魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

18 試験に受かって勝負に負ける

 魔術師。
 古代技術とされる魔術を扱う者。

 この時代においても研究はされているものの、一向に解明が進まない技術である。
 
 だがわかっている事は、魔法よりも圧倒的に優れた技術であるという事だ。
 研究者達からすれば現存の魔術師など喉から手が出る程に欲しい存在である。

 だがカインからすればそれより重要な点がある。
 
 およそ二年前頃だ。度々この国エイルリア王国に攻めてくる隣国ディンバー帝国、その国にて革命軍が蜂起して革命に成功。
 皇帝を討ち取り、その息子であり穏健派だったブロズ第二王子を皇帝に据え、エイルリア王国とも和解を表明した。

 その革命において尽力したとされる2人の人物が居たという話がエイルリア王国の一部に噂として流れてきていた。
 もっともその情報はエイルリア王国の盾とされ最前線に位置するウィンディア領で制限されたのか、あまり的確な情報ではなかった。

 しかし、カインは立場上情報は入ってきやすい。
 それにより、その2人の戦力について噂にはないいくつかの情報を持っていた。

「お前、もしかしてーー『国斬り』なのか?」
「っ!」
「やっぱか…」

 予想外の言葉にロイドは目を瞠った。
 それを図星と捉えたカインが納得したように呟く。

 銀の光で国を斬ったとされる『国斬り』。
 ロイドは短剣を持っている。その為、魔術師であり剣士であるとされる彼の者ではないかと考えたカイン。

「いーや違う。それはマジで違う。やめろ」

 だが、ロイドは首を横に振る。
 カインは往生際の悪い、とロイドに言おうとする。が、

「やめろ、ふざけんな!勘弁してくれ!それだけは訂正しろ!!」
「えっと、うん…俺が悪かった。違う、んだな」

 そのあまりの形相に圧され、カインは思わず頷いてしまう。
 『森の番人』グリフォンと戦っている時ですらどこか気怠気な表情を浮かべていたロイドが、据わった目に血管が浮き出る程力を込め、体を震わせながら言うのだ。

 どんだけ嫌なんだ、とカインはいっそ苦笑いを浮かべてしまう。
 それに、カインは別に正体を突き止めたい訳ではないのだ。

「それよか、俺と手合わせしねぇか?」

 そう、戦ってくれさえすればいい。

「はぁ?なんで俺が…恥さらし相手に何言ってんだ?」
「お前が『恥さらし』なんて奴じゃねぇのは今更だろう?いいからやろうぜ」
「嫌だよめんどくせー」

 ロイドは心底嫌そうな表情で言うが、カインは好戦的な表情を崩さない。

「いいじゃねぇか、俺に勝てばここでの事は黙っててやるぜ?理由は知らねぇがあんまり広まって欲しくないんだろ?」
「別にいーよ、誰も信じねーだろーし」
「はぁ、もしかしてとは思ったけど、俺の事知らねぇのな……まぁそれはいいか。それより良いのか?やらねぇならある事ない事言うかも知れんぞ?国斬りさんよ?」
「オーケー潰す」

 ニヤついて挑発するカインにロイドは即座に乗った。

「いいねぇ!とは言えここじゃ邪魔が入りかねん。また時間と場所は言うから、とりあえずはまたにしようや」
「あ?邪魔が入る前に終わらせてやるわこのボケナス」
「はっは!おもしろいなお前!まぁいいから言う事聞けって。ほら、もう邪魔が来たぞ?」

 カインが指刺す方にロイドも目を向けると、茂みから音がしていた。
 そしてそこから出てきたのはゴブリン。群れなのか、10匹ほど居た。

「あんなもん邪魔にもなんねーわい」
「そうじゃなくて、あれの角持って帰らねぇとダメだろうが。試験合格しねぇつもりか?」
「は?……あ」

 カインの言葉で頭に血が上っていたロイドは冷静になった。
 そう言えば今は四等級試験の最中で、ゴブリンの角を持ち帰らなければないらないのだ。
 そして、姉であるエミリーとの勝負の途中でありーー

「やっべぇ!早く言えよなお前!」
「知るか。あと俺はカインだっつってんだろ」
「はいはいカインカイン!お前に構ってやってる暇はねーんだったわ!また連絡くれ!じゃーな!」
「雑に呼ぶな」

 慌てて走り出すロイドにカインは呆れたように肩をすくめて相槌を打つ。
 そんなカインに構わずロイドは風と身体魔術を発動して即座にゴブリンを3匹倒して角を確保。そのまま猛ダッシュで駆け抜けていった。

「意外と騒がしいやつだな…まぁいいか」

 残った7匹ほどのゴブリンが呆然とロイドを見送っている。
 それらにカインは火魔法を放ち、あっさりと討伐。角を確保していく。

 そしてそれらを持っていた小さい袋に入れてロイドが去っていった方へと歩き出す。
 その表情は、新しいオモチャを見つけた子供のような笑顔であった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あら、遅かったわねロイド」
「………」

 それからしばし、ロイドが学園へと戻って校庭の教師に報告を済ませて部屋に戻ると、エミリーが料理を用意して椅子で寛いでいた。
 まさに試験前に言い争っていた負け方をしたロイドは言葉なく蹲る。

「まぁそんな苦戦しちゃったロイドに料理を用意しているわ。ほら食べなさい?」

 エミリーは勝ち誇った表情でロイドに食事を促す。
 ゆっくりと顔を起こしたロイドの視界には、シルビアに鍛えられたのか実に美味そうな料理が広がっていた。

「ぐっ…!……はぁ……頂きます…」

 負けは負けだ。かなり悔しいながらもロイドはそれを飲み込み、椅子に座って手を合わせる。
 ドヤ顔なエミリーにジト目をしつつ、料理を口にする。

「……美味しい…」
「ふふっ、ありがとう」

 勝負にも料理にも負けた気分のロイド。エミリーは笑みを深めて勝ち誇るかのように年齢に対しては豊満な胸をはる。
 ロイドはふとこの学園で生徒達がエミリーに群がる様子を思い出す。そして、その目的が政略結婚になる前に自由恋愛をする事、ひいてはそれが益に繋がるものにする為という事も。

「…そりゃ男が黙ってないわな」

 血が繋がっていないとはいえ弟のロイドから見てもエミリーは魅力的な女性と言えるだろう。容姿、実力に加え、ここ数年で振る舞いや知識もついている。
 そしてこの料理。貴族であれば使用人に作らせるのかも知れないが、こんな女性から美味しい手料理を振る舞われて喜ばない男などいないだろう。

「っな、何よ急に…!」

 なぜか狼狽した様子の姉に、ロイドはもう一口頬張って味わい、飲み込んでから言葉を続ける。

「いや、良い奥さんになるだろーなって」

 美味しい料理を食べて負けた事で下がったテンションが少し上向きになったロイドは、素直に賛辞の言葉を口にする。
 次は負けん。と思いつつ今は料理を楽しもうと割り切ったロイドは、ここでやったエミリーに顔を向けた。

「……どした?」
「………」

 が、さぞかし素敵なドヤ顔を向けているだろうと思っていたロイドは、顔を赤くしてこちらを睨みつけるエミリーに首を傾げる。

「……えっと、姉さん?食わんの?」
「た、食べるわよ!」

 とりあえず食事を勧めると、エミリーは叩きつけるように返事をしてがつがつと食べ始めた。
 せっかく近頃はマナーに沿った食べ方が板についてきたというのに、まるで昔のような食べっぷりだ。

 だが、ロイドはそれがなんとなく懐かしくなり、頬を緩める。
 そして、自分も食べようとまた一口頬張るのであった。

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コメント

  • 330284【むつき・りんな】

    国斬りと言う名もあるのかな?

    0
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