで見つつ倣うように紅茶を飲む。
「はぁ。では、えっと、ティア…さん?でいいですかね?」
「あぁ、それで頼むよ」
「ではティアさん。…それで、一体どのようなご用件で?」
そう、今回の話はロイドからではなくティアからのもので、講義前に時間が欲しいと呼び出されたのである。
ロイドの問いにティアは紅茶を戻してから口を開く。
「グリフォンの件だよ」
「……まぁ、そうですよね」
もっとも、呼び出される心当たりはそれしかなかった。
あとは、それをどういう形の話をに持っていかれるか、だ。
「そう固くならないで欲しい」
「はぁ」
そう言って笑うティアに、ロイドは紅茶を口に運びつつ相槌を打つ。
「まず、謝罪に近いかな?君の正体はカイン皇太子から聞いた」
「………」
ロイドはいきなりの内容に紅茶を飲みつつ目を細めた。
その様子をしっかりと受け止めて目を逸らさずにいるティアに、ロイドは紅茶を置きつつ口を開く。
「……それが今日呼ばれた理由でしょうか?」
「あぁいや、そうではない」
ティアは首を横に振って見せる。
「カイン皇太子と相談した結果、君とその友人をこの学園でどこにでも入れるようにしようと言う話になったんだ」
「え、そーなんすか?」
予想もしなかった返しに、ロイドは思わず素の口調が出てしまう。が、それを咎めるでもなくティアは微笑む。
「ふふ、あぁ、そうなんだ。殿下に勝ったのだろう?その報酬として、私の所にいらしてね……生徒会長としての権限と、王族としての権限があれば入れない場所は無いからね」
「なるほど、カインがね…」
ロイドは聞こえないほどの小声で納得したように呟く。
ちなみに、ロイドは完璧な土下座をしたカインへの無礼な言動についてだが、むしろ謝った事に怒られた。
今更なんだ気持ち悪い、別に今まで通りでいい、むしろそうしろ、とカインに言われ、え、マジで?いや助かるわーと返したロイド。
エミリーからは思い切り叩かれたものの、カインは満足そうに笑っていたのでまぁいいかと言動は変えない事になったのだ。
「ふふ、人前では極力敬称をつける事を勧めるよ。無用な騒ぎは起こしたくないだろう?」
「あ、すみません」
小声で言ったつもりが聞こえていたようだ。意外と地獄耳だな、と思いつつ謝罪するロイド。
「いや私の前では構わないよ。私も殿下とは付き合いも長いから多少はそういった融通もきくしね」
「あ、そうなんですね」
「あぁ。むしろ私にもそこまでの敬語は要らないよ。私だって『国崩し』に敬語を使われていると思うと恐れ多いよ」
「何を仰いますやら。勘弁して下さいよ」
笑顔で言うティアにロイドは両手を上げて降参の態度を示すが、ティアは少し不満そうに言う。
「冗談だと思ってるのかい?言っとておくが本当だよ。というより妥当だ。タメ口で話してくれた方がむしろ私としては気が楽だし、嫌だと言うならせめてその猫を被りまくったような話し方は辞めて欲しいな」
「……あー、ならまぁそーさせてもらいます。正直楽ですし」
「ふふっ、ありがとう」
笑い方まで優雅なティアにロイドはいっそ笑えてきた。
なんでこんな無駄に雅なんだこの人、と内心で突っ込む。
「っと、話が逸れたね。これを渡しておくよ」
「ども。えっと、何ですかねこれ?」
手渡されたカードのような物を見つつ、ロイドは問う。
「それは許可証みたいなものだよ。私と殿下のサインがしてあるから、それを見せればこの学園で入れない場所はない」
「おぉ、ありがとうございます。すごい助かります」
ロイドは頬を綻ばせてカードを見ていると、ティアは嬉しそうに笑う。
「ロイド君が喜んでくれたなら良かったよ」
「いや本当に嬉しいですわ。……って5枚?」
「あぁ、君と仲が良い子が4人程居たと思ってね。必要だろう?」
紅茶を飲み干して微笑むティアに、ロイドは素直に驚く。
そこまで気を回してもらえるとはさすがに思っていなかったのだ。ロイドは深く頭を下げる。
「……ティアさん、本当にありがとうございます」
「ふふ、どういたしてまして。さて、そろそろ講義の時間だろう?」
「あ、はい。んじゃこれで。いつかお礼でもさせてくださいね」
ロイドは席を立って会釈すると、ふと思い出したようにティアが口を開く。
「あ、一応伝えておくけど」
「え?何でしょ?」
「あぁ、この学園に昨日から勇者が通う事になったんだ」
扉に手をかけて振り返るロイドは、ティアの予想外過ぎる言葉にその体勢のまま固まる。
「……え?すみません、聞き間違えたかもです」
「ん?いや、勇者が通う事になったんだ。名前はコウ・スメラギといったかな」
聞き返すロイドに、ティアは先程と同じ言葉に少し言葉を足して返す。
さすがに二度も聞けばロイドも飲み込まざるを得ない。ましてや目の前に居るティアという女性は下らない冗談を言うタイプには見えない。
「あの、勇者って存在するもんなんですね…」
「ん?君は知らないのか?勇者はこの王国では有名だよ?」
前世の御伽噺やゲームならともかく、まさか異世界でもそんなワードが出るとは思わなかったロイドは目を丸くする。
しかも、エイルリア王国では馴染みがあると言うではないか。
「例えば、初代国王はもともと勇者としてご活躍された人物だ。他にも歴史の中で数人の勇者が生まれ、どのお方も素晴らしい功績を残されている」
「はぁ……その、勇者ってどーゆー基準なんです?」
「ん?んー、細かい理由は私にも分からないが…この世界ではない人である事が条件と聞いた事があるな」
まぁ眉唾物だがな、と無駄に雅に笑う彼女に、しかしロイドは引きつった笑顔を返すのが精一杯だ。
「っと、話はそこじゃないんだ。この勇者っていうのがまだあくまで『候補』でね。どうやら少なからず素行に難があるらしいんだ」
少し困ったように眉をひそめるティアに、ロイドは返事すら出来ない。
「これは私が言った事は伏せてくれたら助かるんだが……あまり深く関わらない事を勧めるよ。正直、良い予感はしない」
ならなんでこの学園に入れたんだ、と内心でぼやくロイドは、しかしさすがに口をにはせずに頷いた。
そして挨拶をして退室し、講義の行われる場所へと向かいながら溜息をつく。
異世界から来る事が条件――え、俺とクレア、バレたらめんどくさいやつ?
そんな事を考えながら。
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