魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

17 ぼく、魔術師だよ

 ロイドはグリフォンの振り撒く風を風魔術で相殺。さらにグリフォンの顔面まで突き進み、顔面に風を纏った短剣を振り下ろした。

 それにカインは驚いているようだが、それも仕方のない事だろう。
 
 ロイドが『恥さらし』と呼ばれる所以は彼が魔法適正が無い事にある。それはつまり、魔力をいくら持とうと魔法が使えない事を示すからだ。
 そんなロイドがグリフォンの風を突き抜けて顔面を叩き落としたのだ。それは驚くのも仕方ない。

 だが、それよりロイドは地面に叩きつけたグリフォンを見ながら悩んでいた。

(つい風魔術使っちまったわ……どーしよ、学園では身体強化だけていくつもりだったのになー)

 ロイドは魔法は使えない。が、代わりにひとつのスキルーー『魔術適正』を有していた。

 人族の基本的に5つの魔法適正を持ち得る。身体魔法、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法だ。
 さらに、ごく稀にではあるがスキルという能力を持つ人族もいる。

 スキルは様々な種類があるが、中には特殊魔法――”5つの魔法適正以外”の魔法に適正を持たせるものもある。
 例えばラピスの『破壊魔法適正』もこれにあたり、本来は魔族特有の破壊魔法に適正を持つ事が出来るというスキルになる。

 だが、ロイドのスキルはそういった特殊魔法に対する適正ではなく、そもそも魔法とは違う。
 魔法という技術が当たり前に使われるようになる前、今は失われたとされる古代に発展していた技術ーー魔術に適正を示すスキルなのである。

 魔法と魔術は似て非なる技術体系であり、現在の魔法技術の観点から見ればロイドは間違いなく”魔法は使えない”のだが、それと近い性質であり上位の力を持っているのだ。

(んー……でもなぁ、さっきのでこの程度のダメージだと身体魔術だけじゃキツいしなー)

 だがその事であまり騒がれる事で本来の目的である『学園の探索』に支障が出るのは避けたい為、出来れば隠しておきたいの考えていた。
 ロイドが『魔術適正』のスキルを有していると発覚した際、万が一だが魔術の存在が知れ渡れば、悪用しようと考える輩もいるだろう、と家族も言っていたのもある。

 もっとも、言われた当時はともかく、今はある程度の危機は対応出来ると思ってるのでそこまで必死に隠している訳ではないが。

(まぁいっか。使おっと。鈍っても良くないし、正直身体魔術だけじゃ勝てる気せんしな)

 ロイドは着地するまでに決断を終えると、着地と同時に即座に風魔術を再発動。
 体に纏うかのように風を発生させ、併せて身体強化を発動させる。

「クォァアアッ!!」

 その風に触発されるかのようにグリフォンがガバっと顔を上げる。
 巨大な体躯から漏れ出すような魔力は風魔法へと変換されているのか、その巨大を覆うかのように風が吹き荒れ始める。

「んおっ、『突風』かねーありゃあ」

 ロイドはその風が風魔法『突風』だと判断。
 ロイドの経験上だが、魔物も個体によっては魔法を使うがあまり多種多様な魔法を使う個体はいない。基本的に1つから3つ程度と見ていいと言える。

「んー、よいしょっ」

 気の抜けた掛け声と共にロイドは風魔術をグリフォンに放つ。と言っても攻撃的な風ではなく、むしろ緩やかさすら感じさせるものだ。

「クォ?クォオオオッ!?」

 その風がグリフォンに纏わり付くように広まると、グリフォンの『突風』が徐々に消えていく。
 『突風』を邪魔するように絡めとり、相殺したのだ。
 
 それに混乱するグリフォンは叫びながら更に魔力を込めるが、それも虚しく『突風』はついにはただの微風程度になってしまった。

「よっしゃチャンス。んじゃ行くぞー」

 風の鎧を剥ぎ取られたグリフォンにロイドは突貫。
 狼狽しているグリフォンに構わず今度は顔面を下から突き上げる。

「ギャォッ!?」

 顎をかちあげられたグリフォンは短い悲鳴を上げる。が、やられっぱなしではいられない。
 ロイドがいた場所に前脚を振り抜く。空中に飛び出しているロイドに躱せないと判断したグリフォンは渾身の力を振るうが、

「遅いぞー」

 前脚は空振り。
 予想外の手応えに慌てて下を向こうとするグリフォンの視界に居ないはずのロイドか映る。

「っ?!」

 目を見開くグリフォンに、風を使って飛翔したロイドは風を纏った短剣を振り下ろした。

 それは先程と同じ攻撃だったがーー結果は違った。

「グォアッ!」

 先程より低い悲鳴を上げるグリフォン、その額からは大量の血が溢れていた。

「よーし」

 ロイドとしては先程の攻撃でダメージを与えれなかった事が気になっていたらしい。
 先程とは違いかなりの力を込めた一撃をやり直し、ダメージを与えた事に満足気だ。

「おっけ、んじゃトドメとするか」
「ま、待て!殺すな!」
「んぁ?」

 満足したし始末しよう、と流れるように構えるロイドにカインが叫ぶ。
 首を傾げて振り返るロイドは、しかし魔力は練り上げたままだ。

 振り向いてはいるものの実は聞く気がなさそうなロイドに、カインは慌てて言葉を重ねる。

「殺すなよ?!そいつは『森の番人』、スァース大森林には必要な魔物なんだよ!」
「あー、食物連鎖が崩れる的なやつね」

 納得したロイドはグリフォンを見据える。
 そこにはダメージを与えたとはいえーーいや、与えたからこそより敵意と力を漲らせた姿があった。

 ロイドとしてはグリフォンが魔術によって油断した隙にゴリ押しで倒したかった。
 本来、そう簡単に倒せる相手ではないのは理解していたからだ。
 
 与えたダメージも致命傷どころか戦闘に支障をきたす程ですらない。
 その証拠を見せつけるかのように、グリフォンは先程までとは比べ物にならないプレッシャーをその巨躯から放っていた。

「でもよ、どーすん、のっ?!」

 ロイドの質問を途切れさせるようにグリフォンは前脚を振るう。
 先程よりもコンパクトに振るわれたそれは、力よりも速さに重きを置いた攻撃。
 
 ロイドの素早さにグリフォンが対応しようとしているのだ。

「うわっと、おっ、とっ、とっ!」

 ロイドは反撃すら出来ずにグリフォンの攻撃を躱していく。
 かろうじて回避出来ているものの、短剣で受けるには大きすぎる体格差と、スピード重視の攻撃。受ける事は勿論、スピードを重きに置いたロイドをもってさえ攻撃範囲から抜け出す事が出来ずにいた。

「本当は隙を見て逃げ切りたかったけどな。仕方ない、気絶させるしかねぇだろ!」

 そんなロイドにカインは答えつつ駆け出す。
 溢れ出す魔力を練り上げて魔法へと変換し、猛威を振るうグリフォンへと叩き込む。

「『炎砲』!」

 詠唱破棄で放たれた炎は、レーザーのように直線状に伸びる。
 完全にロイドに標的を絞っていたグリフォンはそれを回避する事が出来ず思い切り顔面にそれを食らった。

「ギャォアアッ!」

 狙ってから否か、その炎はロイドが斬りつけた額に直撃。
 切り傷に火傷を重ねられ、あまりの痛みに叫ぶグリフォンにロイドは同情の眼差しを送る。

「うわぁ、えげつな。カインさん悪魔っすね」
「うるせぇ!お前どっちの味方だ?!」

 なぜか責められるカインは青筋を浮かべて叫びつつも、追撃の手は緩めない。

「おらぁっ!」

 カインは無詠唱で発動した火魔法『火球』を自らの足元で破裂させ、その反動で大きく跳躍する。
 そして先程のロイドのようにグリフォンの上をとると、さらに素早く詠唱した魔法を発動させる。

「ーー……『崩炎壊』っ!!」

 上級火魔法『崩炎壊』。一点に超火力を集中して爆破する高威力の魔法だ。
 下手な魔法師が使ったとしてもそれなりのダメージが見込める強力な魔法だが、カインのそれには通常とは比べ物にならない魔力が込められていた。

 それを直接グリフォンの頭に叩き込めば、さしものグリフォンといえど大ダメージは必須。
 が、あえてカインはその発動する座標を調整。グリフォンの頭部からほんの少し離れた空中を激しく爆破させた。
 
 その結果、グリフォンは爆破自体のダメージは比較的少なく、代わりに爆発の衝撃波を頭部に響かせる。
 それにより脳が揺れたのか、グリフォンは叫び声を上げる間もなく意識を失った。

「おぉ、やるなー」
「ふん、これくらい訳もない……と言いたいが、このバケモノくらいになるとすぐ目を覚ますだろうな……」

 ロイドもカインも上手く隙をつけた事で割と簡単に無力化が出来た。が、もし始めから油断なく攻められればこうはいかなかっただろう。
 ひとえにグリフォンが長く戦う事が無かった事も勘が鈍る要因かも知れない。

 そしてグリフォンのタフネスを考えるとあまり悠長にしている余裕はない。
 
 だが、カインのスマートな戦い方にはロイドも思わず感心を抱いた。
 立ち去るよりも先に、その手際にロイドは嫌味もなく賛辞の言葉を口にしていた。
 カインはその言葉に当然のように頷くと、鋭い目付きでロイドを見据えた。

「ん?なんだよ?睨むなよコエェな…」
「お前、何者だ?何を隠してやがる?」
「え?俺?」

 惚けるロイドに、しかしカインは言い訳は許さないとばかりに鋭い眼光を緩めない。
 その視線にロイドは諦めたように溜息をついて、ゆっくりと口を開く。

「はぁ……俺、魔術師なんだよね」

 その言葉に、カインは目を瞠った。

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